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2020/8/13 17:00

東京ガスが「ショッピングサイト」を運営!? 同社のユニークな「SDGs」の取り組みは社会課題解決と価値創造が目標

食品ロスなど廃棄の削減へ貢献するECサイト「junijuni sponsored by TOKYO GAS」を協業~東京ガス株式会社

 

「junijuni(ジュニジュニ)」というサイトをご存じでしょうか。賞味期限が迫っていたり、パッケージの変更や期間限定プロモーションの終了などの理由で、従来は廃棄されていた食品や日用品などを中心に手ごろな価格で販売するECサイトです。商品の価格には、社会課題の解決に取り組む各種団体などへの寄付金も含まれていて、商品の購入を通じてユーザーも社会課題解決に貢献できます。このサイトを開設したのが、都市ガス事業のパイオニアである東京ガスです。

 

社会に貢献できるサービスとしてスタート

「junijuni sponsored by TOKYO GAS」のトップページ 2020年8月3日時点(https://www.junijuni.jp/

「『junijuni』は2019年4月25日にオープン。今年7月で1年3か月が経過した社会貢献型ショッピングサイトです。サイト名は、SDGsの『12:つくる責任、つかう責任』に本サイトの趣旨が合致することから、12(ジューニ)に重ねて、弊社が命名しました」と話すのは、サイト開設初期から携わる価値創造部サービスイノベーショングループの塩田夏子さんです。

 

価値創造部サービスイノベーショングループ・塩田夏子さん

「東京ガスというとガス会社のイメージが強いと思うのですが、それだけでなく、“快適な暮らしづくり”と“環境に優しい都市づくり”に貢献し、お客さまの暮らし全般を支えられる企業になるという経営理念があります。私たちが所属する価値創造部は、そうした理念を踏まえて新しいサービスを考える部署です。 社会課題解決に貢献できるサービスをいろいろ考えていたところ、先行して類似サイトを運営していたSynaBiz様とお会いする機会がありました。近年問題視されている、食品ロスや日用品廃棄の削減に貢献できるサイトということで興味を持ち、協業の話を進めていったのです」 (塩田さん)

 

2018年夏にプロジェクトがスタートし、同社の会員を対象にテストマーケティングを実施。会員へのアンケートを行ったところ、サイト趣旨に対して高い評価が得られたため、オープンに至ったそうです。現在では、さまざまな理由で廃棄されていた食品・日用品などをメーカーや卸などから集めるとともに、消費者である利用客への周知を行っているそう。サービスの運営はSynaBiz社が務めていると言います。

 

メーカー・消費者がまさにwin-winの関係に

このサイトでは、“もったいない”という想いへの解決策が提示されていて、メーカー、消費者ともにメリットが大きいことは一目瞭然です。

 

「『junijuni』で買い物をしてくださるお客さまにとっては、賞味期限間近などの理由があるにせよ、手ごろな価格で商品をお買い求めいただけるということ。さらに、ご自身のお買い物で食品ロスや日用品廃棄の削減と寄付ができるという満足感も得られます。普段のお買い物で社会貢献しているという実感を持てるのです。また、商品をご提供いただいているメーカー様などにとっては、処分対象の商品を出荷できるという点がかなり魅力的だと思います。廃棄するにもお金がかかりますし、何よりも、自分たちが作った商品を捨てるというのは悲しいことです。それをお客さまに届けられて、喜んでいただけているのではないでしょうか。

 

「junijuni」を通じてのメリットの輪(「junijuni」HPより)

弊社にとっても、企業としてSDGs達成に貢献できるだけでなく、こうした新しいサービスを提供していくことで“東京ガスってこんないいサービスを行っているんだ”と感じていただける部分にメリットを感じています。また、東京ガスというブランドに基づく安心感を多少なりとも消費者に持っていただける企業と協業することで、SynaBiz様にとっても、規模拡大の可能性があると考えています」 (塩田さん)

 

ちなみに、ある日の「デイリー注目度ランキング」を見ると、1位:ココアサブレ 2位:クッキーの詰め合わせ 3位:食パン詰め合わせ 4位:焼鮭フレーク……と食品が続きます。インスタント食品、調味料、カップ麺、缶詰、お菓子、ソフトドリンク、お茶、酒類など、やはり飲食類が充実していますが、美容サプリメント、基礎化粧品、シャンプー、芳香剤、調理器具、ドッグフードほか、サイト内で扱う商品の種類はバラエティに富んでいます。

 

メーカーなどから集めた商品を管理する物流倉庫

 

1年間で約1万人が利用し約25万点を販売

そもそも食品ロスの問題は、近年、大きく取りざたされてきました。環境省の資料によると、日本国内の食品ロス(まだ食べられるのに廃棄される食品)は年間 643 万t、廃棄コストも2兆円かかっています。消費期限と違い、賞味期限は必ずしも食べられなくなる期限ではありません。しかし「賞味期限」に対して消費者が敏感なことと、スーパーやコンビニにおける、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶことを防ぐ商習慣が、食品ロスを生む一因と考えられます。こうした課題の解決に「junijuni」は一役買っているわけです。

 

日本国内の食品ロス(「junijuni」HPより。参考:環境省HP)

「“廃棄量何トン分”という形では数値を出していませんが、サイトのオープンから1年間で、のべ約1万人のお客さまにご利用いただき、商品数にすると25万点ほどご購入いただいています。食品だけでなく日用品も販売しているのですが、全体の8割ぐらいは食品。特にジュースやスイーツが人気です」(塩田さん)

 

また先に述べたように、商品の購入と寄付が連動していることでも、社会課題解決に貢献しています。寄付先は、8団体に台風などの災害義援金を加えた全9団体。サイトのオープンから約1年で30万6577円(2020年3月31日現在)を寄付できました。

 

販路に困っている人たちの救世主に

「まだ食べられるのに捨ててしまうのは本当にもったいない。そのような商品を、こうしたサイトで買えて、もったいないを減らせるのはすごいことだし、広めていった方がいい」という会員の声が多いという「junijuni」。開設から1年が過ぎ、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

 

「具体的にはまだ決まっていませんが、在庫に困っている地元企業様や生産者様の課題を解決できるような仕組みを展開できなかと考えています。現状では、新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方が増えているので、『junijuni』を活用していただければという思いから、『コロナに負けない! 生産者・販売者をみんなで応援! 買って応援特設サイト』を設けて、生産者や販売者の皆様をサポートしています」(塩田さん)

新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方向けに開設

新型コロナウイルス感染症対策支援は他にも行っています。5月25日と29日には、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する世帯を支援するフードバンク3カ所に食品を寄贈しました。

 

フードバンクへ寄贈した商品例

「3~5月に『junijuni』の利用者数は増えました。販路を失った生産者や業者が困っている状況をニュースや新聞などが取り上げていて、一般の方たちの意識も高まったのかもしれません。これからも、食品や日用品のロスを救える買い物の仕方に注目が集まるのではないでしょうか」(塩田さん)

 

事業活動を通じて社会的責任を果たす

 

「junijuni」を通して社会課題の解決に向き合う同社ですが、その活動は今に始まったことではありません。近年は、特に持続可能な社会の実現に対する企業への期待や要望が高まっていますが、エネルギーインフラを支える企業として、東京ガスは古くから社会課題の解決に取り組んできました。折しも昨年は、LNG(液化天然ガス)の導入から50年目にあたる記念の年。サステナビリティ推進部SDGs推進グループの森井奈央子さんによると、「51年前、東京ガスが初めて日本にLNGを導入したことも、社会課題を解決した事例のひとつかと思います」とのこと。

 

サステナビリティ推進部 SDGs推進グループの森井奈央子さん

「当時の日本はまさに高度経済成長期。経済成長に伴ってエネルギー需要が伸び、それにより大気汚染が深刻化していました。石炭や石油と比べて環境性の高い天然ガスの導入は、その課題解決に貢献できたと思います。また、天然ガスはカロリーが高いので効率良くエネルギーを供給することができ、エネルギー需要の増大にも対応できました」(森井さん)

 

一方で、社員の意識も高いといいます。

 

「元々弊社の事業は公益性が高いので、自社やお客さまの利益だけでなく、世の中のため、社会のために貢献していこうという創立時からの変わらない考え方があります。現在も、事業を通じて社会の持続的発展に貢献することで、企業としても持続的に発展していく、という考えに基づいて事業活動を進めています」(森井さん)

 

パートナー企業との連携によるサービスの創出

ガス・電気を供給する事業者として、SDGsの「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「11:住み続けられるまちづくりを」に貢献してきた東京ガス。昨年11月には2030年に向けた経営ビジョン「Compass2030」を発表しました。

 

「その中の挑戦の1つが“CO₂ネット・ゼロをリード”していくというもの。気候変動問題が深刻化している中、化石燃料である天然ガスを扱うリーディングカンパニーとして、今後CO₂をネット・ゼロにすることに挑戦していきたいと考えています。また、エネルギー事業だけでなく、より幅広い社会課題の解決に貢献していくためには、パートナーと協力していく必要があります。SDGsの「17:パートナーシップで目標を達成しよう」に該当しますが、個人や法人のお客さま、自治体、NPO法人、有識者、いろいろな方と強みを持ち寄って新たな価値を創出していく予定です」 (森井さん)

 

すでに取り組んでいるサービスが、警備会社と連携した「東京ガスのくらし見守りサービス」です。元々はガスの消し忘れの確認などを利用者に知らせるサービスとしてスタートしましたが、これに付加価値を加え、例えば、ドアの開け閉めをセンサーで確認することで、鍵の閉め忘れや、子どもの帰宅をスマートフォンに知らせることができます。さらに24時間の警備員対応や、保健同人社による健康相談などにも対応。離れて暮らす両親が心配でこのサービスを利用する人も少なくないそうです。

 

ふるさと納税の返礼品にもなっている「東京ガスのくらし見守りサービス」

「エネルギーの安定供給、そして安心・安全な生活を支える街づくりに関しては、これまで通り力をいれていきます。さらに今後は、『junijuni』も事例の1つですが、どれだけ社会的な価値を創出していけるかというところを重視していきます。あくまでも、弊社が目指しているのは持続可能な社会の実現。そこに向かって事業活動を通じて取り組んでいきます。それが実現できれば、結果的にSDGsにも貢献できると捉えています」(森井さん)

 

いまや世界の共通言語となったSDGs。それにより、パートナーシップが生まれやすい環境になったことも確かです。東京ガスは、これからもさまざまなパートナーとの連携により、社会課題の解決につながるサービスを創出していくことでしょう。