近年増えつつある、社会問題の解決とビジネス目的を組み合わせたソーシャル・イノベーション事業。なかでも、食品ロス問題に取り組むデンマーク発の「Too Good To Go」アプリは、売れ残り食品を個人消費者に格安で販売することで、企業は廃棄食品を削減、消費者は食費を節約、廃棄処理による温暖化ガス発生も防ぐというWin-Win-Win事業のためのツールとして際立っています。
グレタ・トゥーンベリさんによる気候変動への反対運動など、地球温暖化への関心がかつてなく高まる現在、温暖化ガス発生原因の8%にあたる食品ロスの解消に取り組む事業を紹介します。
創業4年で15か国に展開
飲食店や食料品店で売れ残った食品を個人消費者が格安で買い取るプラットフォームを通じて、食品ロス解消に取り組むToo Good To Go。消費者・企業・社会がWin-Win-Winの関係にするというコンセプトで始まったこの事業は、2015年の創業から1年足らずで6か国に拡大し、公式サイトによると2020年1月後半には欧米の15か国で3万7000以上の企業と提携、インストール数は1940万に達しているとのこと。
国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界では人間の消費のために生産される食料のうち約3分の1の約13億トンが毎年廃棄され、3.6ギガトンのCO₂が排出されています。そんななか、同アプリは1月後半末の時点で3000万食近くの廃棄を防ぎ、廃棄過程で排出されるCO₂を通算7万5000トン以上食い止めていると公式サイトに掲載。
また、2019年2月に600万ユーロ(約7億2400万円)を増資して、総資本が1600万ユーロ(約19億円)に拡大するなど、企業としても成長を続けています。この意味で、消費者・企業・社会・自社の4者が「Win-Win-Win-Win」の関係になっているとも言えますね。
成功の一因としては、全国展開の大手企業との提携を進めることにより、消費者へのリーチを一挙に広げてきたことが挙げられるでしょう。提携先の大手企業の店舗がある全都市で、サービス利用が一斉に可能になるためです。
こういった大手企業との新規提携はニュース性が高く、ブレイクの火付け役にもなるという効果もあります。2019年11月にイギリスでは大手スーパーのMorrisonsとの提携が始まり、見切り商品の詰め合わせ£3.09(約430円)に本来なら合計 £32(約4600円)になる食品が入っていたなど、利用者の声が各種メディアで取り上げられ、注目を浴びました。
このような体験談は、利用者間でも熱く語られています。食品ロスに対する意識が高い愛用者を「Waste Warrior(廃棄物と戦う戦士)」と称したイギリスのToo Good To Goのユーザー専用Facebookグループが、ユーザー間およびブランドとユーザー間の2つのコミュニケーションを橋渡しする場になっています。
8割以上のユーザーが女性
2019年に独立調査機関が同アプリのユーザーを対象に実施したユーザー属性調査では、回答者611名のうち女性が85%、男性が13%でした。平均年齢は49.5歳。このようなユーザーたちが個人同士で使用体験や関連情報を共有することで、ブランドロイヤルティが高まるだけでなく、情報発信に熱心なユーザーはToo Good To Goを口コミで広めるというブランドアンバサダー的な役割も果たしています。
公式サイトは利用対象の14か国それぞれの言語に対応し、各国のお国柄に合わせて異なる内容を配信。消費者目線で、「食材を無駄にせず料理するコツ」などといった営業要素のない、食品ロス関連のコンテンツをブログやビデオ、ポッドキャストといった幅広い媒体で発信しています。
消費者に寄り添ったマーケティングが奏功してか、Too Good To Goは各国で飲食関連アプリランキングの上位を飾り、イギリス国内だけでも、競合アプリの「Karma」や「Olio」「FoodCloud」などに対して利用者数で大きく差をつけています。
共同創始者でCEOのMette Lykke氏は、デンマーク出身の38歳の女性。昨年、同国で開催されたWorld Food Summitでは「問題を発見したら解決策を突き止め、世界中に広めることに一生を捧げるのが起業家だ」と語りました。事実、同社の広報・営業活動は、食品ロスを解消するという目的で終始一貫。2020年には「7万5000社の提携企業、5000万人のユーザー数、500の教育機関に関わり、食品生産・流通に関する政策や規制を5か国で変える」という野心的な目標を掲げており、Too Good To Goの勢いは止まるところを知りません。
売れ残り食品と消費者をつなげるというコンセプトのサービスは日本にも存在し、最近では食品ロスの削減の推進に関する法律が施行されるなど、徐々に市民権を得つつあります。南イタリアでも食品ロス撲滅のために若者が中心となってムーブメントを起こしていますが、世界の食糧事情を変えようとしている若い起業家たちの活動からは今後も目が離せません。
執筆者/ 広田 理晶