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2019/11/13 19:00

Libraと同じような経験をしていた! 「世界最先端の電子国家エストニア」の教訓

EU連合の加盟国であるエストニア共和国は、日本の9分の1ほどの国土に約132万人が生活する小規模な国で、高度に発展した電子国家「e-Estonia」として知られています。同国では、電子政府と電子IDカードにより行政と個人の情報がリンクし、投票や確定申告、企業設立など、オンラインでほとんどの行政サービスが利用できるようになっています。

 

また、行政サービスのセキュリティを高めるためにブロックチェーン技術を採用してきて以来、エストニアは小国ながら複数のブロックチェーン企業を誕生させてきました。近年ではエストニア独自の仮想通貨構想を打ち出すなど話題に事欠かない国ですが、なぜ同国はこれほどまでにデジタル化を推し進めることができたのでしょうか? 本稿では、エストニアが電子国家となった背景や行政サービスを支えるブロックチェーン技術、仮想通貨に関する最新動向についてお伝えします。

 

民族存続の危機が変化のきっかけ

エストニアはドイツやデンマーク、ロシアといった大国に囲まれた土地柄、何度も戦争に巻き込まれ、デンマーク・スウェーデン・ポーランド・ロシアといくつもの国の植民地として統治されてきた歴史があります。

 

このような背景により、「たとえ今後エストニアが他国に占領されて国民が他の国に移り住んでも、国民が利用できる電子政府を作ればオンライン上で繋がることができる」という発想で、1991年のソ連からの独立以後、国を挙げてITによる近代化に注力。行政や政府サービスの電子化を実行していきました。

 

そんなエストニアのほとんどの行政サービスはオンラインで利用できると聞くと、心配になるのがセキュリティ面。実際、エストニアは2007年に大規模なサイバー攻撃被害にあっており、電子政府や銀行、メディアなどがターゲットにされました。このような経緯からセキュリティ向上の一環で、08年からブロックチェーンをテスト採用するようになりました。

 

このブロックチェーンには、エストニアで設立されたGuardtime社が開発した「KSI」を使用。従来では、オンライン上で本人証明とデータが改ざんされていないという信頼性を担保する仕組みとして公開鍵基盤の「PKI」が使用されていました。 PKIはデータの信頼性を担保するために第三者の認証局を間に挟みますが、KSIではブロックチェーン技術を利用するため、この認証局を持たず、トラストレス(信頼性の不必要・第三者機関の排除)な仕組みを実現している点で大きく違います。

 

KSIは新たな技術構想でしたが、採用以来10年以上の間、大きなハッキング被害には遭っていません。現在エストニアではKSIが国民の健康、法律、商業コードシステム、セキュリティなどの分野に利用されており、その利用分野は今後さらに拡大される予定です。

前述のとおりエストニアは、国家としてブロックチェーンを採用していますが、民間でもブロックチェーンや仮想通貨に関連する事業会社が小国ながら700以上あり、エストニアは業界をリードする立場になっています。

 

日本では仮想通貨を取り扱う事業を行う場合、金融庁に申請してライセンスを発行しなければなりません。エストニアでも仮想通貨取引所とウォレットサービスという2種類の業種に関してはライセンスが必要になりますが、その申請はオンラインで完結。外国人でも要件さえクリアすれば申請できるため、日本人投資家がエストニアで仮想通貨取引所をオープンした例もあります。

 

税金に関しても特殊で、エストニアでは会社で発生した利益は引き出さなければ税金が発生せず、会社のなかに留めておけば非課税。仮想通貨に関する特定の法律も現時点ではないため、法人税も適用されません。ただし所得税は一律20%のため、仮想通貨を売買して所得が発生した際には税金を納める必要があります。

 

estcoinとLibraの相似点

最近ではFacebookがLibraという仮想通貨を発行すると宣言し、主要国の中央銀行などから批判されました。実はエストニアも2017年に政府主導で「estcoin」という仮想通貨の発行を行うと発表し、大きな話題になったことがあります。しかしエストニアはEU加盟国のため、欧州中央銀行から大きな批判の声が上がり、総裁のドラギ氏も「加盟国は独自の通貨を発行することはできない」と発言。estcoinはLibraと同じような反応を受けていたんですね。

 

そのためエストニアでは国家コインではなく、電子国民プログラムのe-residencyなどのコミュニティ内で利用できる独自トークンの利用可能性を今後探っていくようです(両者は様々な点で異なりますが、Libraがestcoinと同じような道を辿るかどうかは興味深いところ)。

 

国の存続という危機感から始まった、エストニアの電子国家構想。国家としてブロックチェーンを採用し、発行までは至らないまでも国家的なコインの構想を真剣に考えられるのは、国民のITリテラシーの高さや小規模な国家だったことなどが大きな要因でしょう。これほどまでに政府が電子化を進め、多くの国民がそれを受け入れている国をエストニア以外に見つけることは困難です。最先端の電子国家としてエストニアがこれから繁栄するのかどうか注目ですね。

 

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