吉森信哉のレンズ語り~~語り継ぎたい名作レンズたち~~ 第6回「キヤノン 超望遠ズームレンズ(100-400mm)」
ここ数年の間に、多くのカメラ・レンズメーカーから、焦点距離400mmまでカバーする、いわゆる「超望遠レンズ」が発売されるようになった。だが、キヤノンはかなり前から、このカテゴリに該当する一眼カメラ用交換レンズ「100-400mm」を発売している。しかも、現在ラインナップされているのは“二代目の100-400mm”であり、画質面でも操作面でも大きく進化させた製品なのだ。
現在、各社から発売されている400mmまでの超望遠ズームレンズには、コストパフォーマンスを重視した製品と、光学性能やAF性能を追求した製品がある(厳密に分類するのは難しいが)。
今回紹介する、キヤノン「EF 100-400mm F4.5-5.6L IS Ⅱ USM」は後者に該当する製品であり、プロやハイアマチュアのシビアな要求に応える「L(Luxury)レンズ」の1本。その進化した超望遠ズームレンズの特徴や魅力を、実際に撮影した作例写真とともに探ってみたい。
【今回紹介するレンズはコレ!】
光学性能も手ブレ補正も大幅に向上した二代目モデル
キヤノン
EF 100-400mm F4.5-5.6L IS Ⅱ USM
実売価格23万9620円
先代のロングセラー製品「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」の後継モデルで、最新の光学設計により画質が大幅に向上。蛍石レンズ1枚とスーパーUDレンズ1枚を含む新しい光学設計により、ズーム全域において、画面周辺部まで高画質を実現。さらに、独自の新開発コーティング技術「ASC(Air Sphere Coating)」の採用で、フレアやゴーストも大幅に抑制。IS(手ブレ補正機構)の効果も、従来モデルのシャッター速度1.5~2段分から「4段分」に大幅に向上している。不規則な動きの動体撮影に最適な「ISモード3」も新搭載。2014年12月発売。
●焦点距離:100-400mm ●レンズ構成:16群21枚 ●最短撮影距離:0.98m ●最大撮影倍率:0.31倍 ●絞り羽根:9枚 ●最小絞り:F32-40 ●フィルター径:77mm ●最大径×全長:94mm×193mm ●質量:約1570g ●その他:手ブレ補正効果4.0段分(CIPAガイドライン準拠)
約20年前に発売された初代「100-400mm」を振り返る
二代目モデルを語るうえで、まずはデジタル一眼レフが普及する前の“2000年以前”に発売された、超望遠400mmまでカバーする初代モデルについても触れておきたい。
1998年12月に発売された本レンズは、報道写真の分野や動きの激しいスポーツ、近づけない動物など、プロフェッショナルや特殊な撮影現場で高いパフォーマンスを実現。L(Luxury)レンズに相応しい描写性能や、手ブレ補正機構「IS」の搭載により、望遠や超望遠撮影を重視するカメラマンに支持されてきた。
今回紹介する二代目「100-400mm」レンズは、そんな初代レンズから画質面でも操作面でも大きく進化しているのだ。
超望遠ズームのメリットを具体的なシーンで語る
望遠ズームレンズの最大の特徴は、近づけない被写体でもズーム操作によって“大きく写せる”という点である。そして、望遠側の焦点距離が長くなるほど、より離れた被写体も大きく写せるし、同じ距離なら画面上により大きく写すことができる。
それでは、筆者が実際に撮影していて感じたメリットを、この超望遠画角を生かした具体的な撮影シーンを挙げながら紹介しよう。
【その1】近づけない被写体を、超望遠画角で大きく写す
駅前に設置された木製の案内板に、削り出しのネコのキャラクターを見つけた。その可愛らしい表情を400mmの画角で切り取る。目線よりも高い位置になり、しかも周囲に柵が設置されている――。超望遠の画角を利用すれば、そんな“近づけない被写体”も大きく写すことができる。
【その2】引き寄せ効果+前ボケ効果で幻想的な雰囲気に
離れた被写体が、あたかも近くにあるように写せる。これは「引き寄せ効果」と呼ばれるもので、望遠になるほど高まる効果である。この花もけっこう離れた位置に咲いているが、400mmの画角によって、手が届く位置にある花のような感覚で捉えられた。そして、手前にある草を「前ボケ」として画面内に取り入れることで、幻想的な雰囲気に仕上げることができた。
【その3】一輪の花も大きく写せる、短めの最短撮影距離
花壇に咲く花のなかから、比較的近い位置にある一輪を主役に抜擢。そして、望遠端400mmの画角で、最短撮影距離近くの間合いで撮影。当然、マクロレンズには敵わないが、超望遠ズームレンズとしてはけっこう“寄れるレンズ”と言えるだろう。
【その4】離れたフラミンゴも大きくシャープに!
多くのフラミンゴが活発に活動する、動物園内の浅い池。その池の対岸近くに、これから羽ばたこうとする一羽を見つけた。そして、素早くズームリングを望遠端に設定し、羽ばたく瞬間を大きく捉えた。“望遠端で絞り開放”という条件になったが、レンズの光学性能とAF精度のおかげで、シャープな描写を得ることができた。
【その6】進化した手ブレ補正機構ISでファインダー像も安定
超望遠の手持ち撮影では、わずかなカメラの動きで、ファインダー(または液晶モニター)の像が大きく揺らいでしまう。高速シャッターで撮影画像のブレは抑えられるが、それでは安定した構図を得るのが難しくなる。だが本レンズでは、手ブレ補正効果がシャッター速度「4段分」に進化した手ブレ補正機構ISにより、そのあたりの不安もかなり解消される。
【その7】贅沢な光学設計で画面周辺部まで画質が安定
中央付近はシャープだが、画面周辺部をチェックすると、像のアマさや乱れが見られる……。そのあたりが、コスパや大きさ・重さを重視して設計される“安価な望遠や超望遠ズーム”の泣き所。だが、本レンズは、色収差を抑える蛍石レンズ1枚やスーパーUDレンズ1枚などを含む贅沢な光学設計によって、ズーム全域で画面周辺部まで高画質を実現する。だから、画質が最重要視される風景撮影にも安心して使用できる。
【その8】超望遠で離れた列車をじっくり撮る
こちらに向かってくる列車は、距離が近くなるほど体感速度が増してくる。そして、わずかなシャッターのタイミングのズレによって、写り具合(列車の位置など)も大きく変化する。もちろん、そういう状況の醍醐味もあるが、思い通りに写せない確率も高くなる。だが、超望遠域で距離を置いた撮影なら、列車位置の変化も激しくないので、シャッタータイミングによる失敗も少なくできる。