2021年3月、国際宇宙ステーション(ISS)で未知の細菌が3種類、発見されたという論文が発表されました。ISSで新たな微生物が見つかるのは、これが初めてではありませんが、今回の発見にはどのような意味があるのでしょうか?
NASAと共同で調査を行っている研究者たちは、2015年にISS内の8か所から採取したサンプルを解析した結果、4種類の細菌を発見しました。このうち1種類はメチロバクテリウム属と判明したのですが、残りの3種類はメチロバクテリウム属ではあるものの、これまでに発見されたことのない細菌だったのです。
未知の3種類は天井パネル、観測用モジュール「キューポラ」、ダイニングテーブルで採取されました。メチロバクテリウム属の細菌は、植物の成長の促進や、病原菌に対する防除に関わることがわかっており、宇宙環境での植物栽培の鍵となる可能性があると言われています。
水や太陽光などの資源が限られた宇宙空間での植物栽培には、強いストレス下でも植物の成長を促す新種の細菌の存在が欠かせない模様。さらなる検証が必要ですが、今回発見された細菌は、火星などの地球外での植物栽培を可能にするかもしれないと期待されているのです。
このように、ISSで新しい細菌が見つかるのは、実は珍しいことではありません。ISS内にある実験室や植物栽培装置など全8か所では、6年にわたって細菌の繁殖を観察し続けており、これまでに約1000ものサンプルが集められ、地球上に持ち帰って分析が行われてきました。
今回も発見に寄与したNASAジェット推進研究所のカスツーリ・ヴェンカテーシュワラン博士らは、2019年にもISSにさまざまな細菌が存在することを発表しています。これらの細菌の多くが人の体内外に存在する細菌であり、ISSにはこれまでに200名以上の宇宙飛行士が滞在してきたことを考えると、当然の結果かもしれません。
しかし、そもそも細菌は宇宙で存在できるのでしょうか? 東京薬科大学のチームは、微生物が宇宙空間でどのくらい生き残れるかを調査したことがあります。同チームが2020年8月に発表した研究によると、2015年にISSで実施された「たんぽぽ計画」において、微生物を宇宙空間の太陽紫外線照射環境下で3年間、曝露したところ、生存し続けた微生物がいたとのこと。この結果から同チームは、微生物が地球から火星まで移動する間、生存することは可能である、と結論づけました。
未知の細菌の発見は、さまざまな影響を及ぼすかもしれません。現在、宇宙開発が進み、月に人類が住める都市を作る構想も持ち上がっていますが、そこでも細菌類は重要な役割を担うかもしれません。また、宇宙で微生物が生存可能であることは、生命の起源が宇宙からもたらされたものという「パンスペルミア仮説」を支持する根拠のひとつになるとも言われています。
【出典】Bijlani S, Singh NK, Eedara VVR, Podile AR, Mason CE, Wang CCC and Venkateswaran K (2021) Methylobacterium ajmalii sp. nov., Isolated From the International Space Station. Frontiers in Microbiology. 12:639396. doi: 10.3389/fmicb.2021.639396