3月10日に始まったイタリア全土封鎖から2か月近くが経ちました。厳しいロックダウン(都市封鎖)は少し緩和されたものの、依然として国中で外出自粛生活が続いています。そんななかでイタリア人たちが勤しんでいるのが料理。行政が食材デリバリーのサポートに取り組むのをはじめ、一流シェフたちがSNSでレシピを発信したり、最前線で調理ボランティアとして活躍したりという動きも活発化しました。厳しい状況下にありながら“食”への情熱を持ち続けるイタリア人の逞しさを、現地からお伝えします。
自宅待機で料理のバリエーションが増えた
封鎖が宣言されても、イタリアはそれほど混乱に陥りませんでした。物流は止まっていないため、食べ物の確保は問題ないと首相も太鼓判を押したためです。
当初、イタリア北部を封鎖するという噂が流れたときにだけ、人々はトイレットペーパーやパスタを買うために奔走しました。その後は、スーパーや食料品店で入場制限をしているため列はできるものの、トイレットペーパーもパスタも問題なく購入できるのでパニックは起きていません。
唯一、欠品が続いているのが小麦粉です。家に閉じ込められて暇を持て余している人たちが小麦粉を使ってお菓子やピッツァを焼き始めたためで、パンやパスタを作るという強者も多いようです。小麦粉をはじめイースト菌や砂糖の消費も急上昇し、小麦粉にいたっては平常時に比べ8割増の売れ行きになっています。
こうして作られた料理の数々は、次々にFacebookやTwitterにアップされ、レシピの交換も活発に行われています。非常事態宣言下のイタリアであっても、身近に感染者がいない人たちは、料理をすることでストレスを解消したり精神の均衡を保ったりしているのかもしれません。
小麦粉やイースト菌が入手しにくいという状況から、とうもろこしの粉で作るパンや少なめのイースト菌でできるピッツァのレシピなどが、多くのレシピサイトで毎日のように紹介されています。
一方で、魚介類やフレッシュチーズ、野菜や果物など、鮮度が命の食材は消費が低下したという報告があります。筆者が住む地域では、毎週農家直営の市場が開催されていました。イタリア全土封鎖に伴い一時期は中断したのですが、人と人との間隔を一定に保つなどの条件をクリアし、現在は再開しています。
人気のフードデリバリーを高齢者や感染者にも
これまでの平常時でも、イタリアの大手スーパーにはデリバリーサービスが存在していました。しかし、イタリア全土に外出制限がなされるとこのサービスもパンク状態になってしまい、オンライン予約しても配達は1か月後になるということも珍しくなくなりました。
そのため、筆者が住む人口2万人弱の小さな町は高齢者も多いことから、市がイニシアティブをとってフードデリバリーのサービスを展開。対象は高齢者家庭と、新型コロナウイルスが陽性となり自宅で療養中の家庭です。イタリア全土封鎖とともに同サービスに対応する店のリストが市民に公開され、市民保護局のボランティアが自宅まで運んでくれることになりました。
デリバリーサービスに対応しているのはスーパーばかりではありません。普段は青空市場に出店していた農家やパン屋も、宅配の広告をいっせいに出し始めました。
さらにローマやミラノの高名なレストランがケータリングを開始したのをはじめ、小麦粉やイーストが入手できない事情を考慮して「ピザ作りセット」を販売するピッツェリアも登場しています。また、イタリアでは大切な宗教行事である復活祭を控え、家族で祝うための料理を届けると宣伝するレストランも増えています。
イタリア人が日常的に消費するワインも、オンラインでの購入が急増しました。ただし、ワインの売れ筋も、来客用のブランド物から、家庭で消費する庶民的なタイプへと移行しています。