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2019/7/24 18:00

【畠山健介✕JICA その2】 “ラグビー不毛の地キルギス”での青年海外協力隊員の普及活動に驚愕!

ラグビーワールドカップ2019開催都市特別サポーター(東京)を務める元ラグビー日本代表の畠山健介選手が、JICAのスポーツ国際貢献について紹介する当企画、第1回のJICAの国際スポーツ貢献の紹介に続いて、今回は実際に青年海外協力隊員としてキルギスで2年間ラグビーの普及活動を行った久留米陽平元隊員と対談を行いました。久留米元隊員が「行ってみたらラグビー不毛の地でした」と語る、ほぼゼロからのスタートとなった普及活動はどんなものだったのか。そして久留米元隊員とキルギスの子どもたちが起こした小さな奇跡とは――。

 

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聞き手はこの方

畠山健介選手

はたけやまけんすけ。1985年生まれ。宮城県出身。小学2年生でラグビーを始め、仙台育英高校時代には3年連続で花園に出場。高校日本代表、U-17日本代表にも選出された。早稲田大学では全国大学選手優勝にも貢献。2008年サントリーに加入し、11年に日本代表に選出され、代表キャップ(出場回数)は歴代4位の78。17年から日本ラグビーフットボール協会の代表理事に就任。19年サントリー退団。現在は自身の海外チャレンジも視野に入れながら、ラグビーワールドカップ2019の開催都市特別サポーター(東京)を務めるなど、ラグビーの普及に尽力している。

 

【畠山健介・ラグビー元日本代表×久留米陽平・元青年海外協力隊員対談】

スポーツには無限の可能性がある!

青年海外協力隊隊員として2016年からの2年間、キルギスでラグビーの普及に取り組んだ久留米陽平さん。「ほぼラグビーを知らない人たちしかいない」という国で、いかにして彼は普及に取り組んだのか、その奮闘ぶりを語っていただきました。

 

↑「現地で頑張っている人が一番偉い!」と畠山選手が敬意を表すると、「目標となる選手がいるから頑張れるんです」と恐縮する久留米さん。お互いにリスペクトの気持ちを表明しつつつ対談は始まりました――

 

畠山 なぜ青年海外協力隊に応募しようと思ったんですか?

 

久留米 大学を卒業してもラグビーに関われる道を探していたとき、本当に偶然なんですけど、父が「こういうのがあるぞ、ラグビーでJICAの青年海外協力隊に参加できるらしいぞ」というのを教えてくれて。

 

畠山 すごく理解のあるお父さんですね。普通「お前ちゃんと仕事を見つけろ。社会のことは一回働かないと分からんぞ」って。

 

久留米 父の職業が特殊で、落語家なんですけど。それで「ええんちゃう。やってみれば」みたいな感じで教えてくれて。で、応募したら合格しました。

 

畠山 ということは2015年(前回のワールドカップが開催された年)には行くことは決まっていた。

 

久留米 そうなんですよ。ワールドカップ直前に決まって、それでワールドカップを見てさらに盛り上がって!

 

畠山 そう言ってもらえるとすごくうれしい(笑)。

 

久留米 南アフリカ戦は本当に感動しました(当時世界ランキング3位の南アフリカに日本が34-32で勝利)。大学のラグビー部のみんなで観戦してたんですが「行けるぞおい!」みたいになって。逆に畠山選手に聞きたかったのですが、日本代表としてプレーをしていて、プレッシャーはどうだったんですか? 日本を背負ってグラウンドに立つというのは、どういう気持ちなんでしょう。

 

畠山 出ていた選手が31人いるから、31人分の1の意見だけど、日本はそれまで1勝しかしたことなかったから、逆に失うものは特になかったかな。ただ、エディ(・ジョーンズ監督)もよく言ってたのは、「ジャージを着る意味を考えろ! これを着られるのはすごく誇りだし、着たくても着られない仲間もいる。それを着て戦うお前らが、変なプレーをしていたら恥ずかしいだろう」と。でも成績とか結果としては、僕らは失うものは何もないから、そこは思いっきりやってやろうという感じですね。

 

久留米 僕だったらすごく恐怖を感じるだろうなと思うんですよ。

 

畠山 その気持ちは絶対必要。怖くなかったらダメだと思うし、逆に怖いからしっかり頑張ろうと練習もする。これで大丈夫かと不安になることは決して悪いことじゃない。ただそのプレッシャーとか、ワールドカップでいざ南アフリカとやるとなったときは、本当にどうなるか分からなかったですね。周りなんか、「絶対それはもう南アフリカが勝つでしょ」っていう空気だから、そういう状況で自分たちがやってきたこととか、仲間を信じることって、容易じゃなかった。

 

久留米 すごい重圧でしょうね。

 

畠山 それってやっぱり、気持ちがすごく重要ですね。後で話そうと思ってたんだけど、スポーツってそういう自信とか、成功体験とかが重要だし、久留米さんの立場から言えば開発途上国の人たちに必要な心構えとか、ルールとかを伝えることも重要だろうし。みんなで頑張らないと、何かは動かせないし、達成できないよというのを疑似的に教えてくれるから。スポーツって本当にものすごい可能性があるんです。そこでやっていた久留米さんは、本当にすごい経験ができているんだろうなというのを最後に言いたかった。本当は締めに言おうと思ってたんですけどね(笑)。

 

久留米 はい、自分でもキルギスではものすごくいい経験をしたと思いますね。

 

「俺は絶対できない、それはヤバいやつだ!」

その後協力隊員としてキルギスに到着した久留米さん。体育大学でラグビーの指導を行う予定でしたが、それまでいたメンバーは経済的な理由でラグビーを続けられなくなり、違う国へ出稼ぎに出るなど、そこには誰も残っていませんでした。

 

久留米 行ってみたら不毛の地でした。ラグビーとかまったく知らないという国だったので、ラグビーボールを初めて見た子は「このボール不良品や」みたいな。まん丸じゃないボールを初めて見た子ばかりだったので、ゼロから一を作る普及活動がメインでした。近所の高校生とか中学生に声かけまくって、「ラグビー知ってる?」「ラグビーってこういうボールを使って遊ぶんやで」って。公園で一緒にラグビーを4人くらいでやり始めて、それをどんどん広げていきました。

 

畠山 すごいですね。絶対できないわ。声かけまくって「ラグビー知ってる?」ってヤバいやつだ(笑)。「キルギスに日本から来たヤバいやつがいるぞ」、みたいな。

 

↑キルギスの地方の学校のサマーキャンプでラグビー体験教室を行う久留米隊員

 

久留米 確かにヤバいやつなんですけど、キルギスって親日国家で、日本のことがむっちゃ好きなんですよ。マンガとアニメ、日本人も大好きで。日本人というだけで寄ってきてくれたりして、これはありがたかったです。「日本人でよかった」と誇りに思った瞬間でした。

 

本当にちょっとずつ広がって、最終的には15人くらい集まりました。練習して試合にも出れるようになって、最後は隣の国のカザフスタンでアジアチャンピオンシップ、U-18の大会があって、そこにキルギス代表として出場してウズベキスタンに勝って活動が終わるみたいな。

 

畠山 もう完全にドラマじゃないですか!

 

久留米 自分でも、リアルな『スクールウォーズ』みたいな感じなのかなと思ったんですけど。

 

畠山 めちゃめちゃカッコいい! 子どもたちものすごい喜んだでしょ?

 

久留米 僕はめちゃくちゃ喜んだんです、「お前らマジすごいな!」って。でも子どもらは「まだまだじゃね?」って。ウズベキスタンには勝ったんですけど、カザフスタンには負けてしまって、「まだまだ行けるんじゃないか」みたいな。それを見て、大丈夫だなと、「勝手にやるなこの子たちは」と思いました。

 

 

2年の活動で得たものは

畠山 そういう国で2年経験して、日本に戻ってきて心境の変化というのはありました?

 

久留米 いろいろ考えるようになりましたね。目に見えているものがすべてではないというのが、考えられるようになりました。例えば怒っている人がいます。昔だったら「なんで怒っているんやこいつ」って思うだけだったんですけど、その怒りの裏にはなにかがあるんだろうなと。

 

畠山 なにかがあるんですよねきっと。

 

久留米 ということを思えるようになりました。

 

↑一緒に活動をしてU-18の大会に挑んだ仲間たちと。後列左から2人目が久留米隊員

 

畠山 将来の目標というか、夢というか、ありますか?

 

久留米 もっと日本でラグビーが普及してほしいです。もっとみんなに知ってほしいと思っているので、いま子どもたちがスポーツやりたいなと思ったときに、選択肢の一つとしてラグビーが自然に入ってくるような環境であればいいなと思っています。そういう環境を作りたいですね。

 

畠山 そう思ってくれる若い世代が、プレーヤー以外にもいてくれるのはうれしいし、心強いですね。そういう人が海外を経験して、いろんなことを勉強してまた日本で活動してくれるのはすごくうれしいから、これからも心から活躍を期待しています。

 

久留米 私も今日お話できて、畠山選手のようなトップの方が、スポーツで国際協力をすることに興味を持ってくれたということがそもそもうれしかったです。私自身はプレーヤーにはなれなかったんですけど、でもやっぱりラグビーが大好きだし、ラグビーに関わって生きていきたいと思っているので、そういうふうに言っていただけて、それはもう光栄です。今日は本当にありがとうございました!

 

久留米陽平 元青年海外協力隊員

くるめようへい。1993年生まれ。京都府出身。西京極中学でラグビーを始め、京都成章高校では花園にも出場、明治学院大学卒業後、独立法人国際協力機構の青年海外協力隊員として2016年7月から2年間、中央アジアのキルギスの国立スポーツアカデミーでラグビーの普及活動に取り組んだ。帰国後は19年6月までJICA横浜・市民参加協力課に勤務。現在は公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会所属。

 

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