ネットを活用した資金調達手法として、年々注目度を増すクラウドファンディング。その国内最大手であるMakuakeから、興味深いニュースが飛び込んできました。プロジェクトに関わった日本酒の酒蔵の数が100蔵を突破したというものです。
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日本酒×クラウドファンディングって実際どう? 2人のキーパーソンに直接聞いてみた
同社初の日本酒プロジェクトは2015年3月。そこから老舗、ベンチャー、家電大手シャープとのコラボなど、様々な案件が立ち上がり、約4年で100蔵を突破しました。しかし、我々にとって、「100蔵突破」がどれほどすごいのか、いまいちピンとこないのではっきりさせたい……。加えて、日本酒とクラウドファンディング業界の実態や苦労話も聞いてみたい。そして、あわよくば、Makuakeから生まれた日本酒も飲んでみたい! ということで、Makuake本社にうかがい、同社の共同創業者で取締役の坊垣佳奈さんと、日本酒プロジェクトを中心に携わる森 恵さん、2人のキーパーソンにインタビューを行いました。
「伝統産業の支援」という理念があったため、日本酒とは親和性が高かった
国税庁が行った2017年度の調査によると、全国にある酒蔵は1405蔵。ということは、そのうち約7%を占めるMakuakeの100蔵というのはなかなか高い割合です。ちなみに、クラウドファンディングサービスは国内だけで100サイト以上がありますが、そのなかでみるとどうでしょう?
「日本酒のプロジェクトを100蔵以上手掛けているのは、いまのところウチぐらいでしょう。業界でいうと日本酒におけるシェアは9割近く。その実績もあって、蔵元さんからのオファーも多くなっていると思います」(坊垣さん)
つまり、クラウドファンディングにおける日本酒の盛り上がりは、Makuakeの貢献がとりわけ大きいということ。しかし、Makuakeは国内クラウドファンディングサービスでは後発ですが、なぜこれだけの実績を挙げることができたのでしょうか。
「日本のクラウドファンディングは、東日本大震災の復興のための寄付を募るために始まったサイトがほとんど。その多くは、“人”を支援の対象としたものでした。一方、弊社の場合は“産業”を盛り上げることで、そこに関わる人の想いを実現するというサービスです。たとえば日本の伝統産業、ものづくりですね。そして、食における日本の伝統産業の最たる例が日本酒なんです」(坊垣さん)
Makuakeの理念は、“生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現”。「日本酒は、この3つすべてに当てはまっている」と坊垣さんは熱弁します。
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「日本酒は、老舗や職人が多い業界でもあります。そのため、マーケティングが得意でなかったり、そもそも商売気質がなかったり、またネットが苦手だったりする方も多数。だから、私たちがお手伝いできることが多かったという部分もあると思います」(坊垣さん)
蔵元の足りない部分はすべて提供できる
特に、同社が持つサイト運営のノウハウは、蔵元にとって大きなメリットとなったそう。
「デザインをはじめ、集客力のあるサイト設計にはかなり注力しています。この点は、弊社がインターネット事業を扱うサイバーエージェントのグループ企業なので、そのノウハウを活用できるメリットがある。私たちにお酒を造る技術はありませんが、マーケティングのノウハウやWEBの集金システムなど、酒蔵に足りていないものはすべて提供できると思います。弊社がサポートすることで、おいしいのに知られていない“可能性のある蔵”のお酒を広めていきたいですね」(坊垣さん)
つまり、他のサイトとは違い、ローンチ時から人よりも伝統産業の支援を目的に活動していたため、その代表例の日本酒とは親和性が高かった。さらに、同社の持つインターネットやシステムのノウハウが、蔵元の足りない部分を補ったというわけですね。
購入システムの刷新でユーザビリティが劇的に改善した例も
続いて、エグゼクティブキュレーターとして活躍する森 恵さんにお話をうかがいました。クラウドファンディングという未知の分野に挑戦するのは、蔵元にとって気後れする部分も多いはず。それでもプロジェクトを立ち上げる蔵元は、いったいどんな動機で利用し始めるのでしょうか?
「認知の拡大という目的が大きいと思います。特に、新商品の完成時やリブランディング、あとは高単価商品の発売のようなチャレンジングな企画などですね。こういった、気合が入っているタイミングでMakuakeに掲載して大きくアプローチをするという蔵元さんが多いです」(森さん)
ちなみに、数多くの案件に携わってきた森さんにとって、エポックメイキングな日本酒プロジェクトはありましたか?
「それは2016年に掲載した『酒々井(しすい)の夜明け』(千葉県・飯沼本家)という、初めて1000万円を超えたプロジェクトですね。こちらは既存商品のリブランディングで、例年の5倍以上も売り上げる成果が出ました。デザインやネーミングなどを再構築した部分も大きいのですが、より効果的だったのは購入システムの刷新です。というのも、ウチを使うまでは受注をFAX、支払いを銀行振り込みで行っていたんですね。それがWEBによる注文と決済になったので、ユーザビリティが劇的によくなったんです」(森さん)
さらにMakuakeの掲載によって、若年層にも同プロジェクトの認知が進みました。その結果、それまで購入者が少数だった20~30代にも買ってもらえる機会となったそうです。
「『1000万円突破』という大きなインパクトとともに、『Makuakeってこんなふうに使えるんだ』と知っていただくきっかけにもなりました。そして、こういった日本酒に関する実績の積み重ねが、企業さんや蔵元さんがウチを使っていただく理由になっているのではないかと思います」(森さん)
地域の交流や酒販店などを通して横のつながりを持つ蔵元も多く、「Makuakeを利用するといいよ」と口コミで評判が広がったほか、「あそこがやったならウチも」という形でプロジェクトを立ち上げるケースもあるとか。
「販売以外の面で蔵元さんに好評なのが、支援者とのコミュニケーションです。ユーザーのコメントが見られるほか、直接メッセージが届くこともありますから。『Makuakeをやるまで、地元や常連以外の方から評価されることがなかったのでうれしい』という声も聞きますね」(森さん)
リアル店舗でMakuake発の日本酒を発売
さて、Makuakeが日本酒のプロジェクトに携わるようになって4年経った現在。最近の傾向や、特徴的なプロジェクトはあるのでしょうか?
「伊勢丹、東急ハンズ、北海道くらし百貨店など、リアル店舗にMakuakeのプロジェクトの日本酒を販売いただくケースが増えています。うちで掲載する商品は個性的だったり希少性が高かったりする部分があり、こうした点が実店舗でも紹介できるようになったのはうれしいことです」(坊垣さん)
「傾向としては、以前より高価格帯の日本酒プロジェクトが増えてきていると思います。最近の例でいうなら、30年間熟成させた平成ビンテージ。30年物の古酒を、令和を迎えるタイミングで乾杯しましょうというものですね。375mlが1万5000円という高単価だったのでドキドキしたのですが、フタを開ければ300人以上の方に支援いただき、700万円を超える金額が集まりました」(森さん)