二足歩行する人類。歩き方は人間についてさまざまなことを教えてくれますが、医学的な観点から歩行を見ると、腰痛や肩こりといった身体の癖がわかってくるとも言われており、さまざまな研究が行われています。アメリカのスティーブンス工科大学では、AIを活用して歩き方を解析するツールが研究されており、同大学の研究チームは最近「SportSole」を開発しました。どのようなものなのでしょうか?
人が歩くという動作はとてもシンプルですが、太ももの筋肉からお尻の筋肉、背中の筋肉など、身体のさまざまな筋肉を使って着地とけり出しを繰り返していきます。そんな動作を解析することは、運動障害や筋骨格に損傷がある患者さんのリハビリや、アスリートのフォーム改善に役立ちます。
従来では、カメラで人の動作を捉えるシステムと、内蔵センサーを使って足にかかる荷重を計測できるフォースプレートを組み合わせた歩行分析装置が使われていましたが、これはとても高額なうえ、実験室などの限られた場所でしか使うことができません。しかし、同じような機能を持つインソールがあれば、普段通りの生活を送りながら歩行のデータを収集し、解析することができるようになります。
足の裏にはいろんな情報が
そんなインソールの開発に取り組んだのが、スティーブンス工科大学の研究チーム。彼らが作ったAI搭載のインソールには、加速度センサーや物の角度や方向を計測できるジャイロスコープが組み込まれています。また1秒間に500回も足裏の圧力を測定することが可能と、従来の歩数計やウェアラブル機器の約5倍の性能があるそう。そして、収集した歩行データをAIアルゴリズムが分析し、すぐに必要なデータを抽出することができるのです。
インソールを付けていれば、歩いていても走っていても補正など必要なくそのままデータを収集、解析が可能。実験では、3歳の子どもや、平衡感覚を司る前庭神経に異常が発生した前庭疾患の患者でも測定できることが確認されています。
また、このAIインソールはコストの面でも優れていることが特徴。同様の機能のインソールは1000ドル(約11万円)ほどの費用がかかるところ、既成のセンサーを使用するなど工夫したことで、100ドル(約1万1000円)前後と1/10程度までコストダウンに成功。このインソールの利用を促進するためには、このコストダウンは大きなメリットになるはずです。
現在このインソールは医療機関での使用に向けて実証実験を行っているそうです。靴のなかに入れて歩くだけで、運動障害のある人々の治療に役立たせられるのなら、きっと多いに歓迎されるべきアイテムとなるでしょう。