『Uber Eats』『出前館』などで、様々な飲食店の料理を自宅で楽しめるようになりました。飲食店によっては、こういったニーズに応えて、デリバリー用の容器などを用意するところもありますが、他方デリバリー食品の必需品のひとつが食品用ラップフィルムです。前述のような容器の補強にも使える上、料理そのものをラップで包んで運ぶこともあります。
しかし、ふと疑問が……。特に出前で使われるラップフィルムは、一般家庭用のものと違い、強度・粘着力・伸縮性いずれも高いように感じます。昔ながらの町中華の出前では料理にピタッと付いて運ばれることも多いですが、あれと同じことを家庭用ラップでやろうと思ってもできません。この「業務用」「家庭用」の違いは何なのでしょうか。そして業務用ラップフィルムが特に優れている点は何なのでしょうか。今回は多くの業務用ラップフィルム製品をリリースする三菱ケミカルにお邪魔し、その秘密を分かりやすく解説していただきました。
ピタッと被せるラップの材質は「塩ビ」だった
ーーラップフィルムとして有名なのは、家庭用では「サランラップ(旭化成ホームプロダクツ)」、「クレラップ(クレハ)」ですが、特に業務用でよく目にするのが三菱ケミカルの「ダイアラップ」という商品です。これは一般的に流通している家庭用とは、どう中身が違うのですか?
布施誠さん(以下、布施) まず弊社のラップフィルム製品で言いますと、「ポリ塩化ビニル製ラップ(以下、塩ビ)」と「食品包装用ポリオレフィン系多層ラップ(以下、ポリ)」という2種類の材質を使ったものがあります。
塩ビは「伸ばしやすく、破れにくい」のが特徴です。引っ張り特性に優れている一方、ピタッとくっつく性能もあります。なので、いわゆる町中華をはじめとする飲食店さんでは、この素材のラップを使っていることが多いんですね。ここが家庭用に市販されているいくつかのラップフィルムとの大きな違いです。実際に試していただくしかないのですが、塩ビのラップフィルムの伸びは本当に違います。歴史は古く、40年くらい前から使われている商品です。
ーーなぜ、塩ビが「伸ばしやすく、破れにくい」のでしょうか。
布施 塩ビはもともと硬いプラスチックなのですが、そこに食品衛生法でも安全と認められた添加剤を適正な範囲で加えることで、強度がありながら柔らかく伸びやすい機能を持つように設計しているからです。
布施 一方、もう一つのポリは、ポリエチレンという材質がメインの製品です。塩ビよりも後から発売したもので、今から25年ほど前の開発当初は、「塩ビと同等の機能を付与させるのは難しい」と言われていたものの、研究開発組成の努力をし、現在では塩ビとほぼ同じ性能を実現しています。
中務喜友さん(以下、中務) これらが弊社のラップフィルムに使われている2つの素材ですが、これに加え他社では塩化ビニリデン、ポリメチルペンテン製ラップフィルムが発売されています。
ーーでは、実は一口に「食品用ラップ」と言っても素材は様々で、「業務用」「家庭用」と簡単に棲み分けできるものではない、ということですか?
中務 そうです。厳密には材質面で「業務用は○○」「家庭用は○○」という明確な棲み分けはないです。ただし、日本市場では業務用として一番多いのは塩ビ、その次にポリが多いのは事実です。このうち弊社の業務用のラップフィルムは日本のシェアの35%くらいを維持しています。
「青いラップ」に隠された秘密とは!?
ーー業務用ラップが使われるのはやはり、飲食店が多いのでしょうか。
布施 はい。飲食店とスーパーなどですね。
中務 スーパーでお肉や野菜がパックで売られていますが、あの食品パックを覆っているのもラップフイルムで、弊社の製品も本当によくお使いいただいています。
ーー例えば、スーパーに行って食料品を買う際、「これは我が社のラップだ」「これは他社のラップフイルムだ」みたいなことは瞬時に分かるものですか?
布施 メーカーまでの判別はできませんが、ラップの材質が「塩ビ」か「ポリ」かの違いは分かります。手触り感やラップ自体が持つ香りが違いますので区別はできます。
ーーやはりスーパーでも塩ビが多いのでしょうか?
中務 当初は塩ビのものが多かったのですが、前述のポリも研究開発組成の努力によって、塩ビ同様の効果を生み出すようになったことから、現在では各飲食店、スーパーでもよく使われるようになりました。弊社の「ダイアラップエコぴたっ!SKY」は、「青いラップ」ということで特にニーズが高いです。
ーーなぜラップフイルムを青くしたのでしょうか?
中務 天然の食品には「青」という色を持つものがありません。そのため、万が一、なんらかの作業をしている際に、ラップ片が食品に混入しても見つけやすいからです。また、通常の無色透明フィルムとの使い分けをすることで、仕分けなどに役立つことを考えてのことです。
布施 これは弊社のポリ特有の構造がなせる技術です。前述の弊社製の塩ビは一層なのですが、ポリは何層にも重ねてできておりますので、その層の内側に青色を着色することで、食品に色を移さないことも実現しています。
ーー「何層も重ねてできている」と言っても……あの薄いラップの中ですよね?
布施 はい。ラップの厚さはだいたい10ミクロンで、約0.01ミリほどです。この約0.01ミリほどの中に何層もフイルムが重なってできています。中間に保香性に優れた層や着色層を配置させるなどして弊社のポリ系ラップの機能を高めることに貢献しております。
中務 多層のポリ系ラップは今後もさらにバリア性を高めたり、様々な工夫を取り入れることができたりと機能を持たせる可能性が秘めています。そういった理由もあり、ポリ系ラップに関して、弊社では「ダイアラップエコぴたっ!」という小巻ラップのブランドを立ち上げ、近年は特に力を入れています。
業務用ラップのカッター&包装の秘密に迫る!
ーー塩ビ、ポリいずれも三菱ケミカルでは主に「業務用」として展開されているそうですが、カッターなども同時販売されていますね。
布施 はい。手動と電動があります。手動タイプはフタを開けてラップ巻をセットし、包みたい食品に合わせてラップフィルムを切り出していくもの。従来の「家庭用」ラップの構造が大きくなったようなものです。
一方、電動タイプは巻きたい食品にラップを巻いた後、底シール熱板という電熱の入ったボードに乗せます。電熱によってラップの底の部分を溶かすことで、ラップの粘着の密着性を高めるものですね。
中務 また、弊社のラップフィルムには「太巻」「小巻」というラインナップがあります。「太巻」はフィルム幅250~500ミリまでのもので、飲食店やスーパーなどで使われている完全なプロユース。「小巻」業務用・家庭用双方に使われるフィルム幅150~450ミリのものですが、ただ、「小巻」でも業務用は外側にカッターがついているものが大半なんですよ。
中務 これは家庭では少々扱いに気を使いますが、1秒単位が勝負のプロの現場でのニーズに答えています。そのラップフイルムが「業務用」なのかどうかを判断する際は、この「カッターが外に出ているかどうか」を見ると良いかもしれません。
あらゆるニーズに呼応すべく進化し続けるラップフィルム
ーーここまでのお話を伺い「業務用ラップ」の特性がよく分かりました。最後にラップフィルムにまつわる今後の展望や思いをお聞かせください。
中務 ポリのラップフィルムは、常に改良を重ねていて、最近では「冷凍状態でも柔らかさを保って破れにくいフィルム」を上市しました。それまでのラップフィルムは耐冷性が弱く、例えば冷凍すると、破れやすくなるところがありました。しかし、ポリの配合や原料を見直すことで、こういった耐冷性に特化した製品の開発にも真摯に対応しており、今後もその姿勢は変わりません。
布施 そして、当然のことですが、安全面での配慮もしっかり行っています。今年6月に、改正食品衛生法が施工されましたが、この基準にも適合させ、その上での品質向上を図っています。今後も弊社のラップフィルムをお使いいただく方のご要望をお聞きし、常に新しい製品を作り続けていきたいと思っています。
業務用ラップフィルムにはこんな秘密が隠されていました。コスパにも優れた業務用ラップフィルム、業務用品店やネット通販でも購入が可能です。興味のある方はぜひチェックしてみてください!
撮影/我妻慶一
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