ベビー用品の代表ともいえる「おしゃぶり」。しかし数多くあるベビーグッズのなかでも、これほど使うのに迷うものもあまりないでしょう。いつから使っていいのか? どのように使うべきなのか? そもそも使っても害はないのか? インターネットで検索してみると様々な情報があり、よく分からないまま使っているパパ・ママも少なくないかもしれません。
そこで、私たちはおしゃぶりについて学ぶため、1月22日に大手ベビー用品メーカーのピジョンで開催された「おしゃぶり勉強会」に参加しました。このセミナーには、昭和大学歯学部小児成育歯科学講座の井上美津子客員教授が招かれ、「『おしゃぶり』の上手な使い方」というテーマで乳幼児のしゃぶる行為やおしゃぶりの機能などについて講演。その後には、おしゃぶりの新製品も紹介されました。おしゃぶりはどのように使うべきなのでしょうか?
おしゃぶりの嘘と本当
ピジョンが調べた2019年おしゃぶり実態調査によると「長時間使用すると歯並びやかみ合わせ、あごの発達に影響が出ることがある」というデメリットの認知度が60%以上。その次に「習慣性があり、使用を止めるのに苦労する場合がある」というデメリットと「使用することで赤ちゃんが落ち着く、泣き止む、入眠がスムーズになる」というメリットの認知度が50%を超えています。
上記3は、おしゃぶりのトピックのなかでもよく聞く内容ですが、本当に正しいのでしょうか? 井上先生が作成した資料を使いながら、それぞれ見てみましょう。
1: 長時間使用すると歯並びやかみ合わせ、あごの発達に影響が出ることも
「おしゃぶりの使用期間と咬合関係(2歳6か月児)」というデータ(※1)によると、使用期間が長くなればなるほど、開咬(歯をかみ合わせたときに上下の前歯の間に隙間が生じ、食べ物を噛むことや発音などに障害が出る症状)の割合が増えていることが分かります。「2歳半ごろまで使用を続けると、咬合(上下の歯のかみあわせ)に影響が出る子どもが急に増えてきます」と井上先生は述べます。
しかし、悪い影響ばかりではありません。おしゃぶりには乳児期の口やあごの発育を促す効果もあるのも事実。おしゃぶりや指しゃぶりなどの行為は、唇や舌、あごの一体化した動きを促し、口輪筋や舌の動きの発達やあごの発育を促すと井上先生は述べています。ただし、離乳期以降はそうではないとのこと。
1の結論: 本当。ただし、発育を促す場合もある。
※1: 石川朋穂ほか:おしゃぶりについての実態調査、小児歯科学雑誌、2006
2: 習慣性があり、使用を止めるのに苦労する
赤ちゃんはママのお腹のなかにいるときから指しゃぶりをしています。哺乳の準備行動をしているんですね。新生児の口は哺乳に適した形をしており、乳児期になると赤ちゃんは吸てつ行動(指しゃぶり、タオルしゃぶり、何でも舐めることなど)も盛んになるなど、歯や口腔の発育としゃぶる行為というのは密接に関わっています。
離乳完了期(12~18か月ころ)になると、しゃぶる行為は不安時の気分鎮めとしての役割が大きくなりますが、3歳を過ぎると、しゃぶる行為は「口腔習癖(日常生活で無意識に行っている口腔に関連した習慣行動)」として子どもの生活に定着しやすくなり、口腔の発達に悪影響を与えてしまうことが多くなるそう。
では、「使用を止めるのに苦労する」点はどうでしょうか? 井上先生の資料にあるデータ(※2)によると、1歳2か月と2歳6か月の子どもでは「飽きて使わなくなった」というパターンが最も多いんです。「幼児期前半ごろまでは、ほかに興味のあるものが増えることで、自然にやめる子どもが多いようです」と井上先生。幼稚園に入園すると、まわりの子どもたちの影響でおしゃぶりをやめる子どももいますが、このように子どもが自然におしゃぶりをやめるのが親にとっては理想的でしょう。しかし、使用時間や時期に配慮することは忘れてはならず、やはり2歳半までにはやめるようにしたほうがよいとのこと。場合によってはお医者さんに相談するのもありみたいです。
結論: 半分本当。ただし2歳半までは自然な行為。飽きて使わなくなるケースが多い。
※2: 石川ほか、同上
3: おしゃぶりで赤ちゃんが落ち着く、泣き止む、入眠もスムーズに
おしゃぶりには「吸てつ本能を満たし、快刺激により、子どもの気分を鎮め、精神的に安定させる効果(脳波・脈拍の安定、表情を穏やかにするなど)がある」と井上先生は説明します。おしゃぶりは哺乳の代償行為ともなりますが、子どもの空腹は満たされないので、この効果は一時的であることをお忘れなく。
結論: 本当だが、一時的。
おしゃぶりも進化
ここまでは、おしゃぶりのメリット・デメリットを検証してみましたが、最新のおしゃぶりはどうなっているのでしょうか?
ピジョンが2月10日から全国で発売する新しいおしゃぶりは、従来製品よりも吸いやすくなっているのが特徴。吸い口は、赤ちゃんの上あごのサイズにぴったりフィットするうえ、自然に舌を動かしやすい形になっています。さらに、この吸い口には少し角度もついていて、赤ちゃんがより長い時間おしゃぶりを吸えるように設計。ほかにも、吸い口のやわらかさを改良したり、赤ちゃんの口の発育に適したサイズ(S〔0~3か月ころ〕・M〔3~6か月ころ〕・L〔6~18か月ころ〕)を展開するなど、“ピジョンらしさ”が十分に伺えます。
新しいおしゃぶりには2種類がラインナップ。「SkinFriendly」は通気孔が大きく、肌に密着しない座版を採用し、赤ちゃんの肌に優しいおしゃぶりとなっています。「FunFriends」には動物やフルーツの絵柄だけでなく、ミッキーマウスやミニーマウスが描かれたものがあり、見た目が可愛らしくなっています。(前者の税込価格は770円、後者は動物とフルーツのデザインが682円、ミッキーとミニーは770円)
おしゃぶりが進歩して、もっと吸いやすくなると、子どもはおしゃぶりをもっとやめにくくなるのではないかという疑問も浮かびますが、この点は今後明らかにする必要があるでしょう。しかし歴史を紐解くと、これまでにもおしゃぶりは母乳に悪いとか病気が蔓延するとか様々な危険性が専門家から指摘されてきましたが、多くのパパ・ママはそんなことをあまり気にせず、おしゃぶりを使ってきました。専門家の意見には耳を傾けるべきですが、案ずるより産むが易しですね。