ハリケーンは北太平洋東部や北大西洋で発生する熱帯低気圧のことを指しますが、最近このハリケーンが地球上ではなく宇宙でも起きていることが世界で初めて観測されました。一体どんな現象なのでしょうか?
ハリケーンは、熱帯や亜熱帯の温暖な地域で温められた空気が上昇気流となって上空にのぼり、そこに周囲の空気が流れ込んで、地球の自転で渦を巻くような積乱雲が作られることで生まれます。雲は低いところなら上空数キロ程度、高いものなら13キロほどにありますが、積乱雲の高さは最大で上空10~15キロメートルほどです。
しかし今回観測された宇宙ハリケーンは、積乱雲よりもっと高い位置、北極の上空110~860キロメートルの上層大気で発生しました。観測に成功したのはイギリスのレディング大学や中国の山東大学などの共同研究チーム。彼らが米国軍事気象衛星DMSPの観測データを分析した結果、2014年8月に宇宙ハリケーンが発生していたことが明らかとなったのです。観測された宇宙ハリケーンでは、1キロ近くの直径の渦が形成され、この状態がおよそ8時間継続していました。
一般的なハリケーンは積乱雲が渦巻いているのに対して、この宇宙ハリケーンで渦を形成していたのはプラズマです。プラズマとは、個体、液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」のこと。物質は温度が上昇すると、個体から液体、さらに気体に変化します。そして気体に熱や電気エネルギーが加わると、気体の分子が原子となり、原子核のまわりを動いていたマイナスの電子が原子から離れます。
このときに中性分子、プラスイオン、マイナスイオンという非常に小さな粒子が自由に動きまわっている状態を「プラズマ」と言います。プラズマを観察できる自然界の現象にはオーロラや稲妻があり、どちらもプラズマで満たされた状態になっているのです。
宇宙ハリケーンでは、このプラズマが最大で秒速2.1キロメートルの速さで反時計回りに流れを作り、雨の代わりに電子の雨を降らせていました。また、渦巻きの中心部となるハリケーンの目は雲がなく穏やかな状態となるように、この宇宙ハリケーンの中心部でも同じような穏やかな状態が観測されました。
研究チームでは、宇宙ハリケーンが発生したのは太陽風エネルギーと荷電粒子が急速に上層部に伝わったことが原因であると考えており、宇宙ハリケーンは気象衛星などにも影響を及ぼす可能性があると見ています。2019年には、約11年の周期がある太陽活動のサイクルに、プラズマが引き起こす津波のような現象が関連していることが判明していますが、宇宙でもハリケーンや津波のような現象が起きているとは自然は本当に不思議ですね。