インドに進出し、配線器具の同国内シェアで1位を獲得しているパナソニック。高い品質と大量生産の両立で、急増する需要に応え続ける同社が、その裏で行なっている社会貢献活動がある。同社のインド国内最大の生産拠点であるハリドワール工場のそばで、若者のスキル養成をする学校「アンカースキルスクール」だ。自らの将来のために技術を磨く若者が多く集う、同校を訪ねた。
インドの地で、生徒たちに伝えられる松下幸之助の魂
「教育が受けられず、職に就けない若者を救いたい」
アンカースキルスクールは、そんな想いのもと、2016年10月に設立された。インドでは、14歳までは政府による義務教育があり無料で受けられるが、高等教育は有償だ。アンカースキルスクールが位置するハリドワールでは、2022年の時点で25万人が金銭的都合などから高等教育を受けられずにいるという。
アンカースキルスクールでは、16〜35歳の生徒に、部品の成形、配線器具などの組み立て、家電・携帯電話の修理の技術を教えている。授業料はかからず、ランチや交通費もスクールから支給。卒業後の就職斡旋まで無償で行なっている。入学から修了までの期間は2〜3ヶ月で、1年の間に500人ほどの卒業生を輩出している。
成形、組み立てを教えるクラスでは、パナソニック・ハリドワール工場から譲り受けた機械を使用し、技術指導を行っている。これらのクラスの卒業生の多くは工場に就職することになるが、現場で即戦力になる人材を育成できる環境が整っている。
家電と携帯電話の修理を教えるクラスが定員オーバーするほどの人気に
特に人気で、定員オーバーになることも多いのが、家電・携帯電話の修理を教えるクラスだ。経済発展が著しい同国では、家電や携帯電話の需要が急増しているが、コストの問題で1台の機種を長く使い続ける人が多いという。それゆえ、修理のニーズが非常に大きいのだ。こちらの卒業生は、6割がメーカーの修理サービスセンターに就職するというが、独立開業をする人も多い。
アンカースキルスクールで実践的技術を習得した卒業生は、少なくとも月1万ルピー(日本円2万円弱)程度を稼げるようになるという。ハリドワール地域の平均月収は約8500ルピーだというから、同校でスキルを身につける意義は大きい。
取材では、同校を卒業し、社会に出て働いている方々から話を聞くことができた。卒業後、パナソニック・ハリドワール工場に就職したアブシェイク・パルさん(23歳)は、「学校による就職斡旋があったことが大きな助けになった」と語る。アンカースキルスクールは企業からの評判が高く、卒業生を採用するために、各社の人事担当が学校をわざわざ訪れるという。生徒たちが自分で企業を探さずとも、学校にいるだけで就職活動ができるのだ。
サテンドラ・クマールさん(20歳)は、アンカースキルスクールで携帯電話の修理を教わり、2022年に卒業したのち、独立開業する道を選んだ。「トレーニングの質が良かった」と、同校で学んだ感想を述べる彼は、地域の平均収入の3倍以上にあたる月3万ルピーを稼げるようになったという。
人口が世界一となり、注目されているインド。経済発展が進む一方で、根強く残るカースト制度の影響もあって、貧富の差は大きい。アンカースキルスクールの取り組みは、その格差を是正する力になるという点で、意義のあるものといえよう。
この学校の生徒たちは、自らの未来を切り拓くための技術を手に入れている。アンカースキルスクールは、知識や技術を習得する場のみならず、若者たちに将来への希望を与える場としても機能しているのだ。