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2021/3/17 10:45

「福祉のスタバ化」を目指す! 「YouTube NextUp 2020」ファイナリスト「JINちゃんねる」の挑戦

次世代のYouTubeクリエイターを発掘、支援を目的にしたプログラム「YouTube NextUp 2020」のファイナリスト12 組が、昨年末決定した。GetNavi webではこの12組にインタビューを実施。新しい世代のYouTubeクリエイターは、YouTubeを、そして動画コンテンツをどう変えていくのか? 連載形式でお伝えしていく。今回は、ファイナリストの中から「福祉」をテーマに動画制作を行う『JINちゃんねる』に、動画制作のコツや活動の目的を聞いてみた。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)

 

「子育ての知識や発達障害への理解」と「社会福祉士講座」の二本柱

――まず『JINちゃんねる』さんは、どういった動画を配信しているチャンネルなのでしょうか? 概要をお聞かせください。

 

主に、子育ての悩み、発達障害の知識や理解を深めるためのアドバイス、子どもたちの能力をどのように伸ばしていくかなどを発信しているチャンネルです。僕は『一般社団法人ハンドレッド』という会社で代表を務めていまして、そこでは子育てやお子さんの成長に悩んでいる親御さん、学校のクラスにうまく馴染めないお子さんのサポートをしているんです。また、最近は社会福祉士という立場から、これから社会福祉士を目指す方々が資格を取りやすくなるようなコンテンツも手厚く発信しています。

 

――いつからチャンネルをスタートさせたのですか?

 

初めて動画をアップしたのは2年前ですね。動画配信を本格的に始める前は、「発達」や「生きづらさ」について話す講演会をよく開催していたんです。それが、コロナ以降はすべてストップしてしまって……。そこからYouTubeでの配信に力を入れるようになりました。

 

――初めから現在と同じようなスタイルで動画を制作していたんですか?

 

当初は、講演会の動画をそのままアップしたり、発達障害や子育てについて軽く話している動画をアップするぐらいでしたね。そこまで更新頻度も高くなくて、編集なども全然していませんでした。加えて、ニッチな分野ということもあり、再生数があまり伸びなかったんです。ですが、こういった分野について発信することは、自分にとっても、世の中にとっても価値があることではないか、と考えたときに、世間にうまく声を届けるためには、もうちょっと編集を頑張ったり、トークを磨かないといけないな、と考えたんですよね。

 

――動画制作をするうえで工夫している点は何ですか?

 

時期によってチャンネル内で棲み分けをしています。例えば、最近では「社会福祉士の国家試験」があったので、動画を見てくれる層が「試験に合格したい受験者」の方たちが多かったんです。そこで「直前講座」や「一問一答」といった動画を中心にアップしていました。ですが、他の時期は一般の視聴者の方に向けて、福祉についての周知を目的として、楽しめるコンテンツを配信しています。

 

――時期によって内容を変えようと思ったきっかけはあるんですか?

 

やはり試験直前にならないと「社会福祉士講座」の動画は伸びないんですよね(笑)。昨年データを取ってみて、皆さん集中して動画を見てくれるようになるのは、試験の1か月半前くらいだと分かったんです。実は1年半前は、がむしゃらに動画を上げていただけだったんですよ。でも全く動画が伸びなくて。そこからデータを取って、「どうしてこの動画は伸びているのか」「どうして視聴維持率が取れているのか」を見直したんです。すると、チャンネル登録者が急激に増えましたね。

 

難しい内容を誰にでも分かりやすく解説する

――『JINちゃんねる』さんの動画で、視聴率が高い動画やその傾向は何かありますか?

 

数年前にアップした動画が、今でも再生数を伸ばしていることがあります。その内容について困っている方が調べて、引っかかるケースが多いんですよ。例えば2年前にアップした「学習障害」や「強迫性障害」といった内容の動画では、親御さんだけでなく、当事者の方が検索して辿り着いてくださることもあり、定期的にコメントを頂くことが多いですね。

 

――視聴者の方からのコメントや質問は多そうですが、いかがですか?

 

そうですね。動画のコメント欄で、疑問に思ったことを質問してきてくれる方は多いです。質問が来ていたら、その場でやり取りをして返答をしています。なので、「質問すれば専門家の人が丁寧に答えてくれるチャンネル」というのは、いい意味で定着してきているのかな、とは思いますね。

 

――動画内での解説のコツや工夫している点はありますか?

 

『JINちゃんねる』のメリットは、難しい内容を誰にでも分かりやすく解説している点だと考えています。参考書ですと、難解な文章で書かれていたり、他に読まなくてはいけない文献が多かったりする内容を小学生でも分かるような例を出して解説しているんです。例えば、ADHD(注意欠如多動性障害)の特性を説明するときは、ドラえもんのジャイアンを例にしています。ジャイアンは突然のび太君を殴ったり、いきなり走って追いかけ始めたり、誰も聞きたくないのに歌い始めたりと、まさに多動性と衝動性が強いんです。そういった、わかりやすい例の出し方には、気を遣っていますね。

 

――話し方で気を付けていることはありますか?

 

話し方のコツとしては、最初にダラダラ話していると、動画から離脱されてしまうことが多いんです。なので、まず結論から話すようにしていますね。動画の結論と目的を述べてから、理由や解説に入るように心がけています。

 

課題のエンタメ化についての情報交換

――『YouTube NextUp 2020』のクリエイターキャンプに参加されていかがでしたか?

 

クリエイターの皆さんの高いレベルと熱量をダイレクトに感じ取れたキャンプだったと思います。特に、登録者数が数万人いるクリエイターさんたちは、自分が思っていた以上に、動画に対する考え方が違っていたので、そういった方々と意見交換できたのがよかったですね。

 

――クリエイターキャンプでは、ご自身のチャンネルについて何かフィードバックはありましたか?

 

改善点をいくつか教えて頂きました。僕の場合はコアな視聴者向きの動画が多いので、一般向けの動画を増やすことで再生数や登録者数はまだまだ伸びるというお話を頂きました。例えばですが、「社会福祉士が教える、折り紙講座」というような動画であれば、子どもたちにも保育士さんにも視聴してもらいやすいんじゃないか、といった考え方です。エデュケーションの分野のチャンネルは、エンタメ化が課題ではないか、と常々思っていましたので勉強になりました。

 

――技術面ではどんなことを学びましたか?

 

キャンプではカメラや照明のプロの方の講義を聞いて、ジャンプカットなどの細かな編集テクニックから、グリーンバックで抜くときの光源を意識した撮影方法まで詳細に勉強することができました。特に、技術面でいうと「音声」の大切さに気づくことができたのが大きかったですね。エンタメ系の動画と違って、ハウツー系の動画は映像を見ずに音声を聞き流している人がけっこう多いんです。ラジオがてらに聞いたり、勉強しながら聞いたり。ですから、今回の『YouTube NextUp 2020』からの支援機材費も音声機器へ投資させて頂きました。〝聞きやすいかどうか〟が今後重要になってくると思いますね。

 

――動画制作で役に立った機器やガジェットは何かありますか?

 

個人的には「プロンプター」がヒットしました。下にタブレットを置いてボードに文字を投影するんです。すると、カメラの前に映らない文字が出て、カメラ目線のまま原稿を読み上げることができるツールです。よく演説や記者会見などで使われているものですね。エデュケーション系のYouTubeですと、ミスできないんですよ。テストに出る答えを間違えて伝えてしまったらアウトなので。慎重に話さなければいけないシーンがある人には、オススメです。

 

「福祉の〝スタバ〟化」を目指し面白いコンテンツ作っていく

――今回、『YouTube NextUp 2020』は「学び」を大きなテーマに掲げていますが、〝学びの大切さ〟についてご自身の経験やお考えは何かありますか?

 

学ぶことで「有利に生きられる」とは思いますね。情報社会においては、どこでも学べる環境が整っていると思うんですが、積極的に学ぼうとする姿勢の人は、肌感覚ではちょっと少ないかもしれない。クリエイターキャンプでGoogleの方も仰っていたのですが、日本はまだ「エデュケーション」という分野で弱い部分があると。海外では、YouTubeで学びを得る意識が強くて、日常で困ったことがあったらYouTubeですぐ調べてみる、といった文化があるそうなんです。積極的に学ぶことによって知識が増えて、選択肢が増える。人生をより豊かにするために必要なことだと思います。

 

――ウィズコロナの時代を迎えて、動画や配信で学ぶ機会がより増えてくるかと思いますが、その際のポイントやコツを教えてもらえますか?

 

やはり「参加」が大切かと思います。ライブ配信の講義などをこなしてきて気づいたのですが、動画の学習は、画面越しにただ見ているだけだと、オフラインで授業を受けるよりも濃度が薄くなりがちなんですよね。極端なことを言えば、マンガを読んだりスマホを見ながらでも授業を受けて聞き流せてしまうので(笑)。実際にコメントしたり、発言したりと積極的に参加することが大切なんです。講師側も、対面授業では一人しか指すことができないですが、オンラインでは「皆さん問題の答えをコメントしてみてください」と全員に訊ねられる。意欲があれば、いくらでも積極的に参加できる環境が整っているのが、オンラインのメリットだと思います。

 

――サラリーマン世代は、YouTubeやSNSで積極的に発信するケースは少ないかもしれませんが、ビジネスの場で自らをアピールをすることは必要かと思います。その際のコツがあれば教えてください。

 

「キャラをブレさせない」というのが大事かと思いますね。これは発達障害の方が就労する際にもお話しするのですが、あらかじめ「自分がどこまでできるか」「得意なことは何か」の軸を決めて、それを周囲に話しておくんです。「自己開示」を最初にしておくことによって、仕事や人間関係が円滑に進む。これは、一般にも通じることで、大企業の中であらかじめ、自分のキャラクター、立ち位置を決めて臨むことがポイントではないかと思います。

 

――最後に、ご自身の活動およびクリエイターとしての今後の目標を教えてください。

 

まず、活動については、福祉をもっと楽しいものに変えつつ、社会福祉士や専門職の地位向上を目指していきたいです。福祉は、「汚い・きつい・給料が安い」の「3K業界」と呼ばれていて、そのような業界イメージを変えたいと思っています。端的に言うと「福祉の〝スタバ〟化」を目指しているんです。スタバのように、いつでも働く人が明るく、身近にあるイメージですね。『JINちゃんねる』を見たメンバーが、実際に資格試験に合格するだけでなく、社会で活躍して輝いて、その姿を見た子どもたちも保育士さんや福祉士さんを目指す。結果、地位が向上して給料も上がっていくことが目的です。『JINちゃんねる』としては、1年後までに登録者数10万人を突破して、YouTubeの銀の楯をゲットしたいですね(笑)。そのためには、いろいろ施策を練って、福祉の面白いコンテンツ作っていきたいと思いますので、皆さんぜひ見てください。

 

 

JINちゃんねる

2018年5月にYouTubeスタート。子育ての知識や発達障害への理解、社会福祉士になるための情報を主に発信している。