最近の筆者は、酒米の違いで日本酒の味にどのような違いが出るのか、強い興味を持っています。ワインもブドウの品種で味の特徴が大別できるのと同様、日本酒も酒米の違いで味わいに明確な特徴があってしかるべき。ぜひそれを自分の中で体系化しておきたいという望みを持っています。どうせなら、ブラインドで飲んでみて「やっぱり山田(錦)はいい……」「コレは雄町らしいね」「美山(錦)っぽくないね」などと言えたらカッコイイではないですか?
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酒米の違いで日本酒の味にどのような違いが出るのか?
そんな折、「岡山地酒メディアセミナー」を開催するとの案内がありました。テーマは何と「雄町の特徴」と「雄町の地酒の楽しみ方」。「雄町」というのは酒造好適米の一種です。その特徴を教えてくれるというのですから、まさにマイブームにドンピシャ。ぜひとも「雄町とは何か?」を明らかにしてやろうとの野心を胸に、当地に向かいました。
「岡山地酒メディアセミナー」の会場は、東京・新橋にある鳥取県と岡山県の共同アンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」。セミナーはその2階のホールにて行われました。講師を務めたのは、岡山県在住の日本酒ライター、市田真紀さん。SSI認定きき酒師、日本酒学講師の資格を持ち、地元の酒米「雄町」の取材に注力している方です。
市田さんによると、雄町はいま注目を集めている酒米とのこと。雄町を使った日本酒ファンの呼称「オマチスト」が定着し、雄町にスポットを当てたメディア記事も多くなっているそうです。たしかにグルメ雑誌の王者、dancyuでは「オマチスト」と書いていたのを見かけました。また、最大級の日本酒コンペ、SAKE COMPETITION 2016では、雄町で造った「愛友 純米大吟醸」が純米大吟醸部門1位に。蔵元の愛友酒造は雄町にほれ込んで造ったといいますから、酒米の中でも個性的で熱狂的なファンが多い酒米といえます。
「山田錦」も「五百万石」も2本の野生の穂から始まった
市田さんは、雄町のルーツもお話ししてくださいました。雄町が誕生したのは安政6年(1859年)。篤農家の岸本甚造(きしもと・じんぞう)が伯耆大山を参拝した帰路、珍しい2本の穂を見つけ、持ち帰って栽培したのが始まり。発見当時はこの2本の穂にちなんで「二本草」と呼ばれていましたが、いつしか「雄町」と呼ばれるようになりました。さらに、現在は日本酒に必要不可欠な酒米となっている「山田錦」や「五百万石」のルーツともなっているそうです。
さて、そんな雄町はバリバリの野生種であるがゆえ、収量が少なく、病害虫に弱いことに加え、背丈が高いため倒れやすいという弱点がありました。そのため、食料増産の必要に迫られた戦時中には生産者が減り、幻の酒米と呼ばれるほどに。その後、復活を熱望する酒蔵などの努力によって生産が復活。現在は、その全生産量の95%を岡山県産が占めているそうです。
さて、「雄町とは何か」というテーマは、ここからが本題です。市田さんは雄町の特徴を以下の6点を挙げてくださいました。
・ふくよかで円みのある旨み
・幅のある複雑な味わい
・深いコク、長い余韻
・米の甘みと酸味との調和
・熟成を経て開く旨み
・あらゆる料理と調和
そして、その魅力を楽しむなら、常温か燗がいいとのお話。先述の項目のうち「あらゆる料理と調和」は一概にはいえないと思いますが、それ以外は納得のいく内容です。
セミナーを忘れ地元のおつまみと雄町のお酒を楽しむ
さて、セミナーでは上記の特徴を認識してもらう意味もあって、雄町を使った常温のお酒2種類、燗1種類が、岡山名産のおつまみとともに提供されました。お酒で共通していたのは、しっかりした旨みがあること。「野性味」と表現されていましたが、たしかに鮮やかな旨みが最初からズバっとくるのが魅力的。燗にするとまろやかさ、ふくよかさが際立ち、よりお料理にあう味わいに。牡蠣のアヒージョをはじめ、地元のおつまみとのマッチングも最高で、セミナーであることを忘れて居酒屋気分で楽しんでしまいました。
「雄町の特徴って?」と蔵元にぶつけてみた
また、セミナー会場には、6蔵の岡山県の蔵元が試飲ブースを構えており、雄町を使った自慢のお酒を試飲させてもらうことができました。せっかくなので、各蔵元にも「雄町の特徴って何ですか?」と疑問をぶつけて回りました。
「酒一筋」利守酒造・利守弘充さん
「山田錦が細くてキレイな味なのに対し、太くて厚みのある味わい。ややもすると重くなりがちだが、酸でキレ味を出すのが腕のみせどころ」
「櫻室町」室町酒造・花房利宇さん
「アミノ酸が多いので、酒米の中では食べてもおいしいほうです(食用としては値段が高いですが)。しっかりした旨み、しっかりした酸が出るので、これをウチの無濾過(炭素で色・雑味を除かないもの)のお酒で存分に楽しんでほしいですね」
「喜平」平喜屋・長島保栄さん
「雄町はふくよかな旨みがあり、最後に苦味が来るのが特徴。地元では、シャコ、ママカリ、タコなどの魚介と合わせることが多いです。“重い”と言われることもありますが、もともと岡山では濃いお酒が好まれているので、あまり気にされないようですね。ウチでは雄町を37%まで磨いたお酒も出しているんですが、そこまで磨くと十分なキレが出ます。しかし、せっかく心白(お米の中心の白く不透明なデンプン質)が大きいのだから、そこまで磨かなくても……」
まとめると、雄町のお酒とはふくよかで旨みたっぷり、あと味に独特の苦味があり、燗がバツグン。まさに酒飲みが好む酒質というのがわかります。その魅力を実際に味わってみたいという方には、10月20日(木)、21日(金)にセミナー会場と同じ場所で行われる「岡山地酒BAR」に目を向けてみるのもオススメ。これを機に、ぜひあなたも雄町の魅力に触れてみてください!
【岡山地酒BAR概要】
開催場所:とっとり・おかやま新橋館 2階催事スペース (東京都港区新橋1-11-7 新橋センタープレイス)
日程:10月20日(木)、21日(金)
開催時間:17時30分~20時30分
内容:岡山県の6蔵の蔵元の約40種の地酒・リキュールを、おちょこ1杯200円ないし400円で提供
料金:チケット制1000円(200円×5枚つづりのチケットを購入)
主催:岡山県・岡山県酒造組合
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