毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史作家・谷津矢車さん。今回は「未来」をテーマに様々なジャンルから5冊を紹介してもらいます。
不確定な未来の指針となるべき一冊が必ず見つかるはずです。
「空を飛ぶ」こととともに、人類が長らく「未来を知る」ことを夢見てきた。
「空を飛ぶ」ことは制限付きではあるとはいえ科学技術の発展により現実のものとなったのに対し、「未来を知る」ことに関しては太古の昔からあまり変化がないように見受けられる。訝しく思われる向きは、朝、テレビの電源を入れていただきたい。二千年前以上前から受け継がれてきた星占いが今日も放送されているはずだ(いや、わたしは別に星占いを否定するつもりはないし、わたし自身占いがいい結果だと心が晴れやか、今日も一日仕事を頑張るか、となる非科学的な人間である。小説家は人気稼業、ゲンを担いだり占いを気にしたりということがなきにしもあらず)。
とはいえ、人類は「未来を知る」ことを夢見て、学問や芸術という望遠鏡を作り上げた。そして21世紀現在、我々人類はおぼろげながらも未来の姿を捉えることに成功しているようである。今日は、未来に目を向け、現代の我々に警鐘を鳴らす本を紹介していきたい。
冷徹な計算とロジックで未来に立ち向かう
まずご紹介するのはこちら、「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」(正垣泰彦・著/日本経済新聞出版社・刊)である。皆さんも一度はお世話になったことがあるであろう外食大手のサイゼリヤの創業者である著者の経営哲学や経営の発想法がつづられた一冊である。2018年の末にネットニュースやツイッターで話題になった本でもある。もしかすると本稿をお読みの皆様のなかにも、本書の「バズり」をご覧になった方もおられるはずだ。
本書、話題になるはずである。この手の本にありがちな綺麗事や根性論はどこにもない。あるのは冷徹な計算と、明確なロジックなのである。わたしは飲食業を営む予定はないが、本書の言葉には頷き、鱗が落ちるところが多かった。なにより感銘を受けたのは、環境に合わせて自らの形を変えていきつつも己の経営の核を守るという著者のスタンスである。
今日、わたしたちをめぐる環境は刻一刻と変化している。そんななか、自分の浮沈を環境のせいにしていても始まらない。むしろ、変わりゆく環境をチャンスと捉え、理念を持って新しいものを提示し続けることの大切さを本書は教えてくれる。明日という未来を生きるわたしたちの羅針盤にもなりうる一冊である。
日本の未来を具体的にイメージして、備える
二冊目は「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」(河合雅司・著/講談社・刊)である。こちらはベストセラーになっているから、既にお読みの方も多いだろう。少子高齢化社会が進行している現代日本がこのまま未来に向かうとどういったことが起こるのかを詳述した本である。
本書の魅力は、従来は数字で示され、今一つイメージのしにくかった「少子高齢化社会」のもたらすマイナス面に、具体的なイメージを与えたところにある。2020年には女性の半数が五十代以上になり、2033年には三軒に一軒は空き家になる、と言われても、今一つわたしたちにはピンとこない。だが、本書はそういった「数字」に具体的な肉付けをしてゆく。リアルな像が目の前に提示されることで、ようやく少子高齢化が我々の社会に与えるダメージを想像できるのである。
ちなみに本書は日本全体のことを論述した総論になっている。本書の続編で、少子高齢化社会が個人にどういう影響を与えてゆくのか、そしてどのように個人として備えていけばよいのかを論述した「未来の年表2」(同じく講談社)と併せて読むと、未来の日本が直面する問題について、様々な角度から理解できることであろう。
未来を知ることは、備えになる。未来の日本の住人であるわたしたちが読んでおくべき一冊と言えよう。