話題のブルワリーで行われたイベントで「ビール」と「寿司」の新しい関係が見えてきた
2015年の4月にオープンし、同年のクラフトビール関連の話題をさらったキリンの「スプリングバレーブルワリー(以下SVB)」。その東京店で、2月26~28日に「寿司フェス」という一風変わったイベントが開催されました。
↑「SVB東京」の外観。「ログロード代官山」という商業施設の入口にあります
趣旨は、同店ほか有名なクラフトビールのブルワリーと回転寿司の実力店を集め、12種のビールと12種の寿司を飲み食いしながらペアリングの楽しさを体感するというものです。このイベントを通じて見えてきたのは、寿司とビールの新しい関係。イベントの様子に触れながら、その関係性を明らかにしていきましょう。
↑こののれんやスタッフが着ている半被は、「寿司フェス」用に特注したとか。同社の遊び心や気合を感じます
はじめに関係者向けのオープンニングセレモニー的なあいさつが行われました。主催者である「スプリングバレーブルワリー株式会社」の和田 徹社長をはじめ、ビール評論家の藤原ヒロユキ氏、回転寿司評論家の米川伸生氏などが登壇。
社長は「ずっとやりたくて温めてきたアイデアが実現できた」とうれしそうに述べるとともに、「これをきっかけに、寿司だけにとどまらず日本の色んな食とのペアリングを提案して世界に発信していきたい」と意気込みも語りました。その後もあいさつは続きましたが、興味深かったのが米川氏のコメント。
↑回転寿司評論家の米川氏。2007年に「TVチャンピオン2」の回転寿司通選手権チャンピオンに輝くなど幅広く活躍しています
「『寿司には日本酒』というのが定説ですが、回転寿司店において最も飲まれているお酒はビールなんです(米川氏)」とのこと。確かにその実証からしても、決してビールが寿司に合わないということはなさそうです。そして米川氏はこうも付け加えました。「特に回転寿司ではマヨネーズが多用されたり肉や揚物を乗せるものがあったりと、味のバラエティが豊富ですよね。一方でクラフトビールもスタイルによって味や色の濃淡が幅広いうえ、フレーバータイプがあるなど、その多彩性がよく似ているんです」。有識者のお墨付きにペアリングの楽しさへの想像力を膨らませつつ、いよいよ試食がスタートしました。
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寿司とビールの相性には「B」と「C」が重要だ!
用意された12種の寿司は実力派の回転寿司店が各4種用意したもので、ネタはもちろん味の濃淡も様々。マグロを使った定番はもちろん、手巻き、炙り、馬肉、ロール寿司、寿司の天ぷらなど実にバラエティ豊かな寿司が並びました。
一方、ビールは「ヤッホーブルーイング(長野)」の看板商品「よなよなエール」や、「KONISHIビール(兵庫県)」が誇る世界大会金賞受賞の「スノーブロンシュ」など全12種。ブルワリーは「石川酒造(東京)」や「木内酒造(茨城)」も集まりました
↑左手前から「ウニ・蟹・ホタテの炙り飯」、「沖寿司特選上穴子」、右奥は「炙りサバ3貫」。埼玉や千葉で展開されている「沖寿司」によるものです
↑試食会で用意されたのは、12番の「Daydream」まで。13~16番は「寿司フェス」用ではありませんが、「SVB」の定番ビールです
でも、ただ闇雲に食べればいいというものではありません。ペアリングの前にということで、藤原氏からアドバイスが指南されました。「相性を考えるうえで大切なのは3つの『BとC』。これは『発祥国(Birthplace)や地域(Country)』、『焦げ色と色味(BurntとColor)』、『バランス(Balance)や組み合わせ(Combination)』のことです。そして味の対比においては、ほかのフードを例に挙げるとわかりやすいでしょう。たとえば甘味と苦味の関係性はチョコ、甘味と酸味ははちみつレモン、甘味と塩味はあんこ、塩味と酸味は梅干しといった形でお互いが相乗効果を生み出しています(藤原氏)」。
↑日本ビアジャーナリスト協会会長でもある藤原氏。国内外のビールコンテストで審査員を務めることも多数という、日本屈指のビール評論家です
さらに、ビールの味はモルトの甘みとホップの苦みを掛け合わせ、発酵で酸味のバランスを整えるのが基本設計とも。つまりは、ビールと味の方向性が似た寿司であれば相性もいいと考えやすいということですね。
具体的には、甘辛い「ツメ」が塗られる穴子や、炙られて香ばしくなった寿司にはロースト香のあるタイプや黒ビールが合い、酢じめされたバッテラなどは酸味や柑橘香の強いビールがマッチするということでしょう。そんなアドバイスも頭に浮かべながら、まずは試食をして好みのペアリングを探してみました。
↑ちなみに今回の寿司屋は3軒とも、偶然にも筆者が編集に携わったムック「立ち食い&回転寿司 名店100 首都圏版(写真左)」で選ばせていただいたお店でした。ガチの名店なので店も本もぜひチェックを!
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マイベストペアリングはこれ!
そんなこんなでいろいろと食べ、飲み比べてみました。ペアリングを意識しながらというのは、五感が磨かれる気がします。そして悩みながらも個人的TOP3を決めたので、発表させていただきましょう。
↑「SVB」の白ビール「Daydream」と、「独楽寿司」の「とろけるエンガワ寿司 トリュフ風味」。藤原氏の言う「焦げ色と色味」の考察にも当てはまるペアリングでしょうか。濃厚でありながら味は淡泊なエンガワと、優しいボディながら柚子と山椒の効いたビールがよく合います
↑「常陸野ネスト(木内酒造)」の技アリな米麹ビール「セゾン・ドゥ・ジャポン」と、「沖寿司」の「だて鮪ホホ肉の炙り」。日本酒の酒蔵でもある木内酒造ならではの米使いが素晴らしく、芳醇な脂が乗った寿司のうまみを消すことなく、さっぱりと上品に包み込みます
↑「SVB」のピルスナー「COPELAND」と、「三浦三崎港 恵み」の「三崎まぐろ」。適度な苦味とピルスナーらしい爽快感を持ち合わせたビールの味が、マグロ本来の味を感じる赤身のネタとベストマッチ!
なお、ビールで個人的に気になったのは「SVB」が今回のために特別醸造した2種のビールです! ひとつは「鮨祭(すしまつり)」と名付けられたカナディアンエールスタイルの一杯。柔らかい甘味と華やかな口当たりが特徴で、適度な酸味が寿司のおいしさを引き立てます。
そしてもうひとつが「あがりエール」というエクスペリメンタルエール。こちらはほうじ茶の香ばしさと渋味が麦芽の甘みと見事に調和する、クセになるおいしさでした。個人的には「あがりエール」は市販してほしいと強く思うほどのおいしさ。「こんなに寿司に合うビールは飲んだことない!」という印象とともに、改めて「SVB」の技術力にビックリ!
↑スタッフも大忙し。黒、茶褐色、淡色と、色だけでも種類は様々です
様々なパターンを試すなかで個人的に思ったことがあります。それは、寿司はビールの味を邪魔しないので、ピュアなおいしさを楽しめるということ。たとえばこれが肉料理だった場合は、またちょっと違った味の印象になるのではないかと思います。そもそも”動物系の脂は常温になると固まるが、魚の脂は固まらない”という説があるように、サラっとした魚介系の脂は、ビールの味を邪魔せずに調和するといえるのではないでしょうか。
↑「寿司フェス」の中心メンバーをはじめ、各ブルワリーと寿司店の代表者が一堂に。ちなみに下段右から2番目の職人は、「グローバル寿司チャレンジ2015」で世界一に輝いた独楽寿司の地引 淳氏です
なにはともあれ、試食会は用意した寿司が一瞬でなくなってしまうほどの大盛況。「SVB」としても挑戦的なイベントだったかと思いますが、3日間の来店目標を1500人に設定していたところ、結果は1700人と大好評だったとか。
世界中に広がる和食とSUSHIブーム、それとともに訪日観光客の急増でインバウンド市場が拡大する昨今。2020年の「東京オリンピック」に向けて、国内の寿司需要もますます伸びるでしょう。少しずつ浸透しつつあるクラフトビールのトレンドとともに、相互に盛り上がってほしいと思います。そしてこの勢いで第二回の「寿司フェス」にも期待してますよ、「SVB」さん!