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2020/10/7 19:30

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【後編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑現在は横浜創英中学校・高等学校の校長を勤める工藤勇一先生

 

「学校教育とSDGs」をテーマに、2回に分けてお届けする麹町中学校元校長の工藤勇一先生(横浜創英中学校・高等学校校長)のインタビュー。子育て世代も多いGetNavi web読者に向け、後編では、あるべき学校の姿とSDGsの本質についてお話しいただきます。

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

 

学校は何のためにあるのか

前回、学校が抱えている真の課題と、麹町中学校での私の取り組みについて話をしました。実は、「よい学校をつくるためには」と、SDGsの「よい社会をつくるためには」は、同じことなんです。最上位の目標がきちんと決まり、目標を実現するための手段を選べば、その手段が次の目標に変わり、さらにその手段を選ぶことができます。そのときに気を付けなければいけないのが、「手段が目的化しない」こと。手段が目的化すると、上位の目標の実現を損ねてしまうことがあります。この一連のプロセスを確実に行うことさえできれば、学校や社会は必ずレベルアップすると考えます。

↑最上位の目標を明確にし、それを実現するために手段を考える

 

そしてこれを進めていくにあたって重要なことが、「全員を当事者にする」ということ。責任を明確にしたり、何か権限を与えたりすると、人は自分事として捉え、考えて行動するようになります。もちろん、合意・共有できる目標でなければいけません。それがなければ、自分の意見や価値観を押し付け合うだけになってしまいます。そして繰り返しになりますが、「目標と手段を明確する」ことが重要です。常に「何のため?」と目標に立ち返り、手段の目的化が起こらないようにします。しかし、残念ながら日本の学校の多くはこうした一連のプロセスのスタート地点にすら立っていないと言わざるを得ません。

 

麹町中学校が掲げる最上位の目標

麹町中学校で最上位の目標(教育目標)として掲げているのが、「自律」「尊重」「創造」ですが、これは、OECDが2030年という近未来をイメージし示した教育の目標ともよく似ていると感じています

↑OECDのLearning Framework 2030と麹町中学校の教育目標

 

そもそも学校とは、子どもたちが将来、社会の中できちんと生きていけるようにするための準備期間だと考えます。そして、学校のもう1つの役割がよりよい社会をつくっていくことだと考えます。誰一人取り残すことのない社会を創り上げることは、容易いことではありません。一人ひとりを尊重していこうとすることは、当然ですが利害関係の対立が生まれるからです。しかし、対立を乗り越え、学校の中の社会を長期的視野に立ち、全員が持続可能な方向でみんながOKと言えるものを見つけ出す。それこそが学校で学ぶべきことだと私は考えます。まさにSDGsの理念です。

↑本当の意味での教育の最上位目標はSDGsと同じ

 

それを実現していくために必要なことが対話です。「みんな違っていていい」と「全員がOK」(誰一人取り残すことのない)は相反する概念ですが、これを両立させることを目指していく対話です。

↑対話によって全員がOKなものを導き出すのが民主的な考え方

 

民主的なプロセスが必要

この対話のあるべき姿について例を挙げて考えてみましょう。わかりやすいのがスポーツの世界です。学校で行われる運動会や体育祭をイメージしてみましょう。例えば、「体育祭であなたにとって何がいちばん大事ですか?」と質問すると、日本の学校の多くの子どもたちからは、すぐに「団結」「チームワーク」「協力」などという答えが返ってきます。

↑みんな違っていてよい。全員がOKなものを探し出す

 

しかし、社会全体の価値観を共有するとき、自分の価値観を他者に押し付けてしまうことはできません。誰一人取り残すことのない価値観を共有することが大切です。人にはそれぞれ個性や発達特性があり、そもそも協力したりするのが苦手な子どもがいたりするからです。対話をするときに重要なのは、1人ひとり異なる価値観を認めつつ、全員にとって何が一番大事なのかを考えるということ。そうすると、自分の価値観では「団結が大事だと思うよ」と言う人も、「あいつは団結って言わないよな」「あいつは1人でいるのが好きだしな」「あいつは勝負にもこだわらないし」となるわけです。そうなると、「全員がOK」というものはめったにないとわかります。

 

「運動を楽しむ」ならどうでしょうか。これならみんな否定しないのではないでしょうか。スポーツは障がいがあってもなくても、運動が得意でも苦手でも楽しめるもの。生涯の友達みたいなもの。自分の人生を豊かにしてくれるもの。そんなことが粘り強く対話を続けていれば、必ず見つかってくるのだと私は思います。そして「運動を楽しむ」ことを、全員が共有する最上位の優先すべき目標だと合意ができれば、それを実現するための手段が的確に選択されていくのだと思います。

 

麹町中学校でのSDGsの教え方

麹町中学校では、SDGsという言葉こそ使っていませんが、SDGsの基本的な考え方を、体育祭と文化祭で教えています。体育祭の最上位の目標は「全員を楽しませよう」。生徒1人残らず楽しませるというミッションを与えるんです。生徒1人残らずというのは、足に障がいがあって走れない子、集団行動が嫌いな子、運動が嫌いな子、そういった子もすべてを含みます。逆に運動が得意だったり、目立ったりするのが好きな子もいます。「どんな生徒も楽しめる体育祭」というミッションを、子どもたちは対話をしながら解決していくわけです。

↑どんな体育祭にするか、みんなで話し合いを行う

 

ブレストやKJ法、マインドマップなど話し合いの技術や、プレゼンのコツなどは教えますが、あとは子どもたちが考え、自由に決めていきます。当日の運営もすべて子どもたち任せ。それを保護者も受け入れてくれています。

 

文化祭になるとさらに難しくなります。「次は社会を広げるぞ。見に来てくれる人がいてなんぼだから、観客の皆さんを全員で楽しませろ!」と。そうすると、地域のおじいちゃんおばあちゃん、小学生、家族、先生たち、全員を楽しませるわけですから、さらに多様な人を相手にしなければいけません。難題ですが、子どもたちは真剣に取り組みます。これらが、子どもたちがSDGsを学ぶための基盤になっています。

↑麹町中学校の文化祭の模様

 

みんなが違っていいけど誰1人取り残さない

このように、目標を定めるための対話こそが大切ですが、この対話が今の日本の教育ではほとんどなされていないように感じています。結局、あらゆるところで大人の価値観を押し付けてしまっています。相反することが起こった場合に、みんなが当事者となり、将来のことを考えて上位の目標で合意するには、痛みを分け合わなければいけません。スウェーデンでは、小学生のころから、学校で来年度の予算について対話で決めるそうです。子どもですから、当然、「あれ買いたい」「これ買いたい」となりますが、全員OKのものを見つけ出すことを目指し、安易に多数決をとることなく、話し合いを続けていくのです。誰1人取り残さないようにする方向で徹底して対話するこの経験が子どもたちの当事者意識を高めていくことにつながっていくのだと思います。

 

SDGsの本質を理解する企業とは

企業も同様かもしれません。SDGsを掲げている企業が多くありますが、SDGsの本質を理解している企業ばかりではないように思います。

 

以前、株式会社IHI(旧石川播磨島重工業株式会社)の元代表取締役だった斎藤保さんと対談をさせていただく機会がありました。同社は元々造船の会社でしたが、現在は資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を手掛ける総合重工業グループとなっています。企業が生き残れた理由について斎藤さんは、「企業の場合、最上位の目標は経営理念にあります。IHIの経営理念のひとつは『技術をもって社会の発展に貢献する』です。それを徹底していけば、組織を倫理的にきちんと進めていくことができます」と話していました。これこそがSDGsの考え方だと私は思います。

 

 

私の好きな経営者の一人に本田技研工業を創業者、本田宗一郎さんがいますが、彼の意志を継承した“ホンダイズム”という理念に「そこで働く人たちと共に社会貢献していく」ような考え方があります。ホンダは海外に工場を建設した際、現地の人たちと経営方法や仕組みを考えていくそうです。工場の排水が環境問題となった場合、排水を浄化するシステムまで開発し、それを地域の農作物用に利用するなど、現地の人たちを当事者にして課題解決に努めています。まさにSDGsそのものです。

 

先に民主的な考え方を学ぶべき

これからの日本、そして地球には解決していかねばならないさまざまな問題が待ち受けています。どの問題も人は自分のことを優先してしまうから、解決は容易くはありませんが、これを解決していく方法は粘り強い「対話」です。利害の対立を乗り越え、持続可能な社会を目指して合意する。このことを繰り返していくしかないのです。

 

最も大切な究極の目標は平和ですが、私は生徒たちにこう言います。「対話を通して持続可能な平和な世の中を作るという戦いに負けたら人類は滅びるんですよ」と。

 

先に、麹町中学校ではSDGsという言葉は使っていないと言いましたが、子どもたちは「あぁ、これがSDGsのことなんだ」と、たぶん本質的にわかっていると思います。「みんなが違う意見を言えば対立が起こるものだよ」「その対立が起こったときに対話をして、みんながOKのものを探し出すことが大事だよ」と教えているからです。

 

まさに民主主義の考え方なのですが、日本の教育は、民主的な考え方を学ぶ教育が浸透していません。それができてこそSDGsの本当の意味がで理解できるのではないでしょうか。

 

日常からSDGsの理念を体得

前編冒頭で「18歳意識調査」に触れましたが、子どもたちを含め、我々に最も足りないのは当事者意識です。SDGsを「どこか遠い国の話」だとか、「限られた優れた人たちの話」「意識の高い人たちの学問」みたいな捉え方をしていませんか。

 

国連がSDGsで示した、10年後の2030年。もしかすると日本社会は本当の意味で岐路にたっているかもしれません。そうならないために、学校は変わらなければならないと私は思います。

 

学校の中で起こる日常的な人間関係のトラブル全てが、実はSDGsを学ぶ場だと私は思います。生徒はもちろんですが、職員室、PTA活動の中で、まずは大人自身が対話を通して合意することができるようになる必要があります。SDGsという言葉は便利で、ひとつの切り口としては使いやすいかもしれません。でも、まずは自分たちの生活の場で、SDGsそのものの考え方、基本的な理念を体得することこそが大切だと思います。

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

 

 

 

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