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2020/5/5 18:30

Googleも積極投資する「イスラエル発のAI」の大きな開発思想

最先端技術大国としてスタートアップ企業への投資が活発なイスラエル。この国が持つ強みや魅力は「数学を基礎にした技術力」で、AIやIoTの軸となる機械学習技術や暗号理論に長けていることです。これらのスキルが起業にもつながっていますが、国内に市場がないため、リリースと同時に海外市場展開も視野に入れる必要があり、このような技術を渇望しているグローバル企業が活発な投資を行うという構造ができています。

 

本記事では、イスラエルで日本企業との橋渡しやコンサルティングを手がける(株)イスラテックの加藤清司氏に取材した内容をもとに、イスラエルの現状や注目されているテック分野、新たなテクノロジーを持つスタートアップ企業などについて3回にわたりレポート。2回目はイスラエルテックのなかでも特に注目されているAI分野をテーマに、その背景や注目企業について説明します。

 

次のGAFAを生み出す可能性あり! 「イスラエルテック」はなぜ大躍進するのか?

↑イスラエル産のAIが増えそう

 

これまで世界では1950年代〜60年代、そして80年代に人工知能ブームが起きました。現在は第3次AIブームと言われており、イスラエルはその真っ只中にいます。同国のAI関連の投資額は伸びていて、例えば2014年と2018年を比べた場合、AI分野の投資額は約3倍に拡大。また、エグジット(株式譲渡利益)についても増加傾向にあります。

 

さらにAIは分野横断型であるため、関連するテクノロジー分野である「セキュリティ」や「モビリティ」も注目されています。その背景には、もともとイスラエルはこれら分野の基礎技術にも強みがあり、関連スキルが蓄積されていたことが挙げられます。当地では、アメリカ系イスラエル人のジュディア・パール氏が、1980年代後半から統計的・確率的な手法をAI研究に導入し、理論づけした基礎技術の積み重ねを行ってきました。先見性と確固たるバックグラウンドがあるなかで進めてきた取り組みが、テクノロジー環境が整った現在になってようやく花開くことになったのです。

 

また、セキュリティのもとになる技術理論に関しても、イスラエルは暗号学者のアディ・シャミア氏の頭文字が付けられた「RSA暗号」などを生み出しています。この暗号は世界で初めて開発・実用化された公開鍵暗号で、インターネットを使った情報交換が活発化した現在もさまざまな場面で活用されています。

 

イスラエルにおけるAI分野の特徴のひとつは、開発に対する考え方。例えば、新たなセキュリティ技術を開発するとしたら、日本企業は「自動車のセキュリティを開発しよう、スマートフォンのセキュリティを開発しよう」といったシンプルな考え方から着手するのが一般的かと思います。しかしイスラエルでは、「自分たちの未来社会はこうなるだろう。その際に必要となる技術は何か」という大局的な発想で技術開発に取り組むのです。

↑AI分野で動きが活発なイスラエル

 

ここからは、イスラエルで注目を集めているAI分野のスタートアップ2社を紹介しましょう。

 

① 膨大な日常データを迅速に集計・解析しインサイトを発見する「SparkBeyond

「SparkBeyond」は、データ内の複雑なパターンを発見することができるAI機能を備えたリサーチエンジンを構築しています。地球、経済、天気、人口統計など、多様かつ膨大なデータソースに接続し、ビジネスにおける課題を解決するために最適なインサイト(洞察)を提供することが主な役割。

 

エンジンをすばやく動かすためのアルゴリズムが核となっていて、質問や課題に対して、いかに迅速に答えを返すかという部分に特化していることが特徴です。さらに適応型学習のアルゴリズムにより、データの変化に伴って答えを自動的に調整することも可能。例えば医療系の質問をした場合、SparkBeyondのAIエンジンは「こういった症状ならば何%の確率でAという病気に、何%の確率でBという病気にかかっている可能性がある」といった答えを導き出してくれます。

 

また、航空機やドローンといったモビリティ系の課題に対しては、気象データなどをもとに飛行ルートの効率性を改善。飛行ルートが短くてもビル風などでエネルギー効率が落ちたり、往路と復路では同じルートでも効率が変わったりするため、AIがデータを集計してエネルギー効率がもっともよいルートを選び出してくれるのです。

 

Googleにとっても困難なこのようなAI機能を、SparkBeyondは小売りや流通、医療、モビリティなどさまざまな領域で実施しようとしています。

 

② データ量の移り変わりや流れを可視化する「Alooma

Googleが買収したスタートアップ企業「Alooma」は、企業データのクラウドへの移行をサポートし、データを整理してAIエンジンで利用できるようにするサービスを手がけています。IoTなどのデバイスからデータを取得するだけでなく、データ量の流れや移り変わりなどを測定し、それらを可視化することで価値を生み出しています。

 

例えば、自動車やスマートフォンなど複数の通信が必要なデータ流量を把握することにより、データがどこで遅延しているのか、どこでハッキングされやすいのかを知ることができるようになります。また、何か問題が発生したら、Aloomaは、あるエリアにデータが集中しているためなのか、それとも何か別の理由があるのかということを分析し、問題が起きた原因を可視化します。航空機やドローンについても同様に分析可能。

 

このようにAI技術などで先行するイスラエルでは、Googleなどグローバル企業の活発な投資が続いています。技術開発における先見性とバックグラウンドがあったことに加え、課題の対処法や新たな発想に独自の視点を持つという国民性がイスラエルをAI分野で強くしました。この業界において同国は今後も大きな影響力を持つと考えられます。

 

kato

加藤 清司 Kato Seiji

(株)イスラテック創業者・代表取締役。2009年にイスラテックを設立し、イスラエルのハイテクベンチャー企業と日本企業の橋渡しに従事。現地への進出を探る日本企業に向けて情報提供やコンサルティング、調査レポート作成、研修・セミナーなどを行う。現地視察同行や契約・交渉代行も実施し、現地企業の選定支援やマッチングも手がける。約15年にわたる経験を生かした目利き力や幅広い現地ネットワークを通じた交渉力などを有する。
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