朝日酒造は、全国的に有名な蔵元のひとつ。同社の銘柄のなかでも「久保田 萬寿」といえば、かつての地酒ブームを牽引し、いまもプレミアムなブランドとして広く認知されています。2020年は同社にとってメモリアルな年であり、節目を迎えるこのタイミングにきわめて意欲的な新商品が発売されました。それが「久保田 萬寿 自社酵母仕込」です。希望小売価格は720mlで税込1万1000円です。
本稿ではオンラインで行われた説明会の解説をもとに、商品の特徴を紹介。蔵や銘柄の基本情報や、味わいレポートもお伝えします。
創業190年の蔵元が自社酵母で醸すメモリアルな酒
まずは蔵の話から。朝日酒造は新潟県長岡市で1830(天保元)年5月に創業。清澄な地下水脈の軟水と、地域の農家とともに研究を重ねながら育てている良質な酒米、そして越路杜氏(こしじとうじ)から継承する知恵と基礎研究による技術革新で、新潟産にこだわった酒造りをするのがモットーです。
蔵の長い歴史のなかでは「久保田」は比較的新しい銘柄ですが、その誕生は1985(昭和60)年。創業時の屋号「久保田屋」を冠し、いまでは朝日酒造を象徴するブランドとなっています。新潟の酒を表す特徴のひとつ、「淡麗辛口」の代表銘柄ともいえるでしょう。
「久保田」のなかでもいくつかのラインがあり、特に有名なのがプレミアムラインの「萬寿」とデイリーラインの「千寿」。そして創業から190年、ブランド創設から35年を迎えた今年、満を持して発売されたのが「久保田 萬寿 自社酵母仕込」なのです。
精米プログラムを自社で開発し、崩れやすい米を40%まで磨いた
商品名になっている通り、特徴のひとつが自社酵母で仕込んでいること。今回は、数千種の酵母から自然発生的に得られた、より香りをきれいに引き出す酵母を使用。さらにその魅力を最大限発揮させるために、麹の割合や配合を工夫して仕込んでいます。
酒米は「西の山田錦、東の五百万石」と称され、新潟県生まれで全国的にもポピュラーな酒造好適米・五百万石を100%使用。米を深部まで磨いて華やかな香味をもたせた純米大吟醸(精米歩合50%以下で米と米麹、水のみを使用)として仕込んだところ、今回はそこに大きな壁が立ちはだかったといいます。それは、今回使用した五百万石は心白(しんぱく・米の中央部の白い部分のこと)が大きいため、磨きすぎると崩れやすかったこと。精米歩合50%以下の高度精米は難しいという性質があったのです。
そこで、米の形状を保ちながら精米をする「原形精米」の精米プログラムを自社で開発。精米に通常の約2倍にあたる約100時間をかけ、精米歩合40%を可能にしました。こうした努力の結果、雑味の原因となるたんぱく質を効率よく低減することができ、すっきりとした酒に仕上がったのです。
優雅な香りが立ち、リッチなうまみは透き通るように消えていく
オンライン説明会の後半は試飲。まずは香りから。おぉ、これは! フレッシュでありながら、濃縮感があって非常にアロマティック。米を40%まで磨いている点もさることながら、米の選別から仕込みまでを丁寧に時間をかけているであろうことがよくわかります。欧米では日本酒のことをライスワインとも言いますが、まさにワインのようにフルーティでエレガントな香り。
口に含むと、どっしりとした米の甘味が舌先から誘惑。そこからジュワッと全体へ広がり、優雅な香りは鼻孔へと抜け、リッチなうまみが透き通るようにキュッと消えていきます。また、味の芯部にはまろやかな力強さがありながらもアフターフレーバーにはキレがあり、上品な残り香によって心地よい気分に。
なお、本品の推奨温度帯は10~15℃。また、フードペアリングにオススメなのは、豚の塩釜焼きや鯛の昆布締めとのこと。
1万1000円という値段もさることながら、エレガントな香味とリッチなうまみを併せもつ、プレミアムな久保田のなかでも特に贅沢な一本でした。個人的には「もっと安ければな~」とは思いますが、ゴージャス感は価格相応。お祝いや贈り物にはぴったりではないでしょうか。
6月はジューンブライドの月であり、今年は21日が父の日。直接会ってお祝いをしづらいタイミングだからこそ、縁起のいい“萬寿”のプレミアム酒で感謝を伝えてみては? 特に、日本酒好きな方への贈り物としては、間違いない逸品といえるでしょう。
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