毎年、アルコール市場で注目される動向のひとつがビール類です。”消費者のビール離れ”などが叫ばれているように、2016年も苦戦。その出荷量は前年比2.4%減となり、12年連続で過去最低を更新(ビール大手5社が発表)しました。そもそも、なぜビールはここまで売れなくなってしまったのでしょうか? 今回はその背景を探るとともに、酒とビールを取り巻くシーンと今後の動きを追っていきたいと思います。
ビール全体が下降するなかクラフトだけは好調!
冒頭で述べたように、ビールやビール系飲料の出荷量が年々下がっている”ビール離れ”の理由のひとつが「ほかのお酒を飲むようになったから」だといわれています。事実、ウイスキーや酎ハイなどは各社売り上げが好調で、ワインの最大消費量も右肩上がり。一方、ビール類はこのまま少しずつ衰退していってしまうのでしょうか。
実際のところ、そうとも言い切れません。すべてのビールが落ち込んでいるわけではなく、中には元気なジャンルがあるからです。それがクラフトビール。ここ数年の間に専門店や取扱店が増え、フェスも盛んに開催されるようになりました。都内のコンビニなら、缶や瓶でその商品を見かけることも日常的に。あくまで予想数値ですが、全体として1~2割の拡大が見込まれる成長市場だといわれています。
また、海外の動向を見てみると、たとえばクラフトビールが盛り上がっているアメリカでは、ビール全体のなかでクラフトのシェアが12%超え。一方、日本はブームといわれながらもまだ1%未満で、クラフトビール後進国なのです。しかし、だからこそまだ伸びしろがあり、黎明期といえるいまはかなり大事な局面を迎えているともいえるでしょう。
京都に今秋オープンする新店など今年も積極展開が目白押し!
そんな状況のなか、大手ビールメーカーで特にクラフトに力を入れているのがキリンです。2015年の春には、代官山にクラフトビアレストラン「SPRING VALLEY BREWERY(以下:SVB) TOKYO」をグランドオープン。また、公式オンライン通販「DRINX」でSVBの商品を発売したり、クラフトマンシップあふれる「グランドキリン」をスーパーやコンビニで発売したりと積極的に活動しています。
特にSVB東京は、定期的に限定ビールの発売やイベントを行うなど、飲食店としてもかなり意欲的に販促のアプローチを展開。いまや1週間に4000~5000人が訪れるほどの活況だとか。そして、同店がこの春先にかけて仕掛けているのがグランピングや草鍋なのです。
ちなみに、グランピングとは「グラマラスキャンピング」の略で、ざっくりいうとキャンプ場のサービスを高級ホテルのように楽しむもの。昨今では新たなアウトドアのトレンドとして注目されていますが、SVBでは食シーンの提案として簡易的に取り入れたスタイルとなります。
一方の草鍋は、2016年のトレンド鍋としてぐるなびが調査・発表した、たっぷりの青野菜が特徴の一皿。SVBでは、パクチー、クレソン、ケール、芹、ニラ、春菊を、鶏肉の白湯スープで味わう草鍋をメインに、スモーク盛り合わせと雑炊が付いたコースとして提供されます。でも、どうしてビールだけでなく空間サービスや料理にもこだわるのでしょうか? 思い切ってSVBの和田 徹社長に聞いてみました。
「私たちのテーマは“ワクワクするビールの未来を”。もっとビールの面白さを伝えていきたいですし、ビールを楽しいものにしていく使命があるとも思っています。その大きな可能性を秘めているのがクラフトビールではないでしょうか。昨今、クラフトビールは盛り上がっているといわれ、おかげさまで弊社としても成長分野のひとつです。とはいえ、トレンドから日常的なお酒になることが大切であり、また日本のビールが目指すべきひとつの姿ではないかと。そのためにグランピングや草鍋など、クラフトビールの入口となるきっかけやフードペアリングの醍醐味を、お客様にどんどん提供できたらと考えています。ほかにも多くの企画を進めておりますので、ぜひご期待ください!」(和田社長)
調べてみると、確かに今年はクラフトビール関連の発表が目白押し。首都圏の飲食店を中心に「タップマルシェ」というコンパクトな専用サーバーを提案し、小規模な店でもクラフトビールを提供しやすくするそうです。ほかにも、秋には京都にSVBの3号店がオープン。さらには日本屈指の銘柄「よなよなエール」と、NYの人気銘柄「ブルックリン ラガー」が飲める店を積極的に増やしていくとか。特にSVB京都店は、個人的にも気になるところ。今後の動向にも注目していきたいと思います。