本・書籍
2019/1/31 21:00

年1000冊の読書量を誇る作家が薦める、日本の、世界の、人類の「未来」について考える5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史作家・谷津矢車さん。今回は「未来」をテーマに様々なジャンルから5冊を紹介してもらいます。

 

不確定な未来の指針となるべき一冊が必ず見つかるはずです。


 

「空を飛ぶ」こととともに、人類が長らく「未来を知る」ことを夢見てきた。

 

「空を飛ぶ」ことは制限付きではあるとはいえ科学技術の発展により現実のものとなったのに対し、「未来を知る」ことに関しては太古の昔からあまり変化がないように見受けられる。訝しく思われる向きは、朝、テレビの電源を入れていただきたい。二千年前以上前から受け継がれてきた星占いが今日も放送されているはずだ(いや、わたしは別に星占いを否定するつもりはないし、わたし自身占いがいい結果だと心が晴れやか、今日も一日仕事を頑張るか、となる非科学的な人間である。小説家は人気稼業、ゲンを担いだり占いを気にしたりということがなきにしもあらず)。

 

とはいえ、人類は「未来を知る」ことを夢見て、学問や芸術という望遠鏡を作り上げた。そして21世紀現在、我々人類はおぼろげながらも未来の姿を捉えることに成功しているようである。今日は、未来に目を向け、現代の我々に警鐘を鳴らす本を紹介していきたい。

 

 

冷徹な計算とロジックで未来に立ち向かう

まずご紹介するのはこちら、「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」(正垣泰彦・著/日本経済新聞出版社・刊)である。皆さんも一度はお世話になったことがあるであろう外食大手のサイゼリヤの創業者である著者の経営哲学や経営の発想法がつづられた一冊である。2018年の末にネットニュースやツイッターで話題になった本でもある。もしかすると本稿をお読みの皆様のなかにも、本書の「バズり」をご覧になった方もおられるはずだ。

 

本書、話題になるはずである。この手の本にありがちな綺麗事や根性論はどこにもない。あるのは冷徹な計算と、明確なロジックなのである。わたしは飲食業を営む予定はないが、本書の言葉には頷き、鱗が落ちるところが多かった。なにより感銘を受けたのは、環境に合わせて自らの形を変えていきつつも己の経営の核を守るという著者のスタンスである。

 

今日、わたしたちをめぐる環境は刻一刻と変化している。そんななか、自分の浮沈を環境のせいにしていても始まらない。むしろ、変わりゆく環境をチャンスと捉え、理念を持って新しいものを提示し続けることの大切さを本書は教えてくれる。明日という未来を生きるわたしたちの羅針盤にもなりうる一冊である。

 

 

日本の未来を具体的にイメージして、備える

二冊目は「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」(河合雅司・著/講談社・刊)である。こちらはベストセラーになっているから、既にお読みの方も多いだろう。少子高齢化社会が進行している現代日本がこのまま未来に向かうとどういったことが起こるのかを詳述した本である。

 

本書の魅力は、従来は数字で示され、今一つイメージのしにくかった「少子高齢化社会」のもたらすマイナス面に、具体的なイメージを与えたところにある。2020年には女性の半数が五十代以上になり、2033年には三軒に一軒は空き家になる、と言われても、今一つわたしたちにはピンとこない。だが、本書はそういった「数字」に具体的な肉付けをしてゆく。リアルな像が目の前に提示されることで、ようやく少子高齢化が我々の社会に与えるダメージを想像できるのである。

 

ちなみに本書は日本全体のことを論述した総論になっている。本書の続編で、少子高齢化社会が個人にどういう影響を与えてゆくのか、そしてどのように個人として備えていけばよいのかを論述した「未来の年表2」(同じく講談社)と併せて読むと、未来の日本が直面する問題について、様々な角度から理解できることであろう。

 

未来を知ることは、備えになる。未来の日本の住人であるわたしたちが読んでおくべき一冊と言えよう。

 

黙示録後の世界から見る現代社会の危うさ

三冊目は「この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた」(ルイス ダートネル・著、東郷 えりか・訳/河出書房新社・刊)である。本書は何らかの事情で(さながら「北斗の拳」の世界のように)技術・文化レベルが後退したポストアポカリプス的世界に取り残されてしまった人類が、どのようにかつての文明の利器や科学技術を取り戻してゆくかを模索した本である。こうして書くと何やらSFの読物のように聞こえるかもしれないが、本書にはドラマはない。あるのは純粋な思考実験と、真摯な検討作業である。

 

本書を読むと気づかされるのは、わたしたちは、余りに自分を取り巻くものに対して無知だということだ。我々人類はそれぞれ得意なことに特化して専業化し、社会全体でタスクを分担して文明を成立させた。その帰結として、パソコンがクラッシュしても自分では直せない(人が多い)というアンバランスな状況の中にわたしたちは暮らしているわけだが、本書を読むと、わたしたちが当たり前に使っているモノやサービスが高度な技術によって支えられているということに気づかされる。

 

本書はポストアポカリプス的未来世界を一種のたとえ話として置くことで、技術によって支えられた現代の危うさを教えてくれるのである。

 

 

 

アメリカの過去から日本の未来を読む

四冊目は「反ワクチン運動の真実: 死に至る選択」(ポール オフィット・著、ナカイ サヤカ・訳/地人書館)である。皆様は、反ワクチン運動をご存じだろうか。ある種のワクチンの副作用が重大であると主張してワクチン接種を拒む社会運動のことであるが、本書は1980年代にアメリカで巻き起こった百日咳ワクチンを巡る攻防をまとめた本である。

 

先に書いておく。百日咳ワクチンの副作用は反ワクチン運動で槍玉にあげられたほど重篤なものではなかった。結果論ではあるが、百日咳ワクチンへの反ワクチン運動は間違いだったのだ。

 

本書を読むと、ワクチンは自由主義と相性が悪いのではないかとすら思えてくる。ワクチンというのは、社会全体で免疫を高めることによって特定の病気の蔓延を防ぐ「集団免疫」という考え方によって支えられている。そのため、集団免疫を発動させるためには大多数の人々に接種しなければならないのだが、自由主義社会において「公共の利益」のために本人や家族の望まぬ治療行為を強いてもよいのか、という問題が出てくる。集団免疫と自由主義がぶつかる場面が出てきてしまうのである。

 

さて、この反ワクチン運動が現在日本でも大きな盛り上がりを見せている。本書で書かれているアメリカの過去は日本の現在、そして未来なのかもしれない。ここで紹介するゆえんである。

 

 

世界を深く知るために

最後の一冊は「未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか」(ジャレド・ダイアモンド、ユヴァル・ノア・ハラリ、リンダ・グラットン、ダニエル・コーエン、ニック・ボストロム、ウィリアム・J・ペリー、ネル・アーヴィン・ペインター 、ジョーン・C・ウィリアムズ・著、大野和基・訳/PHP研究所)である。本書は世界の知の巨人たちにインタビューをし、論客それぞれが抱える未来への問題意識を一冊の本にまとめたという非常に豪華な一冊である。

 

本書を読むと、毎日のように世界から飛び込んでくるニュースの意味をより深く知ることができ、その背後にある文脈の把握もできるだろう。今の世界を知るとともに、未来の世界の形をも占った、そんな一冊である。また、本書をきっかけに、それぞれの著者の本をたどってみるのもいいかもしれない。

 

 

 

さて、今回は読者の皆様にお詫びがある。今回、小説や漫画、戯曲といったフィクションを全く取り上げていないのだ。

 

GetNaviWeb編集部からは「人文書や科学書の他にも小説や漫画など、様々なジャンルの本を紹介してくださいね」とオーダーされているにも関わらず、である。なぜ取りあげなかったか。それは、未来に関する本をフィクションから選ぶのは無理だからだ。

 

ある思想家がものの本で「(SFを除いて)文学は過去を扱うものだ」と皮肉気に書いているが、いささか表層的なものの見方であろう。(如何に過去に材を取ったものであれ)フィクションの登場人物たちが、ピリオドの向こう側の未来を生きていくがゆえ、フィクションは過去・現在を飛び超えるものだと思っている。

 

賢明なる読者の皆様にはご理解いただけただろう。フィクションはフィクションである以上、必ず「未来」を扱う。ありていに言えば、わたしはあまりに膨大な「未来」を前に尻込みしてしまったのだ。

 

 

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作「刀と算盤」(光文社)が絶賛発売中。

刀と算盤」(光文社・刊)

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