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2023/9/30 6:15

「インドの秋葉原」で受けた「量のおもてなし」の裏にあるもの

人口世界一になり、以後ますますの発展が期待される国・インド。この地には、いままさに成長著しい国の姿を、肌で体感できる場所がある。それが、“インドの秋葉原”ともいうべき電材街だ。経済発展に伴い多くの建物が新たに建てられている同国では、配線器具などの電材の需要が急増中。それをまかなっている場所こそ、国の各地にある電材街である。

 

筆者は今夏、インド南東部の大都市・チェンナイの電材街を、同国内で配線器具のシェア1位を誇るパナソニックのスタッフとともに訪問した。そこで待ち受けていたのは、カオスという言葉を絵に描いたような街の風景と、インド流の“量のおもてなし”だった。

 

人が多すぎる! カオスな電材街を歩く

インドには、乾季、暑季、雨季と、3つの季節がある。筆者が訪れたときは雨季だった。3日間同地に滞在した私が肌で感じた限りでは、チェンナイの雨季の暑さは、日本の夏と案外変わらない。一方で街の熱気は、我が国を凌駕しているものがあった。

↑チェンナイの街角。人や車がひしめいている

 

まず、道を埋め尽くす人の多さ。車道にまで歩行者が溢れており、新宿や渋谷といった繁華街と比べても、人の密度はこちらのほうが上に感じる。そしてその人波を強引にかき分けるようにして、車やバイクが通過していく。インドの道では、車の量が非常に多いうえ、歩行者より車が優先されがちだ。信号のない横断歩道では、自分が歩行者のとき、渡るタイミングはかなりシビアだ。道を歩くだけでも常に注意が必要で、歩きスマホなんて自殺行為である。

↑人波をかき分けて、荷物を高く積んだ車が遠慮なく進んでいく

 

↑電材街の入り口付近。道端の露店では、果物やジュースなども売られていた

 

↑カラフルな果物を見ると、ついつい食欲をそそられてしまう。インドのフルーツは甘みの強いものが多かった

 

道の左右に目をやると、電材の販売店が所狭しと並んでいる。LEDのカラフルな光に照らされた店舗もあり、日中の訪問ではあったが、きらびやかで大いに目立っていた。

↑カラフルなLEDで彩られた店舗

 

店舗で受けた盛大な“量のおもてなし”

カオスな街中を歩いた筆者は、パナソニックのスタッフの案内のもと、同社の電材を販売する代理店を訪問した。まず訪れたのが、スレッシュ・エレクトリック・コーポーレーション。パナソニックがインド進出の先駆けとして2007年に買収した現地企業・アンカー社の創立当初から、60年以上の取引がある老舗の代理店だ。

↑スレッシュ・エレクトリック・コーポレーションの店構えは、老舗の風格を漂わせていた

 

店内の狭い通路を通って奥に進んでいくと、多くのスタッフや社長のジャヤンティラルさんが出迎えてくれた。そこから始まったのが、“量のおもてなし”だ。

↑製品サンプルを手に持つ、ジャヤンティラルさん

 

出迎えと同時に、まずバラの花を1輪いただく。そしてすぐに茶菓子が出され、それを食べているとおかわりが卓上に運ばれてくる。おまけにジュース、おみやげのストールまでいただいた。片手には茶菓子の乗った皿、もう片手にはジュースのコップ、首にはストール、胸ポケットには1輪のバラ。現地に駐在経験のあるパナソニックのスタッフによると、これがインド流のおもてなしだという。

↑店内では、パナソニック製品をはじめとした配線器具の箱が、天井近くまで積まれていた

 

独特な風味の菓子をつまみながらジャヤンティラルさんに電材についての話を聞くと、アンカー社がパナソニックに買収されてからのポジティブな変化について教えてくれた。彼によると、最も大きな変化はブランドイメージの向上だという。

 

「パナソニックの製品は高品質であることに加え、増え続ける需要を満たせるだけの高い生産力を持っていることから、顧客からの信頼が厚い」と彼は語る。インドにおいて、日本企業全体の評判が高いことも、その信頼度に影響している。製品にクレームが入るケースはほとんどないそうだ。

↑パナソニックの主力製品のひとつ、PENTAモジュラー

 

凄まじい歓待を受け、“異国に来た”という感動に浸った筆者だったが、時間の都合もあり惜しみながら同店をあとにし、次の店舗へと向かった。そのとき筆者のお腹は茶菓子によって満たされ、首にはいただきもののストールが巻かれている大満足状態。そんな状態から再び、インド流のおもてなしを受けることになる。

 

訪問2店舗目は、パナソニックのインド国内主力商品であるROMAシリーズの販売数で同国内1位を誇る代理店、スマン・エンタープライズ。パナソニックとの取引は2010年になってからという、新進気鋭の店だ。

↑スマン・エンタープライズの店舗は、洞窟のような通路を抜けた先にあった

 

1店目同様、入ってすぐバラの花をもらう。そしてヒンドゥー教における祈りのための印・ティーカを額につけてもらった。筆者は今回のインド訪問でパナソニックの工場を複数訪れていたが、そこでももれなくティーカをつけるというおもてなしがあった。

 

椅子に座ると、茶菓子と飲み物が提供される。飲み物は本場のチャイで、日本で売られているそれより香りや甘みが強い。さらに、すでにストールが巻かれた首に、もう1本のストールが追加された。この歓迎ぶりにも、2回目ともなると慣れる…と思いきや、日本ではなかなかない経験ゆえ、ワクワク感は変わらない。

↑スマン・エンタープライスでのおもてなしを受けた後の筆者の自撮り。首には橙と白の2本のストール、胸ポケットにはバラの花が2輪、額にはティーカと盛りだくさんだ

 

パナソニック・スリシティ工場と、電材街の視察を通していただいたもの。工場ではパラの花束とストール(赤)をいただいた

 

同店社長のラケッシュさんは、ROMAシリーズが売れる理由を、「製品の品質に加えて、物流面での信頼性が高いから」だと語る。広大な国土を誇るインドでは、製品の配送はしばしば大きな課題となる。その点、パナソニックの製品は注文してから届くまでの時間が短く、顧客を待たせずに済むという。

↑ラケッシュさん。手に持っているのは、ROMAシリーズを最も多く売り上げたことを讃える賞状

 

↑店内の壁面には、多数の製品サンプルが並んでいた。写真中央がROMAシリーズ。アンカー社時代から継続して販売されているブランドで、ミドルレンジにあたるシリーズだ

 

↑製品サンプルのなかでも特に異色だった、D-subジャックと天井ファンの風力調整用のツマミがついたモジュール

 

「ロングセラー商品であることも、ROMAシリーズの強み」だと、ラケッシュさんは言う。インドでは配線器具を保証期間が過ぎたあとも使い続け、故障してから交換するという人が多い。変わらず販売されているROMAシリーズなら、故障時の取り替えがしやすいのだ。ROMAシリーズには、10年という長い保証期間が設定されているが、なかには20年以上も使い続ける人もいるという。

↑店舗脇の倉庫には、大量の製品が保管されていた。山積みの在庫が、たった3日ではけてしまうという

 

盛大なおもてなしの裏にあるもの

電材街への訪問を終えた筆者の胸に去来した思いは「インドのおもてなしはすさまじい」。工場などへの訪問でも薄々感じていたことではあったが、これだけ多くのものを贈る“量のおもてなし”は、日本にはあまりない。

 

筆者が盛大な歓待を受けられたのは、訪れた店のスタッフたちが、日本のメディアによる取材を喜んで受け入れてくれたからにほかならない。そして、パナソニックを含む現地に進出している日本企業が、インドの人々から大きな信頼を得ているからだ。筆者が受けたおもてなしの裏にある、地道な努力を忘れてはいけないだろう。