コロンビア在住ライター・森本進也がリアルな現地リポートをお送りする本連載。記念すべき第1回は、世界から注目を集めるコロンビア第2の都市「メデジン」についてリポートします。
コロンビアってどんな国?
みなさん、コロンビアと聞いてどういったイメージが思い浮かびますか? 治安が悪い、サッカー、コーヒー、ラテン美女などなど、いろいろ思い浮かぶと思います。
まず、コロンビアについて簡単にご紹介します。コロンビアは南アメリカ大陸の北端に位置します。面積は日本の約3倍で、内陸、山間、海側の土地ごとにそれぞれ文化、人種、治安状況も異なり、なかなか多様です。
なかでも、みなさんにぜひともご紹介したい興味深い都市があります。それが冒頭でも述べましたコロンビア第2の都市「メデジン」。首都ボゴタより北西に400㎞(バスで8時間移動)の内陸に位置する、人口約250万人ほどの都市です。
実は、このメデジン市は「劇的に生まれ変わった都市」として都市設計に携わる建築家の間で有名です。それは、ここ十数年の間に治安が大幅に改善したことに起因します。
1991年のメデジンでは、10万人に約380人が殺されるという世界最悪レベルの高い殺人率の都市でした。端的にいって、治安が半端なく悪かったのです。それが2015年の殺人率はなんと10万人に18人までと激減しました。それを表しているのが下のグラフです。
2013年にはウォールストリート・ジャーナルとシティーグループ主催のコンテストにおいて「最も革新的な都市」にも選ばれました。前述のとおり、世界最悪レベルの治安の悪さから“劇的”に生まれ変わったことが評価されたのです。
このような目を見張るメデジン市の変化には、大きく①マフィアの弱体化②ユニークな都市計画という2つの理由があります。
マフィアの弱体化
ご存じの方もいるかもしれませんが、メデジン市はNetflixのドラマ「ナルコス」の舞台となりました。このドラマは、麻薬マフィアのパブロ・エスコバルの生涯を描いたものでしたが、そのマフィアの拠点が置かれていたのがこのメデジン市でした。
1980年代から1990年代前半までのコロンビアでは、パブロ・エスコバルのようなマフィアや左翼ゲリラが国家と同等の権力を持っており、政治家、検事、企業の社長といった有力者を標的とした殺人、誘拐が頻繁に起きていました。まさに“無法状態”といった状況で、国が分裂していたのです。
しかし、1993年、パブロ・エスコバルがコロンビア軍の治安部隊によって射殺されたことを皮切りに、マフィアがコロンビアを牛耳っていた状態が改善され始め、治安もよくなっていったのです。
ユニークな都市計画
2004年にメデジン市長に就任した元数学教授のセルジオ・ファハルド氏は、世界的に有名な建築家アレハンドロ・エチェベリ氏を採用して都市計画を推進しました。
ファハルド氏は治安を改善するために警察を増強するのではなく、貧困層への教育やインフラの整備・充実を重視。そのために、以下のような取り組みを行いました。
■交通網の充実
①貧困地域をつなぐケーブルカー
現在のメデジンには電車が走っており、移動がかなり快適です。電車のチケットには磁気カードを採用しており、払った分の乗車ポイントを磁気カードにチャージしてくれる仕組み。改札では磁気カードを読み取り機に「ピタッ」と押し当てると通過できるようになります。
さらにすごいのは、電車だけでなくケーブルカーも採用していることです。メデジンは山に囲まれており、都市の中心部は盆地に位置していますが、貧困地域は山側の斜面にあるため、両者を電車でつなぐことができません。
そこで行政はケーブルカーを貧困地域の人々のための交通網として採用しました。これで貧困地域の人は都市から隔絶されることなく都市の中心部にアクセスできるようになったのです。
このような交通網の整備は貧困地域の人が疎外されていないと感じさせる連帯感を重視した結果といえます。
②自転車のシェアリングサービス「EnCicla」
By Secretaría de Movilidad de Medellín Flickr
メデジン市内の主要な駅や公園付近50か所に、自転車の公共貸し出しサービス「EnCicla」の駐輪場が存在します。ここでは、事前にインターネットや事務所で登録して作ったカードを使用して無料で自転車をレンタルすることができます。レンタル後、自転車は1時間以内に駐輪場に返却するシステムで、このEnCiclaは多くの住民によって利用されています。
このような多くの先進国でまだ着手していないようなシェアリングサービスの整備にいち早く取り組み、その運用に成功している点がメデジンの驚くべき点です。
■教育・文化施設の充実
①スペイン公園図書館「El Parque Biblioteca España 」
貧困層の人も文化に触れる機会を、という目的で、ユニークなデザインの図書館が貧困地域に立っています。図書館は貧困地域ど真ん中に立っていますが、都市部の市民も前述のケーブルカーで簡単にアクセスできます。
②植物園「Joaquin Antonio Uribe」
By Corona Mejora Tu Vida CORONA Flickr
「Joaquin Antonio Uribe」という植物園が市民に無料で開放されてます。植物園にはOrquideoramaという7角形のモジュールを組み合わせた、これまたユニークなデザインの建築物があり、市民の憩いのスペースとなっています。
■スポーツ施設の充実
メデジンはスポーツ施設も非常に充実しています。まず市内のあちこちに屋外ジムがあります。ベンチプレス、エアロバイクなど豊富な器具が揃っており無料で利用可能。筆者も頻繁に屋外ジムに行ってはマッチョになろうと筋トレに勤しんでいます。余談ですが、コロンビア人は男女ともにマッチョ志向です。
スポーツ施設の中でも特筆すべきなのはスポーツ集合施設「Unidad Deportiva Atanasio Girardot」です。非常に大きなスタジアムが立ち並び、サッカー、陸上、武道、器械体操、ハンドボール、水泳など、ほぼすべてのスポーツができるスペースが市民に提供されています。そうした場所ではそれぞれのスポーツに指導員がいて、安価にスポーツを習う機会も提供されています。
生まれ変わった都市メデジン
メデジンは世界最悪レベルの殺人率だった20年前と比べて大きく変化したようで、当のメデジン市民達に話を聞いてみても「治安が良くなった」「住みやすくなった」と語っています。外国人の筆者から見ても住みやすい環境だと感じます。
その環境の良さから、首都のボゴタからメデジンに拠点を移転する企業やボゴタから勉強に来るコロンビア人も増えているようです。このような変化はメデジンを住みよい都市に変えたいという市民の強い意志が存在したからこそ成し得たのだと思います。
今後もコロンビア・メデジンから現地リポートをお届けする予定です。次回の記事も楽しみにしていてください。