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2017/6/3 11:00

「世界一の日本酒」はどうやって選ばれる? 超人気銘柄「飛露喜」の蔵元が語る「SAKE COMPETITION 2017」の舞台裏

出品酒の数は世界最多。そのなかからもっともおいしい日本酒を決める、日本酒コンペティションが「SAKE COMPETITION(サケコンペティション) 2017」です。本コンペは特別に調整した出品酒でエントリーするプロ向けの鑑評会とは異なり、一般の消費者がお店で手に取れる「市販酒」が対象。事実上の世界一の日本酒を決めるコンペで、2012年からスタートし、今年ではや6回目を迎えます。

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酒販店で買える日本酒が対象の身近なコンペティション

本コンペで1位に輝いた銘柄は一気に知名度を増すとあって、年を追うごとに大きな盛り上がりを見せています。そのコンペの舞台裏がどうなっているのか、気になる方は多いはず。今回は、昨年に引き続き、その審査会にお邪魔するとともに、運よく審査員のひとりにお話をうかがうことができました。その審査員とは、いまや押しも押されぬ人気銘柄「飛露喜」(ひろき)を醸す廣木健司(ひろきけんじ)さん。緊迫した審査の様子とともに、廣木さんのコメントをたっぷりとお届けします。

※6月5日発表の審査の結果はコチラ

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↑廣木健司さん

 

業界の精鋭たちが銘柄を隠した酒の味を採点

今回の出品数は、453蔵(うち、海外からの参加は8蔵)、総出品数1730点。昨年の1462点から大幅にアップし、いっそう厳しい闘いとなりました。部門は、昨年設立された「Super Premium部門」(720mlで1万円以上、1800mlで1万5000円以上)に加え、今年からラベルデザイン部門、発泡清酒部門が新設され、これまでの純米大吟醸部門、純米吟醸部門、純米酒部門、吟醸部門と合わせて計7つになりました。

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審査会は、予審と決審の2日間にわたって開催されます。審査はすべてブラインドで行われるため、会場には、銀色のフィルムで酒銘を隠した酒瓶がズラリと並びます。しかも、審査員がテンポよく利けるよう、すべてのお酒の瓶とお猪口の間隔は37.5cmと厳格に定められ、等間隔で並べられているというから驚きです。

 

次に、審査員に目を移してみましょう。審査員は、日本酒業界の精鋭30余名。業界では特に著名な方ばかりで、当サイトでインタビューしたことがある「伯楽星」の蔵元杜氏、新澤巌夫さん、「玉川」の杜氏、フィリップ・ハーパーさんのほか、あの人も、この人も…と日本酒ファンなら思わずテンションが上がる面々です。ただし、和やかな雰囲気は微塵もなく、どの審査員も厳しい表情でお酒を利いていきます。一切の私語もなく、お猪口を手に取り、口に含み、淡々とチェックシートに採点を付けていく。この繰り返しで審査会は続いていきました。

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デザイン関係者が審査する「ラベルデザイン部門」も新設

ちなみに、「Super Premium部門」では、これらの審査員に加え、海外への輸出を見据える部門のため、外国人審査員の姿も。日本酒を発信し続けるジャーナリスト、蔵人、飲食店経営など、皆さん、日本酒LOVEな方ばかりです。また、今回、実行委員を務める中田英寿さんの発案により、ラベルデザインのみを審査する「ラベルデザイン部門」を新設。審査委員長に「good design company」の水野 学さんを据え、デザインの関係者による審査を実施。1位に輝いた受賞蔵は、審査員を務めるデザイナーに商品ラベルのデザインをしてもらえる副賞が付きます。

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↑ラベルデザイン部門の審査を行う水野 学さん(左)と審査の様子を見守る中田英寿さん(右)

 

超人気銘柄「飛露喜」の蔵元、廣木健司さんにインタビュー

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このように出品数も多ければ、部門も多彩、審査員はこのうえなく豪華という、他に類を見ない規模で行われるのが本コンペティション。その静かな熱気が溢れる審査会場でインタビューさせてもらったのが、福島県・会津の銘酒「飛露喜」の蔵元杜氏であり、本コンペの審査員を務める廣木酒造本店の廣木健司さんです。スター杜氏として知られる廣木さんはどんな思いで酒造りに臨んでいるのか、まずはその点を聞いてみました。

 

「自分の酒造りのテーマは、ずっと『濃密さと透明感の両立』ですね。通年製品の『特別純米』に関しては、現代日本酒の酒質の“メートル原器”でありたいと思っています。香りが高いもの、甘酸っぱいものなど、日本酒も多様化が進んでいますが、そのなかで、『飛露喜と比べてこの酒はどうか?』と言われるような、基準となる味わいでありたいと思っています。いま進めているのは、“時の力”を借りた熟成酒への挑戦。現在、熟成2~3年目に突入し、非常にいい状態で熟成が進んでいます。あと1年もしくは2年寝かせてみてから、世に問うてみようと思っています」(廣木さん)

 

「SAKE COMPETITION」は重要なターニングポイントだった

↑飛露喜の通年商品「特別純米」
↑飛露喜を代表する銘柄「特別純米」も出品されていました

 

――記念すべき第1回「SAKE COMPETITION 2012」純米酒部門では、「飛露喜 特別純米 生詰」が1位に輝いたこともある廣木さん。次に、「SAKE COMPETITION」とはどんな位置付けのものなのか、聞いてみました。

 

「『特別純米』は自分のなかでは完成形に近いと思っていて。受賞した際は、その思いに対するゴールはここだったんだと思いました。ですから、ここで受賞した『特別純米』は、そこから酒質を変革するものではなく、『飛露喜として守っていくべき味』という認識に変わりました。代わりに新たな酒造りのテーマとして浮上してきたのが、“熟成”です。その意味で、重要なターニングポイントになったのがこのコンペだと思います」(廣木さん)

 

近年は全体の造りのレベルが上がり、審査に悩むことも

――出品する一方、廣木さんは初回から審査員としても参加しています。1年目、2年目と年を重ねるごとに感じることはありますか?

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「特にここ4、5年、日本酒はぐっとレベルが上がり、酒造りの進化を実感しています。しかしそれは、審査員にとって年々審査が難しくなっているということです。審査員として参加した最初のころは、審査終了後に後悔することはありませんでした。何回利いても、落ちるお酒と、通るお酒の差がはっきりしていましたから。でも、いまは全体のレベルが上がってきていて、当落線上にたくさんのお酒がひしめいてる。『今日、自分がつけた点数は正しかったんだろうか?』という悩みが増えてきました」(廣木さん)

 

「蔵元の哲学」を汲み取れるような審査がしたい

――審査員も苦しむほど、年を追うごとに高レベルになってきた「SAKE COMPETITION」。そのなかで、廣木さんが大切にしている審査のポイントはどこでしょう?

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↑審査をする廣木さん

 

「まずはカテゴリに合ったお酒を選んでいます。本コンペは消費者のガイドになるものなので、一般の方のイメージから大きく外れたものは選ばないようにと。たとえば、『吟醸部門』ではフルーティで飲み口の良いものを中心に、といった形です。ですから、たまに、『これが純米部門でエントリーされてたらな…』というものもあります。

 

もうひとつは、一概に味がいい、悪いではなく、酒蔵がどう考えて造ったのか、という点まで汲み取っていきたい。各蔵元の造りの精度が上がり、味に意図を込めるようになってきた。審査する側も、どこまでその哲学を受け止めてあげられるか、という点をひとつの審査基準にしています」(廣木さん)

 

――ちなみに、ご自身の出品酒は、自分で審査していてわかるものなのでしょうか?

 

「今回はお酒を当てる審査ではないので、いま当てろといわれても無理ですが、仮に『出品酒のなかで、10本を選んでいい』と言われたら、その範囲内で自分が造ったものを選ぶ自信はあります。ただ、今回の審査で言えば、私は自分の『特別純米』には間違いなく最上位を付けていると思いますね」(廣木さん)

 

一般の愛好者が利き酒する時のポイントとは?

――最後に、プロのきき酒と違って、私たち一般の愛好家が、利き酒をする際のポイントを教えていただけますか?

 

「自分の舌に日本酒をのせたときに、いちばん最初に浮かぶ答えがとても大事です。人の意見を気にせず、まずは自分が飲んだときの感覚を言葉にしてみてください。その作業を続けたあとに、日本酒を飲み慣れている人とすり合わせてみる。こうやって自分で考えて言葉にしていくと、『ああ、これはあのお酒で感じたあの味だな』といった形で、必ず脳の思考と、舌のセンサーが繋がってきます。これは味覚の問題ではなく、意識して訓練すれば誰でもできること。それを積み重ねたら、利き酒がずっと楽しくなってくるはずですよ」(廣木さん)

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ひとつひとつ丁寧に言葉を選んで、理知的に語ってくれた廣木さん。日本酒の楽しさを教えてくれるとともに、「SAKE COMPETITION」の意義をしっかりと伝えてくれたインタビューとなりました。

 

そんな「SAKE COMPETITION 2017」の結果が発表されるのは、6月5日(月)。果たして今年はどの蔵が1位に躍り出るのか? 番狂わせはあるのか? 今から発表が待ち遠しいですね。

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↑審査が終了し、フィルムが外された日本酒

 

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