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2021/1/6 6:00

新型コロナで変わった旅のカタチ。イタリアで流行る「安・近・短」な巡礼路ウォーキング

現在、イタリアの旅行業界ではスローツーリズムといわれる巡礼路ウォーキングが注目を集めています。ヨーロッパで最も有名な巡礼路はフランス各地からスペインに向かうサンティアゴ・デ・コンポステーラで、出発地点にもよりますが、その距離は数百キロを超えることも。ところが、最近のヨーロッパでは国境や州を超える長距離巡礼路は人気が低下し、その代わりに地元の短距離コースが人気となっているようです。

 

短距離巡礼デビュー者が増加

↑いまこそ巡礼デビュー

 

イタリアの大手出版社「Terre di Mezzo」の調査によると、2020年1月から9月末までに欧州の14の巡礼路が発行した巡礼証明書は3万通弱でした。前年の同時期と比べると32%減となっていますが、なかでも長距離の巡礼で知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラが発行した証明書は、85%の減少を記録しました。

 

しかしその一方で、2020年夏に巡礼路デビューを果したイタリア人は増えています。同社が行ったオンライン調査には巡礼路を歩いた経験を持つ3000人超のイタリア人が参加しましたが、30%は今年の夏に初めて巡礼路を歩いたと答えています。

 

イタリア国内にはまだあまり知られていない巡礼路が多く、大自然や遺跡を見ながら歩ける巡礼はまさにコロナ時代のツーリズムにふさわしいと考えられたようです。調査によれば、イタリアのなかでも居住する州や近隣の州にある巡礼路を歩いたという人が53%にのぼり、国外の巡礼路を歩いたのはわずか5%でした。

 

人気だったのはエミリア・ロマーニャにある「ヴィア・デッリ・デイ(Via degli Dei)」、世界遺産の街マテーラを含む南イタリアの「ヴィア・ペウチェタ(Via Peuceta)」、サルデーニャ島にある「カンミーノ・ミネラーリオ・ディ・サンタ・バルバラ(Cammino minerario di Santa Barbara)」など、夏のバカンス地に近くアクセスも良い巡礼路でした。また、ピエモンテ州にある「カンミーノ・ディ・オロパ(Cammino di Oropa)」などでは昨年より4倍も参加者が増えたところも。イタリア半島では至る所に巡礼路であることを示す標識が見られますが、2020年はクルマで通り過ぎるだけでなく、これら標識に沿って歩いてみた人が多かったのでしょう。

↑1555年に描かれたローマ巡礼の様子

 

日曜日に教会に通う熱心なキリスト教徒の減少が顕著なイタリアで、なぜ巡礼路を歩く人が増えたのでしょうか? Terre di Mezzoの調査で参加理由を聞いたところ、「巡礼路がある土地や町についてより深く知りたかった」という答えが50%超、「大自然のなかで過ごしたかった」が48.6%でした。巡礼路デビュー者でも「新しい経験をしたかった(60.1%)」に次いで「大自然の中で過ごしたかった(58.9%)」が大きな割合を占めています。

 

そのほか「心身の健康のため」「トレッキングをしたかった」「文化的な興味」などの理由が上位を占め、巡礼路の本来の目的である「宗教上の理由から」と答えた人は29.7%にとどまりました。人好きのイタリア人らしい回答としては「巡礼路上でさまざまな人に出会える」が19.8%を占めました。巡礼路を歩くのは単独、あるいは2人までと答えた人が半数以上であることも、未知の人々との出会いを期待しているからかもしれません。

 

宿泊や食事は質素に

↑「オステッロ」と呼ばれる宿泊施設の様子

 

数日かけて巡礼路を歩くには宿泊施設が必要ですが、どのような宿泊施設が利用されるのでしょうか? 巡礼に参加する年齢層は、経済的に余裕がありそうな51~60歳が全体の30%弱と最多です。ところが全体の回答をみると、利用した施設はベッドと朝食付きの「B&B」が最多の42%で、2段ベッドが基本で浴室やトイレも共同とさらに安価な「オステッロ」が21%でした。

 

キリスト教会が運営する施設での宿泊は16%で、道具一式を担いで歩くのはかなりハードだと思いますが、6%はテントで過ごしたそうです。ホテルと名乗れるレベルの施設を利用したのは、わずか7%にすぎませんでした。

 

昼食に関してはコロナの影響もあり、84.6%がパニーノなどのお弁当持参。さすがに長距離を歩いた後の夕食は56%が外食と答えたものの、テイクアウトのピッツァやレストランより格下の「トラットリア」での軽食が大半でした。宿泊や食事については巡礼への忠実さを守り、清貧のスピリットを尊重した人が多かった模様。

 

このように、巡礼に参加した人の平均的な出費は宿泊費も含め1日30~50ユーロ(約3800~6400円)と驚くほど格安です。巡礼参加者のうち20代は9.5%を占めますが、2020年における巡礼路デビュー者のなかでは20代の割合が21.4%にのぼりました。このトレンドの背景には、コロナ禍によるツーリズム志向の変化というだけでなく、安価にスローライフを楽しめることもあるようです。

 

まとめ

長距離の巡礼ともなると数か月をかけて数百キロを歩くことも珍しくないのですが、コロナ時代の巡礼は無理せずに数日間での参加が増えました。お金の使い方も含め、まさにスローツーリズムといえるでしょう。

 

トレッキングの装備についても、現代は量販店で安く手軽にそろえられる時代。お金はあまり使わず豊かな自然のなかで心身を癒し、巡礼という同じ目的を持った未知の人たちと遭遇できる機会もあります。巡礼路がつくられた当時のイメージとはやや異なるスタイルかもしれませんが、人気ツーリズムとしてコロナの時代に定着しつつあるようです。