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2021/1/28 6:00

列車を運休させる「ヤスデ」の大量発生サイクルが判明!

最近、全国各地でヤスデが線路上で大量発生し、列車の車輪が空転することから遅延や運休が起きています。ヤスデの大量発生は過去にも起きており、大量発生した年を追ってみると8年または16年おきになっていることが判明しました。なぜヤスデはこのサイクルで大量発生するのでしょうか?

 

列車を運休させることから「キシャヤスデ」の名前に

↑キシャヤスデのサイクルとは?

 

1976年に八ヶ岳周辺のJR小海線の線路でヤスデが大発生したことがありました。急こう配の区間のため、ヤスデを引いた車輪がスリップしてしまい、一部の列車が運休する事態に。同様の事例は各地で起こり、そこからこのヤスデには「キシャヤスデ」という名前が付けられたそうです。ヤスデの大群によって列車が運休すると、駆除費用のほか代替輸送費など、鉄道会社はさまざまな費用がかかってしまうのだとか。もしキシャヤスデの発生の予測や予防ができたら役に立ちますよね。

 

そんなキシャヤスデについて1972年から研究を行ってきたのが、国立研究開発法人「森林研究・整備機構」。この研究チームではキシャヤスデによる列車への影響が複数回報告されている小海線近くと、秩父多摩甲斐国立公園東側の2か所で2016年までに年に1~5回の調査を続けてきました。土を掘り起こしてポリエチレンのシートの上に広げてキシャヤスデを採取。土を掘り起こす深さを0~5センチ、5~10センチ、10~15センチ、15~20センチと変え、根気よくキシャヤスデの様子を観察しました。

 

すると、キシャヤスデが成長していくプロセスが詳細にわかってきたのです。まずメスが8月までに400~1000個の卵を産みます。夏になると幼虫は毎年脱皮し、少しずつ成長していき、8年目の夏の脱皮でようやく成虫に。成虫になったキシャヤスデは9月から10月ごろに、交尾する相手を探すために地表を動きまわり、冬眠前や春になってから交尾を行い、8月までに卵を産んで死を迎えます。

 

つまりキシャヤスデは卵のまま7年間土のなかで過ごし、8年目に成虫になって、相手を見つけるために地表面に出て活動を始めるのです。このとき線路上に現れたキシャヤスデこそが列車をスリップさせていたのです。

↑キシャヤスデの成長過程

 

キシャヤスデが成虫になって地表を動く距離はおよそ50メートルと決して広範囲ではないため、同じ電車の路線でキシャヤスデの大量発生が起きるのは、8年周期または16年周期と予測がつくそう。実際、これまでの事例を見てみると、キシャヤスデの大量発生は8年または16年間隔で起きているようなのです。

 

昆虫以外の節足動物でこのようなライフサイクルを持つ生物がいることが判明したのは、今回が初めてのことなのだとか。この研究チームでは、同じようにライフサイクルをもつ生物はいるだろうと見ていますが、この発見が大量発生に伴う電車の事故や遅延の予防に活用されることが期待されます。

 

【出典】Niijima, K., Nii, M., & Yoshimura, J. (2021). Eight-year periodical outbreaks of the train millipede. Royal Society Open Science. 8(1). http://doi.org/10.1098/rsos.201399