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2019/7/31 18:45

もしかして日本以上にキャッシュレス化!? ミャンマー独自のお金事情とは

本記事は、グローバルの最前線で世界と向き合うJICA(独立行政法人国際協力機構)関係者の協力のもと、日本ではあまり知られていない情報を、現地に滞在するからこそわかる目線でお伝えします。今回のテーマは、日本人には目からウロコの部分も多い、ミャンマー独自の通貨事情です!

 

アジア最後のフロンティア

今回は、ミャンマー連邦共和国で同国の金融政策の向上やキャッシュレス促進などに尽力している専門家(経済学博士)の川畑博司さんから寄せられたエピソードです。ミャンマーでは、日本以上にキャッシュレス化が進んでいる分野がある一方で、まだ通貨事情が安定しない面もあり、日本の常識が通用しないところが数多くあるとのこと。そんな独自のお金事情について詳しく聞いてみました。

 

↑ミャンマーの首都はネピドーですが、最大の都市は旧首都のヤンゴン(写真)。近代化された街並みと伝統的な仏教建築が共存し、経済的にもミャンマーの中心となっています

 

ミャンマーは、19世紀からのイギリス統治時代を経て、第二次世界大戦後の1948年に「ビルマ連邦」として独立。1974年には軍事政権の下で「ビルマ連邦社会主義共和国」として社会主義国となり、2010年以降は民主化と共に「ミャンマー連邦共和国」へと国名を変えています。

 

経済的には、イギリス統治時代までは東南アジア内でも豊かな地域の一つでしたが、軍事政権下で成長が停滞。1988年からは自由市場経済への転換を打ち出し、21世紀に入ってからは工業化も進んで、2010年の民主化以降は急速な経済成長を遂げています。昔から米の生産量が多く、木材や石油などの天然資源にも恵まれ、優秀な人材も多いので、少し出遅れはありましたが「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるほど大きな発展が期待されている国です。

 

おつりの代わりに飴玉が!?

そんなミャンマー国内のお金事情ですが、川畑さんの話を聞いてまず興味深かったのは、日本の10円玉や100円玉にあたるコイン(硬貨)がミャンマーではほとんど流通していないということ。その理由について、川畑さんは次のように解説します。

 

「個人的にコストとインフレーションの2点があると考えています。コインは額面が小さいわりに紙幣より製造コストが高いので、短期でコストが高くなることを嫌がったのかなと感じます。また、ミャンマーではインフレ率が2桁いっていた時代があり(今は1桁台なので優秀)、1ピャーコイン(最小額のコイン)は、現在では日本円換算で0.1銭よりも低い価値になるので、流通しなくなったのだと思います」

 

ミャンマーの基本通貨は「チャット(Kyat)」で、100ピャーが1チャット。そして、1チャット=0.071円(2019年7月22日現在)なので、14チャットでようやく1円です。紙幣は1チャットからありますが、現在一般的に流通している最小額は50チャット紙幣(3.55円)となっています。紙幣を印刷するのにもお金はかかり、ミャンマー国内の印刷コストは比較的高めなので、1チャット紙幣などは刷れば刷るほど大赤字。新たに印刷しない=だんだん流通しなくなってくるのも当然のことですね。

 

↑ミャンマーのチャット紙幣を並べたところ。現在は一般的に出回っている最小額紙幣が50チャット(約3.55円)。高額の支払いをする際は一般の人でも札束を持ち歩かなければいけません

 

また、そうした事情もあって、小額紙幣はつねに不足気味になっているとのこと。「バス代や屋台の食事などで小額紙幣の需要は非常に高いのですが、小額紙幣の供給が追い付いていないというのが実情です。だから、お店でお釣りをもらう際、小額紙幣の代わりに飴やティッシュ、お手拭きなどをもらうことが多々あります」(川畑さん)

 

これも日本では考えられないことですが、国の背景を知れば納得できる話です。

 

銀行員にはマスクが欠かせない!?

ミャンマーでは、チャットだけでなく米ドルの偽札も多く出回っていて(多くは隣国の中国から来ているとの噂)、偽札リスクが高いため、中央銀行も高額紙幣の発行を行っていません(現時点の最高額紙幣は1万チャット=約710円)。そのため銀行窓口では、顧客が大きな袋に現金を詰めてサンタクロースのように運んでいる光景をよく目にします。その際、紙幣にカビが付着していることが多いため、紙幣を扱う時には銀行スタッフはマスクを使用しているそうです。

 

↑高額紙幣がないため、銀行で扱うお札の量もご覧のように膨大。しかもカビが生えている紙幣も多いため、銀行員は集計時にマスクが欠かせません

 

金融機関の店舗が全国に行きわたっていないこともあり、ミャンマーでは銀行口座を持っている人が人口の3割程度で、とくに地方の住民は金融サービスにアクセスできないとのこと。そのため、都市に出稼ぎに来た労働者が田舎の家族に送金する場合、従来は帰省する親族や知り合いに託すか、「Hundi(フンディ)」と呼ばれる地下銀行を利用するしかありませんでした。依然として給料の現金支給も多く、近年増えてきたインターネットショッピングでも代金引換が主流です。

 

また、ミャンマーの中高年層は、過去に何度か交換の認められない廃貨(通貨が使えなくなること)が行なわれたり、銀行倒産によって預金を全て失ったりと苦い経験をした人がたくさんいるので、通貨や銀行をあまり信用していません。そのため、多くの家庭では現金よりも金塊や装飾品などの現物で保管することが多いようです。

 

国としても金融事情の改善やキャッシュレス化に注力

こうした状況を打破するために、ミャンマー政府や中央銀行は、銀行送金や自動振込・引き落しといった各種決済サービスの普及、さらにキャッシュレス決済への移行を進めることに力を入れています。そこにJICAも支援を続けていて、安全で便利な決済インフラの整備を進めるために川畑さんも忙しい日々を送っています。

 

そんな中で重要な役割を果たしているのが、わずか数年で9割を超える普及率に至った携帯電話です。2013年に通信市場が自由化されて価格も大幅に下がり、電波が届くエリアも人口の96%以上をカバー。今では「私の生活圏内で知る限りはスマホを使っている人が9割を超えていると感じます」(川畑さん)と、スマートフォンの普及率も非常に高くなっています。そのため、携帯電話を利用した新たな送金サービスやキャッシュレス化が急速に普及しつつあるのです。

 

地方への送金に関しても、携帯会社がモバイル決済サービス(日本での『PayPay』や『LINE Pay』のようなもの)を提供するようになり、それらを利用して家族への送金が簡単かつ格安にできるようになりました。今後は、異なる銀行間・携帯会社間でも安全に送金できるようにするため、JICAは銀行間決済システムの機能拡充を支援しています。

 

↑モバイル決済サービスを使えば、銀行の支店がない地方の街でも、写真のような小さなお店から現金を引き出すことができます

 

タクシーのキャッシュレス化は日本以上に進んでいる

もうひとつ、ミャンマーのキャッシュレス化で注目したいのは、シンガポール発のスマートフォン向けタクシー配車アプリ、「GRAB」です。これまでミャンマーでは流しのタクシーを利用するしかなく、料金も交渉制で不明瞭。外国人だとわかると値段も跳ね上がるし、運転手が行きたくない場所だと乗車拒否されるのも当たり前でした。

 

↑タクシーはワゴン車タイプが多く、流しのタクシーは料金交渉制。外国人だと高額な請求をされる場合も

 

ですがGRABを使えば自分のいる場所にタクシーを呼ぶことができ、スマホの地図情報や交通情報を把握してルートや料金を自動計算。煩わしい料金交渉の手間が省け、運転手もGPSで行き先がわかるので初めて行く場所でも問題なし。さらに運転手を評価できる仕組みもあり、非常時にはボタンひとつでGRABに通報できるので、女性でも安心して利用できるそうです。

 

そんな良いことずくめのGRABはたちまち大人気になりました。最近ではデビットカードやクレジットカードをGRABに登録し、キャッシュレス決済する人も急速に増えているとのこと。日本人がミャンマーに旅行する際にもぜひ利用したいサービスですね。

 

↑GRABアプリの画面。料金も明確に表示されているので安心です

 

その他にも、普通の店舗でも日本と同様のQRコード決済が普及しつつあり、それを利用すれば小額紙幣の不足やおつりの煩わしさから解放されます。ミャンマーではそれほど大金を持ち歩かなかったとしてもサイフが分厚くなりがちなので、その意味でもありがたいところだそうです。

 

↑ミャンマーは翡翠(ヒスイ)の取引が世界一で、翡翠の販売店でもQRコード決済ができます。露店や屋台でもキャッシュレスになる日が近づいています

 

また、ミャンマーは仏教徒人口が多く、僧侶の数は人口の1割以上で、「世界一寄付をする国」と言われるほど助け合いを大事にするお国柄があります。仏教関連の祭事では、お金や食べ物をお寺や僧にお布施することが生活の一部となっていて、寄付すればするほど徳を積むと考えられています。

 

それも、ミャンマーならではの素敵なお金の使い方ですね。

 

↑こちらは仏教関連の祭事で使われる祭壇。お布施の現金を折り紙のように折って花を作り、このように飾りつけている風景がよく見られます

 

【協力してくれた人:川畑 博司さん(JICA専門家)】

経済学の博士号を持つ川畑さんは、青年海外協力隊として大洋州パプアニューギニアに派遣された後、JICAの専門家としてアフリカのマラウイ、大洋州のサモア、そして東南アジアのミャンマーで経済開発分野を中心に途上国支援に携わってきました。現在はミャンマー中央銀行にて2人の先輩専門家(乾泰司専門家、向井直人専門家)と共に銀行間の資金・証券決済システム(CBM-NET)の近代化プロジェクトに携わっており、銀行サービスの向上・金融包摂・金融政策能力向上・キャッシュレス化促進などに取り組んでいます。

「2020年を目標に日本の進んだ支払決済システム(日銀ネットや全銀システム)と同等のサービス(CBM-NET2)を提供できるよう、ミャンマー中央銀行の職員と共に金融の仕組作りや制度整備を行なっています。日本とは異なる価値観・文化の中で制度設計をすることは大変ですが、ミャンマーの人々の生活を支える国の根幹を作り上げる協力に大きなやりがいを感じています。将来的にはミャンマーを成功事例として、日本の優れた決済システムを他国でも使ってもらえるようになると嬉しいです」(川畑さん)

 

【参考リンク】

「ミャンマーの銀行をもっと便利に 中央銀行の決済システムの開発を支援」

「ミャンマー中銀の支払決済システム構築-現状、課題と展望」(機関紙『国際金融1312号』寄稿)

ミャンマー「資金・証券決済システム近代化プロジェクト」

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

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