私が息子に作ったお弁当は、果たして弁当と呼べるものだったのだろうか?
振り返ってみると、胸が痛む。私なりに一生懸命、作ったつもりだが、自信はない。
料理は好きだが、お弁当作りは苦手で、時間ばかりかかった。唯一、自信が持てるのは、息子はただの一度も、「今日のおかずなにかな」と、ワクワクしながら、蓋をあけたことはないということだけだ。
そんなことに自信を持ってどうする?と言われそうだが、本当のことなのだから、仕方がない。
いつも同じおかずだったのだ。
毎日、同じ献立
小学生のときは、少しはワクワクしたかもしれない。頑張って、可愛いお弁当を作ったつもりだ。
小学校は給食だったので、運動会と遠足だけ頑張ればよかったからだ。
しかし、中学生になるや、毎日、同じ献立になった。牛肉を甘辛く煮たものに、塩鮭、卵焼き、梅干し。十年一日のごとく、このおかずばかり。
たまに、塩鮭が西京焼きに、ご飯が握り飯に「変身」するのがやっとで、野菜が足りないかと、別の小さな容器にキムチをいれるのもいつものことだった。
私は弁当が傷むのが怖くてたまらない母親だった。
だから、お弁当箱につめたあと、うちわでパタパタとあおぎ完全に湯気がでなくなってからでないと蓋をしめなかった。
うちわを手にした私を見て、最初のうち、夫は「なんだ?寿司か?いいな」などと言っていたが、寿司など作ったことは、ただの一度もない。胸を張って言えることではないが、胸を張って言える。
息子の弁当は茶色いと気づく
朝、起きて、電気がまのスイッチを入れ、「弁当のおかず、何にしよう」と、息子に聞き、「いつものでいいよ」という答えを聞いて、牛肉を切った。
「もっと他のものを作ってやろう」とは思わなかった。
いつものでいいと本人が言うのだから、それでいいと思っていたのだ。ところが、ある日、お昼過ぎに急に息子が帰ってきたことがあった。友達と一緒だった。台風だったか、インフルエンザのために学級閉鎖だったか忘れたが、とにかく集団下校してきたのだ。
「お昼、食べた?何か作る?」と、聞くと、「弁当があるからいい」という返事だった。
せめてと思い、お茶と味噌汁を出しながら、お友達の弁当をのぞき見して、驚愕した。
手がこんでいて、彩りゆたかだ。綺麗~~。
小さなトマトに、キュウリが入った竹輪、ハンバーグにマカロニサラダ。どうやったら、こんなに手の込んだものを作ることができるのだろう。
それにひきかえ、うちの息子の弁当といったら、全体的に茶色い。品数も友達の半分しかない。ひたすらにおっさんぽい。まるで居酒屋のつまみだ。これをお酒なしで食べるのはつらかろう。
頑張ったお弁当
反省した私は翌日、頑張った。とくにマカロニサラダに衝撃を受けたので、スーパーで「サラダスパ」の材料を仕入れ、朝早く起きて、用意した。
ミニトマトもつけたし、ご飯の上には、ふりかけで絵まで描いてやった。ただし、時間がなくなり、うちわであおぐ余裕はなく、まだ湯気のたっている弁当箱の蓋を閉じ、「はい!」と、胸をはって渡した。
いつもより時間がかかったため、遅刻ギリギリとなった息子は、「いいからっ、もう行くよ」と、ひったくるように受け取り、ダッシュで出かけた。それでも、私は満足だった。ちゃんとした母親になれたような気がした。
ぐれてやると言われる
反応を楽しみに待っていたのに、帰るなり、息子は言った。「おなかすいた。何か食べるものない?焼き芋がいい」と。芋を焼きながら、弁当箱を受け取ると、ほとんど残っている。
息子は言った。
「あのさ、なんでサラダスパなんていれたの?マヨネーズとご飯がまざちゃって、ぐちゃぐちゃでもう本当にえらいことになってたよ」
「えっ!明日は別の容器に入れなくちゃ。キムチは休み」と、答えると、「頼むから、もうやめて。俺、今日の弁当続くなら、グレるかもしれない」。
笑ってはいたが、目はマジだった。私は言葉を失った。見栄を張り、できもしなことをしたのが悪かったのだ。綺麗な弁当が作れる素敵なママになど、なれるわけがないのに……。
お弁当作りの基本
それでも、『10分でおいしい!朝つく弁当』(本田明子・著/学研プラス・刊)があったら、もう少しはましなお弁当を作ってやれただろう。
おいしそうなおかずが満載だ。 それも、苦労しなくても、朝、さっと作れるものばかり。
お弁当作りの基本は6つ
1.小さな調理器具を用意すること
2.中までしっかり火を通す
3.味つけは濃い目に
4.削り節やすりごまで汁けをカット
5.味見用に材料は少し多めに
6.ご飯は朝炊いたものを用意
私は1と4ができていなかった。
時短のコツは? さらに、お弁当を手早く作るには、次の5つのコツが必要だ。
1.前夜に材料をまとめておく
2.調味料はなるべくシンプルに
3.ドーナツ状にして冷ます
4.便利な市販品を活用
5.夜のおかずを少し取っておく
こちらは2しかできていなかった。だからやたらと時間がかかり、洗い物が山と出る弁当作りとなったのだろう。ちょっとしたコツをつかんでいればよかったのになと、思う。
お勧め簡単レシピを一つだけご披露
紹介したいレシピはたくさんあるのだが、彩がよく、ひとつの鍋で作れて絵のようにきれいなのが、そぼろ丼弁当。
(1)まず、下ごしらえした絹さやをさっとゆで、斜めに切る
(2)鍋をさっと濡らして、卵1個に塩少々とみりん小さじ1を加えて、いり卵を作る
(3)また鍋を濡らし、鶏のひき肉にショウガのすりおろし少しと醤油と酒を小さじ2~3、みりんと水を大さじ1加え、水分がなくなるまで炒る。
これだけで、なんかこう「素敵なお母さん」って感じのお弁当ができあがる。
今さら取り返しがつかないが、今、毎日、お弁当作りに悩んでいる現役のパパやママに、是非、お勧めしたい一冊だ。
(文・三浦暁子)
【文献紹介】
10分でおいしい!朝つく弁当
著者:本田明子
出版社:学研プラス
忙しい朝でもパパッと簡単に作れるおべんとうレシピ集。フライパンや鍋ひとつで3品同時に仕上げるお弁当やのっけるだけの丼弁当、人気のおかずを手早く作るコツ、味別おかずカタログなど、毎日役立つお弁当アイディアが満載。
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