ラオス人民民主共和国は、東南アジアでは唯一の海に面していない内陸国で、社会主義共和制をしく開発途上国。これまで日本人にはあまり馴染みがなかったかもしれませんが、近年は“東南アジア最後の秘境”とも呼ばれ、観光地としても世界的に人気が高まっています。
そんなラオスの首都・ビエンチャンで日本人観光客の目を引いているのは「バス」。京都の市バスが日本で働いていたままの姿で走っているのです。国内ではもう見られない車種なので、わざわざ日本から撮影に訪れるバスマニアもいるそうです。
では、なぜ京都の市バスなのか。同国駐在2年、JICA(独立行政法人国際協力機構)ラオス企画調査員の国塚郁子さんに、神秘の国・ラオスの魅力と共に教えてもらいました。
ゾウを通じた国際協力が
京都の市バスがビエンチャンを走っている理由――その背景には京都市とラオスの友好関係があります。2013年に京都市動物園とラオス天然資源環境省森林資源管理局が「京都市動物園ゾウの繁殖プロジェクト」に関わる覚書に調印。そして2014年、日本ラオス外交関係樹立60周年を記念して京都市動物園にラオスから4頭のゾウが寄贈されました。さらに2015年には京都とビエンチャンの両市がパートナーシティ提携を結んでいます。
そんなゾウのお礼も兼ねて、車両更新によって役目を終えた京都の市バス34台が、2016年にビエンチャン特別市に寄贈されたのです。ビエンチャン市は、市内唯一の公共交通機関であるバスの車両が老朽化し、利用者離れの一因となっていました。
一度は現役を退いたとはいえ、まだまだバリバリ働ける日本製のタフなバスたち。彼らにも新たな活躍の場が与えられ、京都市にもビエンチャン市にもプラスになっていて、とても素敵な国際交流と言えますね。
そんなわけで、京都から贈られたバスであることを隠す必要はありませんし、車体の塗り直しなども行なうことなく、内外装ともほぼ京都で走っていた当時のままの姿で、ビエンチャン市内で大活躍しています。
「日本(とくに京都)からの旅行者は、京都バスを見つけるとビックリしていますし、ラオスから京都に行った人たちは『ラオスのバスが京都で走っている』と驚いているそうです」と国塚さんも笑いを交えて教えてくれました。
今後が楽しみな親日の国
ただ、ラオスの公共バスに関しては、まだまだ課題が山積みです。
利用者数は2002年にピーク(760万人)を迎えましたが、その後は自家用車やバイクが増える中で大きく減少し、10年で3分の1(246万人)になりました。そのため行政としても利用者数の回復に努力しているものの、運行管理の不備による欠便、ダイヤの乱れやドライバーの勤務態度、安全性などなどの影響もあって、思うように回復していないのが現状です。そのためJICAでは地元のバス公社や行政とも協力しながら、その改善に尽力しています(参考記事 https://getnavi.jp/world/427366/)。
街全体が世界遺産になっている北部のルアンパバーンの他に、ビエンチャンにも伝統的な仏教寺院やフランス植民地時代の建物が残り、クメール文明発祥の地と言われるワット・プー遺跡、謎の巨大な石壺が一面に点在するジャール平原など魅力的な観光地が多いラオス。メコン川(クルーズも楽しい)をはじめ自然遺産も豊富で、あまり予備知識なくラオスを訪れて「こんな素敵な国だったんだ!」と感激する人も多いそうです。
さらに、「ラオスで取れるコーヒー豆とカフェのクオリティは非常に高いと思います。メコン川沿いの道路も、毎日夕方になると歩行者天国になり、真っ赤な夕日を背景にとても素敵なスポットです。そこで散歩したり運動したり、市民の憩いの場所にもなっています」(国塚さん)と、日本ではあまり知られていない魅力がたくさんある“東南アジア最後の秘境”。
ビエンチャンの市バスで日本との縁に思いを馳せながら、親日家が多くて本当に親切なラオス人との交流を楽しむ旅に出かけてみてはいかがでしょうか?
【協力してくれた人:国塚郁子さん(JICA企画調査員)】
国際機関で中南米やアフリカでの勤務を経て、2018年1月からJICAラオス事務所に企画調査員として赴任。主に都市交通と都市環境分野の開発支援業務を担当している。東南アジアでの長期滞在は今回のラオスが初めてで「ラオスは小さい国ですが、アジアの多様性や寛容な社会が大好きです」と語る。
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