貯蔵技術の発達とともに、年間を通して食べられる野菜が多い今、旬を感じることが少なくなっています。通年で見かける長芋や山芋も、実は秋に旬を迎えて収穫されるため、この時期だけは“新物”が並んでいることを知っていましたか?
今回は、管理栄養士で簡単レシピが得意な柴田真希さんに、長芋と山芋、2種の使い分けの仕方と、手軽に作れておいしいレシピを教えていただきました。定番の「とろろごはん」以外のおいしい食べ方をマスターして、いつもの献立のレパートリーに加えてみてください。
長芋と山芋は何が違う?
“とろろ”のように、すり下ろすと粘りがある芋には、山芋(やまいも・写真上)と長芋(ながいも・写真下)があります。ところが実は、“山芋”という種類の芋は存在しないのです。
山芋として知られているものは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属ヤマイモに分類される、「自然薯(じねんじょ)」「大和芋(やまといも)」「いちょう芋」などの総称にすぎません。長芋も、このヤマノイモ科ヤマノイモ属の作物ですが、ナガイモという個別の品種名。スーパーでも、「長芋」の名称で販売されています。この記事では、この分類にしたがって長芋と区別し、自然薯や大和芋などを「山芋」と呼ぶことにします。
「自然薯や大和芋の間で違いはそれほど大きくありませんが、山芋と長芋の違いはすり下ろしてみると、すぐにわかります。山芋は、もったりとしていて粘りが強く、だしで溶いて麦ごはんにかけていただくのがおすすめ。一方、長芋は水分が多くてみずみずしく、サラサラとした粘り気です。もちろんこちらでとろろごはんにしてもいいのですが、シャキシャキした食感を活かし、サラダにするのもおいしいですよ」(管理栄養士・柴田真希さん、以下同)
旬の時期は? 長芋の旬は2度ある!?
自然薯は日本原産、そのほかの山芋や長芋は、中国原産の作物。現在市場に出回っているものは国産がほとんどで、いずれも11月下旬〜12月に“新物”として収穫されます。長芋はこれを“秋掘り”と呼び、掘り出さずに低温で越冬させ、粘りや甘みが強くなった4月〜5月に行う収穫を“春掘り”として呼び分けています。つまり長芋の旬は、年間に2度あるのです。
ちなみに長芋は、栄養価が高く消化もいいため、古来“滋養強壮”の食物として親しまれてきました。炭水化物のほか、カリウム、ビタミンB1、食物繊維などが豊富な上、デンプンを分解するアミラーゼなどの消化酵素も多く含まれています。
おいしい個体の選び方は?
長芋・山芋は、さまざまな形や太さのものが売られていますが、太くてずっしりとしていて、まっすぐに伸びたものがとくにおいしいのだそうです。
「ヒゲが残っていて、表面に黒っぽいシミや傷がないものを選びましょう。カットされて売っていることも多いので、その場合は切り口を見てみてください。切り口が変色しておらず、白くてみずみずしい色のものが、鮮度がいい証拠。細いものや首の部分に近いものは、アクが強いものも多いので気をつけて選んでみてください」
食べきれないときはどうする?
「すぐに使わない場合は、1本丸ごとのときは新聞紙に包んで冷暗所か野菜室へ。カットしてあるものはラップで空気が入らないよう包んで野菜室へ入れて保存しますが、こちらは早めに使い切りましょう。また、皮を剥いて保存バッグに入れ、上から叩いて潰せばとろろ状に。これを冷凍しておくと、いつでも使えて便利ですよ」
冷凍したものは、冷蔵庫に入れてゆっくり解凍し使いましょう。
触るとかゆくなる場合の対処法は?
カリウムや食物繊維が豊富で消化にもいい長芋・山芋ですが、触るとかゆくなってしまう、という人には扱いづらい食材ですよね。
「かゆくなってしまうのは、長芋・山芋に含まれるシュウ酸カルシウムという成分が原因です。この成分は針状に尖った形をしているので、そのトゲが肌への刺激になってしまうんですね。シュウ酸カルシウムはアルカリ性なので、手に酸性であるお酢を塗布してから長芋・山芋に触ると、緩和されるかもしれませんが、個人差があります。シュウ酸カルシウムは熱に弱いので、お湯で洗うのも効果的です。口元がかゆくなる方は、生食ではなく加熱調理していただくのがいいでしょう。
あくまで個人的な見解ですが、かゆくなるのは手のひらではなく甲の方なので、なるべく手の甲に付着しないように作業するのも効果的だと思います。また、見た目や食感が気にならないのであれば、皮は剥かなくてもかまいません。タワシでこすり洗いすればヒゲも取れますし、味にも影響しませんよ」
この長芋・山芋をどうやって楽しんだらいいでしょう。最初に思い浮かぶのはもちろん“とろろごはん”ですが、次のページでは、アイデアいっぱいのおすすめレシピを紹介します。