埼玉県の秩父といえば、秩父夜祭に秩父札所めぐり、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」も人気が高い。ほかにも、秩父・長瀞の舟下りも良く知られている。
とはいえ、秩父は首都圏近郊にある観光地の中では、やや地味という趣があった。そんな秩父の表玄関でもある西武秩父駅前に複合型温泉施設「西武駅前温泉 祭の湯」が本日4月24日にオープンした。池袋駅〜西武秩父駅間に「特急 レッドアロー号」を走らせる西武鉄道、そして「西武園ゆうえんち」などの西武沿線のレジャー施設を運営する西武レクリエーションが、秩父を活性化すべく、本腰を入れて造り上げた施設だ。
はたして、西武グループが目指す秩父地域の活性化、そして地方創生のモデルケースにつながるのか、その“実力のほど”を探っていこう。
刺激的な囃子(はやし)ことばが踊る「祭の湯音頭」
日ごろ秩父鉄道のSL撮影で利用する機会が多い西武秩父駅だが、ここ数年は駅前の工事が続いていて、何の工事なのか気になっていた。半年ぶりに駅前に降り立つと、朱色の外観の大きな建物が建っているではないか。屋根に多くの赤い提灯がつるされ、朱色の看板には「祭の湯」の文字、かなり個性的な造りの建物だ。
秩父では「秩父夜祭」ほか、300もの祭りが年間に開かれるとされる。そんな秩父の祭をイメージして造られたのが「祭の湯」だ。先日行われた内覧会では、西武レクリエーション社長および、施設総括責任者の挨拶のあと、今回の施設誕生に合わせて作られた「祭の湯音頭」が披露された。こうした内覧会で、踊り付きの催しとは珍しい。さらに「祭の湯音頭」の囃子ことばには驚かされた。
ちちぶったまげ! ちちぶったまげ! ……金運上昇、恋愛成就、そうだんべぇ!
「“ちちぶったまげ!”…そうだんべぇ?」このフレーズには、それこそ“ぶったまげ”というべきか、踊りの振り付けを指導したパパイヤ鈴木さんも登壇。こうした試みひとつをとっても、西武グループも「これまでのイメージを大きく変えるようなインパクトのある施設にしたい」という思いが強いのだなと感じた。
露天風呂から望むのは秩父のシンボル武甲山
実際に「祭の湯」は、日帰り温泉として観光施設として練り込まれた要素がいろいろと詰まっていた。秩父夜祭のやぐらを思わせる入口から「祭の湯」へ入ると、パブリックスペースの呑喰処「祭の宴」の奥に入浴施設の入口がある。
浴場は2階だ。まずは広々した内湯には高濃度人工炭酸泉、ジェットバス、超細密な気泡で生まれたシルク湯などの浴槽がある。そして露天エリアに出ると、まずは目に入るのが武甲山(ぶこうさん)の雄姿だ。武甲山は日本二百名山にも上げられる名山。駅前にある温泉施設にも関わらず、武甲山が望める立地の良さ。まずは眺望の良さがこの施設の魅力となっている。
その姿を仰ぎ見る露天スペースに花見湯、天然温泉の源泉が注がれる岩風呂、つぼ湯、寝ころび湯が点在する。泉質は「含よう素-ナトリウム-塩化物冷鉱泉」。ペーハー値は7.5で、弱アルカリ性だ。源泉湯に入った感触は、肌にしっとりとくる印象。湯切れが良く、爽やかな浴後感を覚えた。
「岩盤浴」に「ほぐし処」や「くつろぎ処」まで
男女浴場の外には共用施設として「岩盤浴」に「ほぐし処」(いずれも別料金)がある。さらにリラックス施設も充実しており、まずテレビ・コンセント・読書灯付きのリクライナーを備えた「くつろぎ処」、畳敷きの「寝ころび処」がある。のんびりくつろぐのに最適なスペースだ。隣との間仕切りも設けられたリクライナーだが、人目が気になるという人向けに半個室形のリクライナーを備えた「プレミアムラウンジ(別料金)」も用意。プレミアムラウンジでは宿泊利用も可能だ。
また、入浴施設の入口1階に「温泉内レストラン・秩父湯台所」も設けられ、「豚味噌御膳(1380円)」や「わらじかつ御膳(1380円)」などの御膳ものを中心に用意している。
秩父の味がふんだんに楽しめる「呑喰処 祭の宴」
入浴施設内の「秩父湯台所」以外にも、「呑喰処 祭の湯」(フードコート)が設けられた。こちらは入浴施設を使わなくとも利用できるパブリックスペースにある。
ここで提供されるメニューは実に豊富だ。特に秩父の味が充実している。豚味噌丼や、秩父名物のわらじかつ丼、そば・うどん、秩父味噌を使った味噌ラーメン、たい焼・たこやき、また無煙のロースターで楽しむ焼肉ホルモンのコーナーもある。
実際に秩父名物とされる「わらじかつ丼」をいただいてみた。並(950円)は丼に入り切らない大きさのロースかつとひれかつがそれぞれ1枚のる。揚げたてのかつはサクサク。特製の甘辛味噌味のたれが絡み美味しい。この2枚もりの並でもボリューム満点で、三枚の大(1250円)や四枚の特(1550円)ともなると、ボリューム感は半端ないだろう。
左党には立ち飲みの「酒匠屋台」がおすすめ
呑喰処「祭の宴」の隣にあるのが「ちちぶみやげ市」。電車を待つ時間のおみやげセレクトに格好のショップが並ぶ。秩父定番の土産品が勢ぞろいするコーナーのほか、秩父銘仙や洋菓子、お風呂グッズなどを備えた「秩父美人屋台」にも注目したい。
さらに左党が気になるのは「酒匠屋台」だろう。地元蔵元の日本酒やワインなどを供えたコーナーで、おつまみと酒が楽しめる「ちょい呑みコーナー」も併設。秩父三蔵地酒飲み比べ(500円)など気になる“ちょいのみメニュー”も用意されている。
今が見ごろの羊山公園の芝桜。そして……
せっかくなので、この季節にお勧めの西武秩父駅周辺のベストスポットを紹介しておこう。まずは西武秩父駅から徒歩25分(西武秩父線横瀬駅から徒歩20分)の羊山公園(ひつじやまこうえん)。ピンク、紫、白などの芝桜が5月上旬にかけて見ごろとなる(入園料300円)。園内の芝桜の丘には、約40万株の芝桜が植えられ見事だ。園内から見る一面の芝桜と武甲山の風景が絵になる。
なお、西武秩父駅へは西武鉄道の観光列車「旅するレストラン52席の至福」も走っている(週末を中心に不定期運転)。昼に走るブランチコースと、夜に走るディナーコースがあり。羊山公園の芝桜見物のあとに、西武秩父駅前温泉の「祭の湯」で一休み、さらに「旅するレストラン52席の至福」で料理を楽しむ、といったコース設定も楽しいかも知れない。
西武秩父駅前に「祭の湯」が誕生したことで、秩父観光の拠点となるポイントが生まれた。秩父の魅力が高まったことは確実ではないだろうか。
【施設情報】
西武秩父駅前温泉「祭の湯」
住所:埼玉県秩父市野坂町1-16-15
入浴料:大人(中学生以上)/平日 980円、土休日・特定日 1080円、こども/(3歳〜小学生)平日 600円、土休日・特定日 710円 ※タオル・館内着は別料金
営業時間:平日・日曜日・祝日10時〜23時(最終受付22時30分)、金・土・祝前日・特定日10時〜翌9時(最終受付23時30分)、年中無休
交通:西武鉄道西武秩父駅前、車利用は関越自動車道花園ICから国道140号で約45分、駐車場39台(2時間まで無料)
※土休日・特定日の翌日6時〜9時は朝風呂も営業(大人 760円、こども 500円)