ワールド
2019/8/30 16:45

“知られざる美食の国”ペルーでブームの「日系料理」って?

ペルーと言えば、世界遺産のマチュピチュやナスカの地上絵といった観光地が大人気で、日系二世のアルベルト・フジモリ氏が大統領を務めた(1990~2000年)ことでも日本人に馴染みが深い国です。同時に、「美食の国」として世界的に有名なこと、知っていますか? 同国駐在3年、JICA(独立行政法人国際協力機構)ペルー事務所職員の礒貝白日さんから寄せられたペルーの「食」の魅力をたっぷりお届けします。

 

↑15世紀のインカ帝国の遺跡「マチュ・ピチュ」は、ペルーの観光地として今日本でもっとも人気のある世界遺産

 

ペルーはグルメ観光地としても世界一!

実はペルーは、旅行業界のアカデミー賞と呼ばれる「ワールド・トラベル・アワード」で、2012年から7年連続で「世界最優秀グルメ観光地賞」を受賞しているのです! さらに、イギリスの有名な出版社『William Reed Business Media Ltd.』が企画する毎年恒例の「世界レストランランキング・トップ50」では、2018年版でペルーのレストランがトップ10に2店舗選出されました。ペルーが世界有数の美食の国であることは、欧米をはじめ多くの国々から認められているのです。

 

また、ペルー料理はものすごくバリエーションが豊富で、料理数の多さが世界一としてギネスブックにも認定されています。太平洋に面していて新鮮な魚介類を美味しく食べる文化も古くから定着しています。

 

↑ペルー料理ではシーフードのバリエーションも豊富。世界的に有名なレストランも多く、グルメ観光を目的に世界中から訪れる人が多い

 

では、なぜペルー料理はそれほど美味しいのでしょうか? それは同国の地理や歴史とも関わっています。地理的には面積が日本の約3.4倍で、長い海岸線があり、アンデス山脈の高地があり、砂漠地帯も熱帯雨林もあり、アマゾン川の源流をはじめ河川や湖も豊富。気候的には熱帯地域に属しますが、国内でさまざまな気候の差があるので、海の幸や山の幸、農作物、フルーツなど食材のバリエーションが非常に豊富かつ良質というベースがあります。

 

そして歴史的には、1821年にスペインから独立し、その後は多くの移民を受け入れてきたことも大きな影響を与えています。インカ帝国時代から受け継がれてきた伝統料理に、スペイン料理、アフリカ料理、イタリア料理、中華料理、日本食などのさまざまなエッセンスが取り入れられ、移民シェフも活躍する中で独自の進化を遂げてきたのです。

 

だからこそバリエーションが豊富で、国民の舌も肥えていて、世界的なグルメの国になってきたのでしょうね。

 

↑最近話題のスーパーフード「キヌア」もペルーが代表的な産地

 

「日系料理」って何!? 日本料理とは違うの?

そんな中、最近ペルー国内で大人気になっているのが「日系料理」だとJICAの礒貝さんが教えてくれました。前述の「世界レストランランキング・トップ50」でも、日系人のミツハル・ツムラ氏が経営する日系料理レストラン「MAIDO」が7位に入っています。

 

日本料理ではなく、日系料理? その違いは何なのか、礒貝さんが日系料理協会のフェリペ・キクチさんにインタビューしてくれました。

 

「日系料理は、ペルーへ最初に移民した日本人(日系1世)が、ペルーの食材を使って、遠い日本の味を再現しようと日本食を作ったことから始まります。その後、戦後になってペルーで生まれた日本人移民の子どもである日系2世が、生活のためにワイナリーや小さなレストランなどの食産業に従事することが多くなり、主に海産物を中心に、ペルーと日本の料理の融合を始めていきました。そして1980年代から日系料理の存在が少しずつメディア等でも話題に上るようになり、90年代半ばからプロの日系料理人や日系レストランの存在が広く知られるようになってきました。有名な日系レストランである「レストラン・マツエイ」のマツフジ氏をはじめ、ハジメ・カスガ氏やミツハル・ツムラ氏など、世界的に名の知られる日系料理人が現われてきました」(キクチさん)

 

↑今回日系料理について教えてくれた日系料理協会のフェリペ・キクチさん。「日系料理は、日本とペルーの味、そして双方の美食の哲学を組み合わせて作られた第3の料理です」と語る

 

つまり、日系移民の子孫たちが作り上げてきた日本とペルーのフュージョン料理というわけですね。ただ、移民の中に料理人が多かったわけではないですし、現地で生まれた2世たちは純粋な日本料理を知りません。だから、現地の食材や独自の発想を生かして新たな日系料理を生み出していったということなのでしょう。

 

日本食にペルーの食材や調味料を巧みにミックス

では、具体的な日系料理とはどんなものなのか、礒貝さんが写真をたくさん送ってくれたので、さっそく見ていきましょう。紹介するのは、ホルヘ・マツダさん及びフランシスコ・ハマダさん等が経営する日系料理の人気レストラン「TZURU(鶴)」のお勧めメニューです。

 

↑マグロの刺身、きゅうりと大根に胡麻油ドレッシングがたっぷりかかったペルーの伝統的な魚料理(ティラディート)

 

↑ペルー産のイワシの一種であるpejerreyの握り寿司。トッピングにはペルー料理には欠かせない黄色唐辛子(アヒ・アマリージョ)にアンデス山脈高地で栽培される穀物キヌアともやしが添えられています

 

↑南米定番の万能ソースであるチミチュリで調理された焼タコの握り寿司。トッピングにはポン酢とバルサミコ酢が掛かったサラダにガーリックチップがのっています。ペルーでタコ料理を一般的にしたのは日系人とも言われています

 

↑牛乳と砂糖で蒸して焼いたパンの中に、角煮とサラダに辛子マヨネーズが添えられているハンバーガー風の一品。レストラン人気メニューの一つです

 

↑エビフライとアボガドを日本産の海苔で巻いた寿司の上に、ペルーアンデス地方で栽培されるpapa nativa(じゃがいも)の千切りフライと、ペルーを代表する料理である牛ハツの串焼き「アンティークーチョ」ソースをトッピングした巻き寿司

 

↑胡麻パンナコッタと黒胡麻アイスクリームに生姜とパイナップルハニーのソースがのった人気デザート。ハーブとヘーゼルナッツが、アート風にデコレーションされていて、インスタ映えも抜群ですね

 

レストラン「TZURU」の料理、どれも本当に美味しそうですね。世界的に日本食が注目されている中、日系料理はペルーの食材や調味料を取り入れ、ペルー人が慣れ親しんでいる濃いめの味付けで調理されているので、現地でも人気を得ているとシェフのマツダさんとハマダさんも分析しています。

 

↑レストラン「TZURU」のカウンターで調理中の日系4世ホルヘ・マツダ氏(右)と日系2世のフランシスコ・ハマダ氏(左)。2人が共同経営するTZURUは、ペルーの美食家たちからも高い評価を得ています

 

「将来はペルー料理の一部として」

そんな日系料理の魅力を国内外のより多くの人に知ってもらうために、2017年から日系料理協会が日系料理の大型祭典「ごちそうペルー」を開催しています。日系人が主となって進めているイベントですが、参加者の大半がペルー人で、3回目の2019年には約2万人が来場しました。「大事なのは『日系』という存在をペルー人や外国人に広めることです。まだまだ多くのペルー人は、『ごちそうペルー』の存在を知らないので、JICAや日本大使館にもこのイベントの普及にぜひ協力してほしいと思っています」とキクチさんは言います。

 

↑日系料理の一大イベント「ごちそうペルー」の会場の様子

 

JICAとしても、前身である海外移住事業団の時代から、中南米への移住者に対して移住先国での定着と生活の安定を図るための支援を継続して行なってきました。そうした活動の一環として、日系料理のシェフたちを日本に招く研修事業も続けています。同事業で来日した「TZURU」のマツダさんも「本場の日本料理に十分に接することができ、料理以外にも本当に多くのことを学びました」と非常に多くの収穫を得て帰ってきたとのこと。そのうえでマツダさんは、日系料理の未来について次のように語ってくれました。

 

「将来、ペルー人が日系料理を外国料理ではなくペルー料理の一部として見てほしいと考えています。なぜなら、私は日系料理が日本料理よりもペルー料理に近いと思うからです。だからこそ必要なのは、ペルー人に日系料理とは何かを知ってもらうこと。将来学校の授業で、日本人移民の歴史や日系料理の起源等を教えるようになってほしいと思っています」(マツダさん)

 

今はペルーの人たちが日本に働きに来ることも多くなっていますが、日本とペルーとの絆は南米の中ではもっとも古くからあるものです。1899年(明治32年)に日本からペルーへの集団移民が始まり(南米に向けては最初の移民)、当時の日系1世たちは大変な苦労をしながらペルー社会に定着し、今や10万人とも言われる日系社会を築いてきました。そうした歴史から生まれた日系料理がどんなものなのか、日系人の方々の思いも想像しながら、ぜひ味わってみたいですね。

 

【協力してくれた人:礒貝白日さん(JICA職員)】

2002年に国際協力事業団(現・JICA)に加入し、JICA国内機関で自治体やNGO、学校現場などと市民との連携を促進する市民参加業務等に取り組んできました。国外では2016年11月からペルーに赴任。総務や経理など事務所の運営管理に関わる業務と並行して、海外協力隊支援関連の仕事や、10万人いるとも言われているペルー日系社会との連携に関する業務に従事しています。

 

また業務のかたわら、セビーチェやロモサルタードなどペルー料理の魅力にも惹かれ、日本とペルーの味が見事に融合した日系料理の存在も知って、その魅力にどっぷりとはまっています。

 

今回の記事では、日系人をルーツに持つペルー事務所の広報担当、マリエラ・タイぺさんと一緒に取材を担当。タイぺさん中心に集めた情報を元に「日本の皆さんがこの記事を通して日系料理を知り、ペルーに足を運んで、食を通した体験やペルー・日本の交流が深まるきっかけになればと考えています」と非常に多くの情報を提供してくれました。

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

【関連記事】

タイで人気の「バーンケーオ」、こんなに可愛いのに中身は「ドーベルマン」!?

加熱式ではなく「水たばこ」がブームのヨルダン・アンマンの不思議

もしかして日本以上にキャッシュレス化!? ミャンマー独自のお金事情とは