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2020/11/3 20:00

「現金のプレゼント」で集客アップ!? EC大国タイの「ライブコマース」最新事情

世界有数のEコマース(EC)大国として知られるタイ。ある調査によると、16歳~64歳の85%がオンラインで買い物をした経験があるとのこと。タイでのEC取引はショッピング市場全体の10%を占めており、新型コロナウイルスによるステイホームで、ECへの移行はさらに加速しました。なかでもタイでさらに人気が高まっているのが、リアルタイムでやり取りしながら買い物をすることができるライブコマースです。

タイ人の性格にピッタリ

↑タイでも人気沸騰中のライブコマース

 

タイでは新型コロナの影響により、3月17日から5月22日までの2か月間、スーパーマーケットやドラッグストアなどを除くショッピングモール内の全店舗が閉鎖を強いられました。タイは公共交通機関が日本よりも乏しく、クルマでの移動を前提としたモール型の店舗が多いため、この期間は家電や調理器具でさえ店舗では手に入らない状況が続いたのです。そういった状況が追い風となり、ロックダウン期間におけるECの売上は200%伸びたと言われています。

 

ECの好調が続くタイで、最近、新たな販売手法の1つとして人気を集めているのが「ライブコマース」です。「ライブ動画配信」と「EC」を組み合わせた新しい販売方法で、ライブ配信中に配信者と視聴者が双方向型のコミュニケーションを取りながら商品を販売・購入する仕組みです。

 

従来のECでは、視聴者は販売者側がサイトにアップした写真や情報から商品を確認するもので、コミュニケーションは一方向でした。しかしライブコマースはECでありながら、視聴者と配信者のインタラクティブなコミュニケーションが可能となります。視聴者は商品に関する質問ができて、配信者は視聴者のリアルな声を聞けるという、従来のECに欠けていたタイムリーな会話が実現。この仕組みがタイでも当たっているのです。

 

タイのライブコマース人気はASEAN諸国でもトップで、視聴者1回あたりの購入額も約16ドルと、たとえばベトナムの約6ドルと比較した場合は3倍近くになります。その一因として、会話を好むタイ人の性格とリアルタイムでやり取りできるというライブコマースの手法がマッチしたからではないかと考えられます。

 

タイの会社員は副業が認められているケースが多く、カフェ開業や翻訳などさまざまな副業をしている人がたくさんいます。なかでもやはりオンラインでの販売は、気軽さから人気がある様子。

 

タイでは、有名ブランドは自社ウェブサイトで商品情報の発信から購入までを一貫して行いますが、副業などで販売している小規模事業者はほとんどウェブサイトを持っていません。その代わりFacebookなどSNS上で販売する人が多いと言えるでしょう。タイ人の93%が日常的にFacebookを使用しているといわれるため、コストをかけてウェブサイトを作らなくてもFacebookでの集客が可能というのが理由です。

 

特定のブランドを買いたい人はブランドから、ブランドにこだわらない人は小規模事業者から購入するので、両者はあまり競合にはならないようです。

 

話題作りのためなら……

↑「いいね」こそすべて

 

小規模事業者が最近積極的に利用しているのが、Facebookのライブ配信機能を利用したライブコマースです。ウェブサイトを持たない小規模事業者にとって、ライブ配信ができるFacebookはライブコマースの場として適しています。

 

有名ブランドと比較して柔軟に動ける小規模事業者は、Facebookのコメント欄を活用して商品が当たるゲームやクイズなどを取り入れています。さらに、なんと現金をプレゼントする配信者まで出てきたのです。

 

この施策はプレゼントキャンペーンや宝くじが好きなタイ人に刺さり、一躍有名になったページもあるほど。広告費をかけての集客ではなく、予算のない小規模事業者にとってはプレゼントや現金などに費用をかけてコメント欄を盛り上げ、視聴者を増やすのが一番の広告になるようです。

 

ライブコマースで商品購入した際の決済も、Facebook上で完結します。外部サイトを持たない小規模事業者は、基本的にライブ配信中のコメントやダイレクトメッセージを使って購入者とやり取りします。タイでは政府の方針でキャッシュレスが進んでおり、オンラインバンクを使った振り込みが一般的。ダイレクトメッセージで振込用QRコードを送るだけで簡単に支払いができるので、この点もタイでライブコマースが流行っている一因と考えられます。

 

SNS以外では、タイ最大級のオンライン通販サイトである「Lazada」や「Shopee」上でのライブコマースも活発化。Lazadaは、ライブ配信者のコンテストを通じてライブ配信のスタープレイヤーを見つける「LazTalent」という企画を開始しました。日本ではライブコマース専用のプラットフォームを使い、もともと知名度があるインフルエンサーなどを活用する場合が多く見られますが、タイの事例はその真逆ともいえるでしょう。

 

Facebookでは、今後Instagram内のみで買い物が完結するInstagramショップ(現在のショップ機能では外部サイトに飛ぶ必要があります)をリリースする予定で、ライブ動画内にもショップ掲載商品のタグ付けができるようになると報じられています。新しいInstagramショップが実装されればよりスムーズなショッピングが実現し、タイではこれまで以上にライブコマースの人気も上がるかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香