日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、東京2020オリンピック出場を決めたケニア女子バレーボールチームをサポートしたJICA海外協力隊員の活躍を紹介します!
「勝った瞬間は感激のあまり号泣してしまいました。それを見て選手たちが僕を慰めてくれたんです。『私たちは勝ったんだよ!』と」。そう語るのは、JICA海外協力隊として、ケニアで女子バレーボールナショナルチームの指導にあたっている片桐翔太隊員です。
1月5日からカメルーンで開催された、女子バレーボールのオリンピック予選アフリカ代表決定戦で、ケニアは最大のライバルであったカメルーンに勝利し、見事に2020東京オリンピック出場権を手にしました。片桐隊員は、ケニアチームの仲間とともに母国である日本へと凱旋することになったのです。
バレーボール指導のため2回目のアフリカへ赴任
片桐隊員は山形県の出身。バレーボールを始めたのは、中学生の時です。高校・大学時代を通じて競技を続け、高校時代には全国大会に出場した経験も持っています。大学を卒業した片桐隊員が選んだ進路は、JICA海外協力隊でした。2010年から2年間、アフリカのウガンダに赴任し、現地の小学校で算数と体育を教えました。食べ物の好き嫌いもなく、どこでも寝られるというタフな性格であったため、初めてのアフリカ生活も苦労を感じたことはなかったといいます。
帰国後は、日本でバレーボールスクールの指導の仕事につき、アメリカのニューヨークでもコーチとしての経験を積んでいきます。そんな中で、ケニアのバレーボール指導者としての海外協力隊員募集を知り「これしかない!」と思い、再度、応募しました。
希望がかない、2019年4月からケニアに赴任した片桐隊員ですが、当初は苦労の連続でした。アフリカの選手たちは、身体能力は高いものの、バレーボールをする上での基礎的な筋力が足りなかったのです。代表候補20人のうち、半分ほどの人が腕立て伏せもできなかったほどです。さらに、アフリカの選手たちの中では「トレーニング」という文化がなく、片桐隊員はまず、その意識改革から始めなければなりませんでした。「これだけの身体能力がありながらもったいない。鍛えればもっと強くなる」そう感じたと話します。
指導において力を入れたのは、「このトレーニングをしたら、バレーボールの試合のどんなところに活きてくるのかを具体的に理解してもらう」こと。実践して成果が上がった選手を例に挙げて、少しずつ他の選手にも理解浸透させていく。そんな地道な説明を繰り返しながら指導を続け、ケニアチームは徐々に地力をつけていきました。
そうして迎えたオリンピックアフリカ予選。現在アフリカの女子バレーボール界は、ケニアとカメルーンが2強となっており最大のライバルです。出場5ヵ国による総当たり戦で、ケニアは順調に勝ち進み、3日目に行われたカメルーン戦で勝てば東京オリンピックへの出場がほぼ決まる、まさに大一番を迎えます。
決戦当日、片桐隊員の提案で入念なストレッチとウォームアップを行ってから試合に臨みます。この作戦が功を奏し、序盤から試合をリード。最終的には3-2でカメルーンを下し、最終日のナイジェリア戦にも勝利し、全勝で東京オリンピックへの出場権を手にします。
ケニアバレーボールと日本の長いつながり
実は、ケニアのバレーボールと日本との関わりは古く、最初に日本からケニアへバレーボールの指導者が行ったのは1979年のことでした。それから継続的に日本人による指導が行われ、1992年からはJICAが海外協力隊のバレーボール隊員を派遣するようになります。これまでに延べ14人の隊員が指導に関わり、現在の片桐隊員で15人目となります。
片桐隊員によると、ライバルであるカメルーンの選手は、ヨーロッパのチームで活動している人が多く、ヨーロッパ流の動きをするといいます。一方、現在のケニアチームの動きや戦い方の中には、日本流のバレーボールが見て取れるとのこと。40年にも渡る交流支援の中で育まれた、日本のバレーボール文化が、確実に現地の選手たちの中で根付いているのです。
片桐隊員と選手らは、7月からのオリンピックに向け、すでに始動しています。世界と戦うため、これまで以上の体作りをし、1セットでも多く取れるようにさらなる強化を開始しています。
見事にオリンピック出場を勝ち取った経験から、片桐隊員は「できない理由ではなく、どうやったらできるかを考えたほうが、ポジティブに悩める」と話します。チームでは、フィジカルトレーナーと、データ分析を行うアナリストという役割を担っており、監督や他のコーチとのコミュニケーションを大切にしているといいます。チームの中で欠かせない存在となっている片桐隊員の尽力が、今回の勝利につながったことを「チームの皆も、僕自身も感じられているのが嬉しい」と声が弾みます。東京オリンピックでのケニアチームの活躍が期待されます。
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