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2019/7/26 18:00

【畠山健介✕JICA その3】マダガスカル ラグビー女子セブンズ代表の改革に挑む青年海外協力隊員に共感!

6月下旬、岐阜県郡上市。マダガスカルのラグビー女子セブンズ代表が「郡上グローバル ラグビー女子セブンズ大会」のために来日、試合を前に代表合同合宿を行いました。東京オリンピックへの出場を目指す同チームには、一人の日本人コーチの姿が。JICA青年海外協力隊員としてマダガスカルで奮闘中の中野祐貴さんです。

 

そしてその練習を見守るのはラグビーワールドカップ2019開催都市特別サポーター(東京)を務める元ラグビー日本代表の畠山健介選手。長く日本代表として活躍してきた畠山選手は、「ブライトンの奇跡」と呼ばれる2015年ワールドカップ南アフリカ戦の出場メンバーです。今回は、畠山選手と中野隊員が、マダガスカルのラグビー事情、裾野の広がりやラグビー国際協力の意義について語り合いました。

 

↑JICA青年海外協力隊員としてマダガスカルで活動中の中野祐貴隊員(左)と畠山選手(右)

 

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「お金がないから何も変わらない」が彼女たちの本音!?

大学卒業後、商社に勤めながらもラグビーに携わりたいという思いが消えなかった中野隊員。ある日、スポーツによる国際協力を行うJICAの青年海外協力隊の存在を知り、応募することに。そのときのラグビーでの募集は1件だけ、「もっと優秀な人がいて、自分ははじかれるんじゃないか」と中野隊員は思っていたそうですが、見事合格しました。

 

畠山 マダガスカルって、僕は映画の『マダガスカル』しか知らない。動物がたくさんいるぐらいしかイメージできないんですけど。そもそもラグビーは盛んなのですか?

 

中野 アフリカというだけで、僕も同じようなイメージでした。でも、驚いたのは、ラグビーが盛んだったことです。人口約2250万人のうち7万人がラグビー経験者で、そのうち約3万人が女性です。

 

畠山 国民性や、マインドの部分はどうですか?

 

中野 マダガスカル人はとてもシャイです。日本人に似ていて、「意見がある人~?」と聞いても誰も手を上げないし、黙ってしんどい練習にもついてきますね。彼女たちのモチベーションは海外に行くことなんです。代表になれば、「ウーマンズセブンズ」を開催しているチュニジアやモロッコ、モーリシャスに行けます。それがなかったらラグビーはやらないかも(笑)。

 

畠山 それは間違いではないと思いますよ。モチベーションは人それぞれだし。海外に出るだけでも、純粋なモチベーションじゃないですか。海外に行きたいから頑張るというのは。

 

↑「選手のモチベーションを高めるためのヒントを畠山選手から得られれば」と今回の対談を楽しみにしていた中野隊員

 

中野 現地の人は、「結局、国自体にお金がないから何も変わらない」と本音では思っています。ワールドラグビーのGIR(Get into RUGBY、129か国2百万人近い男女児童が参加するプログラム)は、団体が主催で予算もかけられるので積極的に行っています。だから、ラグビー経験者は多いのですが、その上のレベルでの受け皿がないんです。

 

畠山 彼女たちの場合、代表である自分たちがそこまで影響力を持っているとは思っていないのかも。結局4年前の2015年ワールドカップの僕たちも、「日本のラグビーに誇りを取り戻すため、ワールドカップで3勝しよう」と。それまで1回しか勝ったことがなかったけど頑張った。彼女たちは海外に出たいというモチベーションはあるから、そこで活躍したらもっとすごいことになる。オリンピックに出て、どこかと戦えば、世界は応援してくれる。彼女たちは、マダガスカルを変える可能性を持っていると思います。

 

中野 今回の大会(「郡上グローバル ラグビー女子セブンズ」)に参加した12人はモチベーションが高いと思いますけど、現地のセレクションでは「誰でも来ていいよ」というスタンスなので、いろんなレベルの子がいます。僕は、強化だけじゃなく、ラグビーの普及や育成も役目なので、なかなかスパッと切れないんですよね。遅刻してくるような子がいても、「もう来なくていい」なんてなかなか言えません。

 

↑こちらはマダガスカルでの練習風景。女子セブンズ代表チームの指導を中心に、1年9か月間、がむしゃらに走り続けてきた

 

真剣になれば、オリンピックにも行ける

青年海外協力隊の派遣期間は基本的に2年間。マダガスカルに来て、すでに1年9か月が過ぎた中野隊員ですが、やはり目標は来年行われる東京オリンピックの出場です。そのため、すでに任期延長の申請を行っているとか。

 

畠山 具体的にはどういった条件でマダガスカルのオリンピック出場が決まるのですか。あとライバルになりそうな国はありますか?

 

中野 アフリカで1位になれば出場確定です。あと、2位と3位は世界大陸で行われる敗者復活で決まります。ライバルはケニアと南アフリカですが、この予選大会くらいしか対戦がないので、自分たちの実力や成長がなかなか分からないんです。

 

畠山 1回しかできないのは確かに辛いなぁ。難しい部分はあると思うけど、そこで勝ったら、彼女たちも成長したという実感が湧いてくる。そこを中野さんがうまくマネージメントできれば、モチベーションはもっと上がると思います。オリンピック出場の可能性はありそうですか?

 

中野 現時点の実力では相当厳しいでしょうね。でも、今回日本に来て、彼女たちの気持ちが変わればまだ可能性はある。本当に彼女たちが真剣になれば、行けると思っています。

 

↑マダガスカルチームの練習を見守る中野隊員と畠山選手

 

畠山 オリンピックがどれだけすごいか、世界で活躍している女性アスリートの映像を、動画だけでもいいので通訳の人に説明してもらって見せるのはどうですか。「君たちが頑張ると、マダガスカルが有名になって、生活もよくなる可能性がある。子どもたちがもっといい教育が受けられるかもしれない」とか。ところで、教えていて一番難しいことは何ですか?

 

中野 言葉とコミュニケーションですね。公用語はフランス語とマダガスカル語です。

 

畠山 中野さんは大学でフランス語を専攻されていたそうですが。

 

中野 大企業に勤めているようなマダガスカル人はフランス語で話します。チームの場合、(高等教育を受けていない)一部の選手たちとはマダガスカル語での会話です。しかも、現地では通訳がいません。

 

畠山 それは大変だ!

 

↑すぐに打ち解けてパス回しを楽しむマダガスカルチームのメンバーと畠山選手。ラグビーに国境はないのだ

 

最大限の努力をして「きっかけ」を与えたい

中野 今回来日した12人のほとんどが母親で、その中の一人が2歳ぐらいの子どもをいつも練習に連れてくるんですけど、「この前、結婚した」って急に言われて。既婚かどうかなんて、プライベートについてなかなか聞けなくて。どこまで踏み込んでいいのか測りかねてるんですよね……。

 

畠山 難しいですね。踏みこめば結束が高まる場合と、土足で荒らされたくない気持ちも分かるから。そこはせめぎあいですね。

前回のワールドカップの前、僕らは基本休みとかなかったので。貴重な休みは家族を大事にしていました。例えば、6月にあった2日間の休みは、家族を呼んでもいいし、自分が帰ってもいいみたいな「ファミリーデー」でした。奥まで踏み込む必要はないと思うけど、「〇〇君元気?」とか、「お子さん何歳になったの。病気はしていない?」とか声を掛けると、喜んでくれるんじゃないですか。

 

中野 なるほど、難しい部分はあると思いますけど、確かに家族の協力は必要ですね。

 

畠山 家族と過ごすと確実にリフレッシュできますよ!

 

中野 ところで、この前JICAオフィシャルサポーターの高橋尚子さんがマダガスカルにも来てくれて、「世界に勝つためには国内の競争を勝たないとダメで、他の選手と一緒の練習だけでは勝てない」という話をしてくれたとき、彼女たちもすごく真剣に聞いていたんです。そのモチベーションが続いてくれることを期待してます。

 

畠山 その国の人たちが何にどう反応するかは重要ですね。例えば、言ってすぐに伝わる人、音で聞く人、視覚化しないと伝わらない人もいる。分かりやすいのは視覚化なのかなと思いますけど。

結局、僕みたいな立場の人間がちょこっと言っても、当たり前だけどマダガスカルを変えられないと思うんです。中野さんが真剣に話して、気づいたマダガスカルの女性たちが変えてくれる。そう信じて活動することかなと思います。彼女たちがいろんな国の文化を知って、いいところだけを取った「Newマダガスカル」として、マダガスカルを変えてくれることを信じて頑張ってください!

 

中野 いまはオリンピックの出場権獲得が一番の目標ですけど、でもそれだけじゃなく、今回のように日本の文化を学ばせてもらって、こういう機会を少しでも作ってあげて、彼女たちが何か変わって帰れることができればいいですね。自分も大それた人間じゃないですけど、最大限の努力をして、彼女たちが変わるきっかけを与えられたらと思います。本日は本当にありがとうございました!

 

↑試合前に行われるニュージーランド代表の伝統の舞「ハカ」に似た、迫力のある息の合った踊りも披露してくれた。選手の年齢は10代から40代まで。今回の郡上での大会は6チーム中3位に終わったが、本番のオリンピック予選はこれからだ

 

【対談を終えて――畠山健介選手】

最初の一歩は「信じる」ことから

ラグビーは、本当に人間力が試されるスポーツです。人もチームも、組織も完璧なんてありません。必ず大なり小なり課題を持っていて、その課題をどう解決していくのか。

 

ラグビーはそういう課題に対して、いろんな役割を持った人たちで協力して、課題を解決していきます。一人で問題を解決している人は、僕あまり見たことがないですね。みんなで協力し合って、課題を解決する。それがチームであり、会社、行政、自治体だったり、国だったりすると思います。

 

ラグビー世界一のニュージーランドのやり方が、日本に当てはまるわけじゃない。日本のやり方がマダガスカルに合うかというと、そうじゃない。その国の風土、慣習、文化、国民性というものが、そのまま顕著に出るのがスポーツです。なかでも、最終的に醸し出される部分は国民性だと思います。

 

4年前に南アフリカと試合をする前、日本が勝つなんて誰も信じていませんでしたが、でも、日本は勝ちました。最初の一歩目は、信じることです。「私たちならできる」と、選手に思わせるのがコーチの一番の役目だと思います。

 

いま、中野隊員が彼女たちと接しているなかで、一人か二人は「ユウキのために頑張ろう」となると思います。そういうのを見て、若い子たちにはそれが文化になり、遅刻も基本的にはしないのが当たり前になる。そういうのを中野隊員の代で作って、次の世代にバトンが渡せたら本当に素晴らしいなと思いました――。

 

↑すっかり打ち解けたところで記念撮影。代表である彼女たちがオリンピックで活躍することが、どれだけマダガスカルの人たちに勇気と自信を与えるか、それができる可能性があることがどれだけ素晴らしいことか。真摯に語りかける畠山選手の話を、真剣な眼差しで聞き入る彼女たちの表情がとても印象的だった

 

 

中野祐貴 青年海外協力隊員

なかのゆうき。1990年生まれ。大阪府出身。中学でラグビー部に入部。高校は大阪工大(現常翔学院)から、関東大学リーグの古豪・中央大学に進学しラグビーに打ち込む。卒業後3年間は商社に勤めるも、ラグビーに携わりたいとJICAの青年海外協力隊に応募。2017年9月より、マダガスカルにて女子7人制ラグビー代表チームを指導するとともに、ラグビーの普及、育成に努めている。

 

畠山健介選手

はたけやまけんすけ。1985年生まれ。宮城県出身。小学2年生でラグビーを始め、仙台育英高校時代には3年連続で花園に出場。高校日本代表、U-17日本代表にも選出された。早稲田大学では全国大学選手優勝にも貢献。2008年サントリーに加入し、11年に日本代表に選出され、代表キャップ(出場回数)は歴代4位の78。17年から日本ラグビーフットボール協会の代表理事に就任。19年サントリー退団。現在は自身の海外チャレンジも視野に入れながら、ラグビーワールドカップ2019の開催都市特別サポーター(東京)を務めるなど、ラグビーの普及に尽力している。

 

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