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2021/3/11 10:00

【東日本大震災から10年】被災地東北から伝える復興・防災の知見を途上国で活かす【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は東日本大震災の被災地東北から、途上国の人たちと防災や復興の知見を共有し、学び合う研修について取り上げます。帰国した研修員らは、母国で次々とその気づきを活かしています。

↑震災の語り部から、市民目線での緊急時の避難状況とその課題を聞く研修員ら

 

災害弱者のリスク削減の重要性を実感

「石巻を訪れた際、出会った男性の姿が忘れられません。震災で亡くした妻を思い出し、毎日涙を浮かべていると。この研修を通じ、平時から災害のリスクを伝えることで、このような悲しみを背負う人を世界中から一人でも減らしたいと強く思いました」

 

そう話すのは、バングラディッシュのNGO「アクション・エイド・バングラデシュ(AAB)」のナシール・ウディン・エー・エムさんです。2017年に、ジェンダーと多様性の視点から災害リスクの削減を考える研修に参加しました。女性や高齢者など、災害時に脆弱となるリスクの高い人たちのニーズを考慮し、防災・復興に反映することについて学ぶことを目的としています。

 

ナシールさんは研修での気づきを活かし、AABの防災分野のマネージャーとして、女性をはじめ貧困地域に暮らす人々に災害のリスクを広く伝える取り組みを進めています。また、バングラデシュ政府がまとめた平時と災害時の対策にも、女性や女の子の視点に立った取組みを盛り込むよう助言したほか、防災に関連するさまざまな支援に向けた会合で女性の参加を働きかけ、その数は徐々に増えています。

↑災害時のリスクについて女性たちに伝えるナシールさん(右側中央の男性)

 

2015年から実施されているこの研修の企画を担当するJICA東北の井澤仁美職員は「防災や災害対応は、かつては、女性は支援を受けるもので、その取り組みは男性がするものというイメージがありました。しかし、防災や復興は男性だけが担当するものではなく、女性はもちろんのこと、さまざまな立場の人々が多様に取り組むべきものだという意識が高まっています。被災地東北で実施されるこの研修を通じて、そのためのリーダーシップや意識が伝わっていることを実感しています」と研修の意義を語ります。

 

さらに、研修員と被災者との意見交換の場でのやり取りを振り返り「多くの研修員から『日本は、過去の災害経験から“日常で何をすべきか”を常に考え、状況に合わせて改善し、非常時でも対応できるようにしている。Build Back Better(より良い復興)という言葉が何を意味するのか、日本に来てはじめて実感することができた』という声を聞きました。被災者側も、世界中で同じ志をもって防災に取り組んでいる人々がいることを知り、勇気づけられたのではないかと思います」と、井澤職員は話します。

↑2019年の研修の様子。若者の語り部から、復興の現状と若者のリーダーシップについて説明を受けました

 

この研修には、これまでにアジアや中南米など計17か国から女性関連省、防災関連省庁、市民団体の職員ら78名(女性50人、男性28人)が参加してきました。

 

行政の役割からみた「災害復興支援」を学ぶ

「私の住むスクレ市は、海に面しているのですが、独自の地震・津波避難計画がありませんでした。東北での研修を受けて、市独自の避難計画の策定が必要であると考え、帰国後、市の地震・津波避難計画策定に着手しました」

 

自国での取り組みを話すのは、2019年の「災害復興支援」研修に参加した中米エクアドルのヘスス・ハビエル・アルシーバル チカさん。スクレ市安全・リスク・国際協力部でリスク技術士として勤務しています。

↑ヘススさんの取り組みにより、スクレ市では、津波浸水高の標識取付けが行われています

 

この研修は、自然災害からの復旧・復興期における行政機関の役割、そして、集団移転計画や土地利用計画を含む復興計画策定における市民と行政の合意形成過程を学ぶことを目的として、2018年に始まりました。これまで3回実施され、計12か国から29名が参加しています。

↑2019年の参加者ら。研修員たちは行政の立場から復興課題に向き合いました。(右から3人目がヘスス・ハビエル・アルシーバル・チカさん)

 

また、東日本大震災の被災者との交流で、宮城県岩沼市の集団移転地で被災者の話を聞いた際、メキシコからの研修員ロハス・アンヘル・ジェニフェル・アブリルさん(国家国民保護調整局勤務)は、最後に正座して深々と頭を下げ、涙を浮かべて研修への感謝の気持ちを伝えました。被災を乗り越えつつある姿に敬意を表し、「自国に戻ったら、行政官として被災者や住民に寄り添い、対話を重ねて、地域社会主体の復興や減災に取り組みたい」とその決意を表明。その想いを胸に、自国で災害に強いまちづくりを進めています。

 

災害復興を世界に伝えた10年間、そしてこれから

仙台に拠点を置くJICA東北では、さまざまなかたちで震災復興と防災に取り組んできました。震災が発生した2011年には、いち早く地域復興推進員を配置し、翌年からは復興に関わるセミナーや研修を開始。現在も多くの活動を通して、世界の人々に東北復興・防災の知見を発信しています。

 

JICA東北の佐藤一朗次長は、この10年間を振り返り、そしてこれからを見据え、次のように述べます。

 

「東北での研修は、各国からの研修員に、東北の被災地で復興や防災に関わる直接の当事者が自らの体験を伝え、現場体験をしてもらうことで価値ある発信ができます。被災地の復興はまだ終わっていません。これからは復興や災害に強いまちづくりと一体的に、社会の脱炭素化、地域経済の活性化、少子高齢化対策といった地方に共通の課題にも同時に取り組む必要性が増していきます。そうした災害復興プラス・アルファの取り組みを行う東北各地の経験やノウハウをこれからも途上国に発信していきたいと思います」

 

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