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2021/2/1 6:00

ブームを支える「道ばたの植物」ーー急速に広がるタイの「プラントベースフード」事情

ここ数年、タイのバンコクでは健康志向が一種のブームとなっています。ターミナル駅前には多くのスポーツジムが並び、新型コロナウイルスによる規制でジムが一時的に閉鎖されたときには、大手スポーツ専門店で健康器具が売り切れたという話もあるそう。コロナ禍で健康志向がますます高まるなか、バンコクでトレンドになっているのがプラントベース(植物由来)フードです。

 

タイではもともと馴染み深い

↑バンコクの中華街で開催されるキンジェーの様子

 

国民の95%が仏教徒であるタイでは、昔から続く観音信仰の影響で牛肉を食べない国民が数多くいました。また、もともとタイには「キンジェー」と呼ばれる菜食週間が存在します。華僑の人々から始まったとされるこの菜食週間中は肉・魚・卵などの動物性食品、ニンニクやネギなど匂いの強い野菜、酒などの摂取を控えます。「ジェー(斎)」という漢字には、仏教において「身体と言葉と心の悪行を慎むこと」という意味があり、敬虔な仏教徒にとってキンジェーは大切な期間。菜食はタイ人にとって、もともと馴染み深いものだと言えるでしょう。

 

キンジェー期間に限らず、バンコクでトレンドとなっているのがプラントベースフードです。プラントベースフードとは植物由来の材料を使用した食べ物のことで、動物性のものを生活から排除するヴィーガンと異なり、あくまで植物由来のものをできる限り摂取するというだけで、動物性のものを食べてはいけないわけではありません。

 

日本でも昨年モスバーガーの動物性食品を使わない「グリーンバーガー」が注目を集めましたが、タイでは経済的に余裕がある中間層以上の人が多いバンコクを中心にプラントベースフードを提供する飲食店が増えてきました。プラントベースフードのみを集めた「プラントベースフェスティバル」や、地産地消を目指すファーマーズマーケットなどのイベントが毎週のように開かれ、健康志向な人はもちろん、いままでこの食べ物に関心を持たなかった層も足を運んでいます。

 

街中の飲食店でも大豆ミートを使ったガパオライスやヴィーガンパッタイなど、タイらしいプラントベースフードを数多く見かけるようになりました。ショッピングモール内の150円程度で食べられるフードコードですら、植物由来フードを扱う店舗を構えています。

 

目立つプラントベースミート市場の成長

↑バンコクを中心に広がりを見せるプラントベースフード

 

新型コロナウイルスの影響により、タイでは飲食店の店内飲食が禁止されて、持ち帰りとデリバリーのみのサービスとなった期間がありました。1月半ばとなる現在も続くさまざまな規制で多くの飲食店が不況に喘いでいますが、そんななかでも肉の代替品となるプラントベースミートの人気は特に高まっています。2021年以降のプラントベースミート市場はさらに成長し、特に中国とタイでの需要は今後5年間で200%増加すると予想されています。

 

大豆・米・ココナッツ・ビーツを原材料としたプラントベースミートを販売するタイ企業のレッツプラントミート社は、タイにプラントベースフード協会を設立。地元企業と協力し、プラントベースフード産業の成長に向けた支援促進に携わっています。

 

バイオサイエンス事業などを手がけるデュポン社の調査によると、タイの消費者は「味」「栄養」「利便性」の3つのバランスを満たすプラントベースミートを求める傾向にあるそうですが、実はタイには消費者が求める「味」「栄養」「利便性」の3要素をすべて満たす可能性を秘めている果物があります。

 

それが、東南アジアやアフリカなどの温暖な地域で栽培されるジャックフルーツ。この果物はカレーやカスタードの材料として一般的に使われ、この繊維質の食感はアメリカの南部料理の「プルドポーク」に例えられます。どんな調味料も吸収するため、調理する際に処理や加工の手間が少ない製品を求める消費者に人気のある代替肉の1つです。

↑一躍大注目のジャックフルーツ

 

食物繊維とビタミンB群も豊富なため栄養面でも優れているのですが、農園ではなく道端の植物として栽培されることが多いため、あまり食用として利用されることがありません。ジャックフルーツを活用することは、地産地消を促進させるのに加え食品ロスを減らすという観点からも需要なのです。

 

そのようなジャックフルーツをプラントベースミートとして加工・流通させているのが、タイの食品加工企業のNRインスタントプロデュース PCL社です。同社ではジャックフルーツの流通を拡大させており、現在は収益の約7%を占めるプラントベース製品のシェアが4年以内には30%まで跳ね上がると予想しています。

 

タイ最大の財閥であるCPグループも大豆タンパク質からなるプラントベースミートの開発に取り組んでいます。これら大企業の躍進もあり、国家統計局の調査によれば、2013年には4%にとどまっていた肉を食べない人の割合は2017年には12%まで拡大しました。

 

まとめ

フードコートから高級レストランまで、現在のタイでは幅広い店舗がプラントベースフードをメニューに積極的に取り入れています。世界有数のSNS大国として知られていることもあり、今後は消費者や店舗によるくちコミの後押しを受け、プラントベースフードの人気はますます広がっていきそうです。

 

執筆者/加藤明日香