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2023/9/22 9:15

パナソニックが「インドの地」で行う社会貢献。若者に技術と希望を与える「アンカースキルスクール」

インドに進出し、配線器具の同国内シェアで1位を獲得しているパナソニック。高い品質と大量生産の両立で、急増する需要に応え続ける同社が、その裏で行なっている社会貢献活動がある。同社のインド国内最大の生産拠点であるハリドワール工場のそばで、若者のスキル養成をする学校「アンカースキルスクール」だ。自らの将来のために技術を磨く若者が多く集う、同校を訪ねた。

 

インドの地で、生徒たちに伝えられる松下幸之助の魂

「教育が受けられず、職に就けない若者を救いたい」

アンカースキルスクールは、そんな想いのもと、2016年10月に設立された。インドでは、14歳までは政府による義務教育があり無料で受けられるが、高等教育は有償だ。アンカースキルスクールが位置するハリドワールでは、2022年の時点で25万人が金銭的都合などから高等教育を受けられずにいるという。

↑アンカースキルスクールの門。校名に冠されている「アンカー」は、パナソニックがインド進出を加速するため、2007年に買収した現地メーカーの名称だ。現地での知名度が高いことから、買収後もこのブランドは残されている

 

↑室内に入ったところで上を見上げると、「若者のスキル開発と雇用適性を磨くことによって、社会の幸福に貢献する」という学校のミッションと、パナソニックの創業者である松下幸之助の写真が掲示されていた

 

アンカースキルスクールでは、16〜35歳の生徒に、部品の成形、配線器具などの組み立て、家電・携帯電話の修理の技術を教えている。授業料はかからず、ランチや交通費もスクールから支給。卒業後の就職斡旋まで無償で行なっている。入学から修了までの期間は2〜3ヶ月で、1年の間に500人ほどの卒業生を輩出している。

↑入り口近くの壁には、多くの卒業生たちの写真が飾られていた

 

↑生徒たちに支給される、スクールオリジナルのテキスト

 

↑通学のためのオリジナルバッグも支給される

 

成形、組み立てを教えるクラスでは、パナソニック・ハリドワール工場から譲り受けた機械を使用し、技術指導を行っている。これらのクラスの卒業生の多くは工場に就職することになるが、現場で即戦力になる人材を育成できる環境が整っている。

↑組み立てのクラスの様子。生徒たちがブレーカーの組み立てを実践していた

 

↑教室の壁に大きく貼り出されているKAIZEN(改善)の文字

 

↑成形のクラスには、大型の成形機も用意されている。圧縮成形と射出成形の両方を2ヶ月で学ぶ

 

家電と携帯電話の修理を教えるクラスが定員オーバーするほどの人気に

特に人気で、定員オーバーになることも多いのが、家電・携帯電話の修理を教えるクラスだ。経済発展が著しい同国では、家電や携帯電話の需要が急増しているが、コストの問題で1台の機種を長く使い続ける人が多いという。それゆえ、修理のニーズが非常に大きいのだ。こちらの卒業生は、6割がメーカーの修理サービスセンターに就職するというが、独立開業をする人も多い。

↑家電修理のクラスでは、座学の授業が行われていた

 

↑修理する家電のジャンルは、冷蔵庫、洗濯機、浄水器、クーラー。教室には実機が置かれていた

 

↑携帯電話の修理のクラス。iOS、Android両方について学ぶ

 

↑教室前方のモニターには、半導体が大きく映し出されていた

 

アンカースキルスクールで実践的技術を習得した卒業生は、少なくとも月1万ルピー(日本円2万円弱)程度を稼げるようになるという。ハリドワール地域の平均月収は約8500ルピーだというから、同校でスキルを身につける意義は大きい。

↑報告書などを作れるようになるため、パソコン関連のスキルは、全クラス共通で教えているという

 

取材では、同校を卒業し、社会に出て働いている方々から話を聞くことができた。卒業後、パナソニック・ハリドワール工場に就職したアブシェイク・パルさん(23歳)は、「学校による就職斡旋があったことが大きな助けになった」と語る。アンカースキルスクールは企業からの評判が高く、卒業生を採用するために、各社の人事担当が学校をわざわざ訪れるという。生徒たちが自分で企業を探さずとも、学校にいるだけで就職活動ができるのだ。

↑アブシェイク・パルさんは、「スキルを身につけたことで、自分に自信がついた」と語る

 

サテンドラ・クマールさん(20歳)は、アンカースキルスクールで携帯電話の修理を教わり、2022年に卒業したのち、独立開業する道を選んだ。「トレーニングの質が良かった」と、同校で学んだ感想を述べる彼は、地域の平均収入の3倍以上にあたる月3万ルピーを稼げるようになったという。

↑サテンドラ・クマールさん。彼らの話を聞いた部屋の壁には、数々の企業のロゴがプリントされていた。同校の卒業生のうち、パナソニック以外の企業に就職する人も多いという

 

人口が世界一となり、注目されているインド。経済発展が進む一方で、根強く残るカースト制度の影響もあって、貧富の差は大きい。アンカースキルスクールの取り組みは、その格差を是正する力になるという点で、意義のあるものといえよう。

この学校の生徒たちは、自らの未来を切り拓くための技術を手に入れている。アンカースキルスクールは、知識や技術を習得する場のみならず、若者たちに将来への希望を与える場としても機能しているのだ。