地球の人口は増え続けており、2050年には90億人を超えると言われています。そうなると問題になるのが食糧。すべての人が現在の食生活を続けていくと、地球にある資源だけでは到底賄いきれないという見方もあります。
そこで、にわかに注目を集めつつあるのが昆虫食。昆虫は良質なたんぱく源として、また肉食に代わるサステナブルフードとして見直されており、特にニュージーランドでは昆虫食の開発が進んでいます。昆虫食の持つ可能性について、ニュージーランドの事例を取り上げながらお伝えします。
昆虫を食べるメリット
有史以来、人々は昆虫を食料として食べてきました。日本でも長野県など一部の地域でイナゴや蜂の子などを食べる風習がありますが、いまでもラテンアメリカやアフリカ、アジアの多くの地域で昆虫は食べられています。また高級食材としても知られている虫も存在し、例えばメキシコのレストランでコオロギのから揚げを頼むと、100ドル以上の値段が付くとも言われています。
そんな昆虫食の最大のメリットは、サステナビリティという立場で見ると環境負荷が少ないこと。例えば、1キログラムのたんぱく質を育てるためにコオロギと牛がそれぞれ必要とするエサの量を比べると、前者が1700グラムに対して後者は1万グラムと、かなりの差があります。また、昆虫はほかの家畜と比べると成長のサイクルが早いうえ、放牧面積を必要としないので、少ない土地で効率のよい成長が見込めます。温室効果ガスやアンモニアも発生しないため、ほかの畜産業よりも地球環境にずっと優しいと言えるでしょう。
昆虫類は栄養バランスにも長けています。昆虫食の代表と言われるコオロギを例に挙げてみましょう。コオロギとほかの家畜類の100グラムあたりのたんぱく質の含有量を比較すると、コオロギは約68グラムもあるのに対して、鶏は25グラム、豚は26グラム、牛は24グラムほどしかありません。しかもコオロギはたんぱく質だけではなく、ビタミンやアミノ酸、脂肪酸や銅、鉄分やマグネシウムなど、多種多様な栄養素を丸ごと含んでいます。
このように昆虫にはポジティブな面がたくさんありますが、どうしても見た目などがよくないというネガティブな面もありますよね。そんなイメージから脱却するために、調理法や生育環境の整備などが求められています。
ニュージーランドの昆虫食ビジネス
そんななか、ニュージーランドのいくつかの企業では、昆虫でできたユニークな食品が積極的に展開されています。
Eat Crawlers社では、サソリ入りの棒付きキャンディーや昆虫を炒って味付けをしたスナック、チョコレートでコーティングしたタランチュラなど、多様な種類の軽食を販売。お菓子だけではなく、コオロギの粉末を練りこんだパスタやコオロギの粉末も取り揃えています。
その一方、コオロギ粉とコオロギの粉末を練りこんだプロテインバーを作っているのがLive Longer社。同社の創始者は、昆虫食に出会うまでは地球環境の存続とたんぱく質の両立は難しいと思っていましたが、昆虫食に出会い考え方を転換。昆虫の栄養バランスや地球環境への負荷が少ないという事実を知ることで、新しい可能性を見出しました。
また、Primal Futureという会社はコオロギ粉を作り、それを使ったプロテインパウダーやコーンチップスを提供しています。コーンチップス一袋を食べると、卵2個半分のたんぱく質が摂取できるそう。食べやすいレシピの紹介もしており、消費者が気軽に昆虫食のよさを知り、馴染めるような配慮がなされています。
牧畜・バイオテクノロジーに関する研究機関・AgResearchが数年前、1300人のニュージーランド人に「昆虫食を食べたいと思いますか?」という大規模調査を行いました。すると、67%以上もの人が「粉ものなら摂取してもよい」、55%の人が「フライの状態であれば食べることができる」と回答。さらに35%の人は「加工があまりされていない丸ごとの状態でも食べることできる」と答えているんです。この調査結果から、ニュージーランド人は昆虫食を前向きに捉えている人が多いと言えるでしょう。
またAgResearchは、昆虫食が糖尿病や心臓病のリスクを下げる可能性についても研究。ある特定の疾病のリスクを下げる可能性が明らかになれば、昆虫食を否定する理由はさらに少なくなります。
そんなニュージーランドでも昆虫食はまだ一般的ではありませんが、スーパーではコオロギ粉で作ったラップサンドが販売される段階に入っています。「虫を食べる」と聞くと多くの人がネガティブなイメージを持ちますが、時代とともに人々の味覚や考え方は変化するもの。人口問題に対する解決策や栄養バランスの観点から昆虫食が見直され、日常の食卓に登場する日もそう遠くないかもしれませんね。