6月1日と2日に、「LIMITS(リミッツ)ワールドグランプリ」が渋谷ヒカリエで開催され、予選を勝ち抜いた国内外のアーティストたちが出場しました。
「LIMITS」とは、アーティストがタブレットに作品を描き、その制作過程で勝敗を争う競技。今大会は初めて、「Oculus Medium」を使用した3Dモデルの制作を競う「VR Sculpting Battles」もあわせて開催されました。会場では同ツールの体験もできたので、大会のレポートとともにお伝えします。
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Oculus Mediumなら街だって作れちゃう
まずOculus Mediumとは、フェイスブック傘下のOculusが開発したクリエイティングツール。VR空間で彫刻や3Dモデルの制作、絵を描くことができます。
試合までまだ時間があったので、ひとまず体験してみることに。VR空間で絵を描くってどんな感じだろう。
操作はスタッフの方が教えてくれました。まずは、作品の基となる「クレイ(粘土)」を射出。プシューっと右手のスプレーからどんどん出していきます。
使えるツールは、クレイを自在に引っ張ったり伸ばしたりできる「ムーブ」や、渦巻き状に変形させる「スワール」、切り込みを入れたり切ったりできる「カット」など全部で8つ。
「ペイント」を選択すると、クレイに色を吹き付けることができます。基本となる色を選択し、さらにグラデーションのなかから色を選びます。相当な種類の色が選べるため、複雑な色彩も表現できそう。
VRなので、クレイをスーッと切ったり、表面をシャリシャリと滑らかにしたりする「感触」はありませんが、実際に作業している「感覚」はじゅうぶんに味わえます。操作が難しくなく、慣れれば直感的に操作できるのもポイント。「Oculus Rift」ヘッドセットの没入感がかなり高いので、時間を忘れて熱中できました。
8つのツール以外にも、すでに造形された人体のパーツや車、文字などさまざまな「スタンプ」が使えます。自分で一から作る必要がないので、絵心に自信がなくても大丈夫。
Oculus Mediumの凄いところは、物理的な制限がないこと。クレイは大きさを自由に変えられるので、たとえば、キャラクターの外観をある程度作っておいてから、大きく(拡大)して筋肉の盛り上がりや血管といったディテールを作りこむことができます。
建築の3Dモデリングやファッションのデザインにも活用できそうだなと感じました。家の中を歩き回りながら内部を作ったり、バッグや靴の細かな装飾を簡単に作成したりできるはず。自分よりはるかに巨大なものも作れるので、街を再現することも夢じゃありません。
大事なのは制作の「過程」
体験を終えたところで、ちょうど試合の時間に。まず「VR Sculpting Battles」のルールを簡単に解説。試合は2人のアーティスト(選手)によって行われます。20分という制限時間のなかで、決められたテーマに沿って作品を制作し、審査員の採点(作品のアイデア、ストーリー、作業のスピード、テクニックの4つの基準から評価)により勝敗が決します。
おもしろいのは、具体名詞と抽象名詞の2つの言葉を組み合わせてテーマを決めること。たとえば、「傘」「道」「影」などの具体名詞と、「睡眠」「有罪」「注目」といった抽象名詞の組み合わせをルーレットで決定します。
テーマが決まると、観客から「おおー!」や「うーん…」といった声が。どんな作品が生まれるのか、自分だったらどんなものを作ろうかとイメージすることで、臨場感や試合に参加している感覚が高まります。
両選手がヘッドセットを装着すると、いよいよ試合開始です。選手が見ている映像は、中央のモニターに映し出され、作品がどんどん形を成していく様子を見ることができます。
両選手とも、筆者が先ほど体験したツールと同じものを使用しているのですが、そのスピードが段違い。また、形になっている「スタンプ」を活用することで、造形にかかる時間を短縮していました。
実は、作品の完成度はそこまで重要ではなく、「ストーリー」こそが重要な評価のポイントなのだとか。ストーリーとは、作品を完成させる「過程」のこと。たとえば、キャラクターを先に描くのか、地面や草木を先に描くのかによって、どんなものができるのだろう? という見ている人のイメージは変わってきますよね。
また、パーツ1つずつに色が塗られていくと、作品の世界観が少しずつ見えてきますが、反対に完成直前に一気に色が塗られると、世界観がガラッと変わったり、それまでの想像が裏切られたりします。
「歯車+希望」のテーマのもと、左のRose選手はロボットのようなキャラクターと金色の歯車を作っていきます。右のGio選手は、画面には映っていませんが歯車の形をしたバイクにまたがるキャラクターを制作。Rose選手は1つずつ色を塗っていくのに対し、Gio選手はまず造形を進めていきます。
朽ちようとしているロボットに花や草木をまとわせることで希望を表現するRose選手。対してGio選手は、歯車バイクに乗ってジャンプする姿で希望を表現しました。
作品が出来上がるまでのこういった過程(各アーティストの「見せ方」とも言えます)を楽しめるのが、この競技の一番の魅力だと感じました。
↑実際の試合風景。ライティングやBGMも試合を盛り上げる大事な要素だ
筆者はこれまで、アートを見ること=完成した作品を見るというイメージでしたが、制作過程を楽しむのは新しい体験でした。また、直前にテーマを決める即興性や、20分で作品を完成させるスピード感も魅力。これらの要素が、アート制作に「競技性」「スポーツ性」を与えています。「VR Sculpting Battles」、めちゃくちゃおもしろいです。
物理的な制限や負担がないOculus Mediumだからこそ、20分というわずかな時間でのアート制作、さらには「アート×スポーツ」の掛け合わせが可能なんだと、試合を見て実感しました。もちろん、プロのアーティストたちのアイデアや技術があってこそ。体験した後だと、なおさら選手たちの凄さがわかりました。
昨今eスポーツが盛り上がっていますが、VRがさらに普及すれば、LIMITSのようなクリエイティブスポーツも今後人気が出そうな予感。先に言ったような建築やファッションといった分野での活用も期待できます。
個人的にはLIMITSの競技人口がもっと増えてほしい! 次回開催されるときは、VRバトルの魅力をもっと広めようと誓った筆者でした。
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