犬や猫を飼っている人は、ペットが寝ながら身体を動かしたり、口を動かしたりする姿を目撃したことがあるかもしれません。一般的には犬と猫も、人間と同じように夢を見ていると考えられていますが、夢を見ている生き物は、どうやらほかにもいるようです。最近の研究で、タコも夢を見る可能性があることが明らかになりました。
そもそもタコの睡眠が注目されたのは、タコは身体の色を変えることができるから。タコはエサを捕まえるときや、敵から襲われているときは、身体の色を変化させます。しかし、そのような場面だけでなく、タコは寝ているときでも白やあずき色、まだら色など、身体の色をさまざまに変えるのです。
人間の睡眠に、脳が活発に動いている状態の「レム睡眠」と、脳が休息している状態の「ノンレム睡眠」の2種類があることは、よく知られています。以前までは、この2つの睡眠状態になるのは哺乳類と鳥類だけだと考えられていましたが、近年、爬虫類にもレム睡眠とノンレム睡眠があることが明らかになり、イカにも同様の睡眠状態があることがわかってきました。それなら、イカと同じ頭足類であるタコにもレム睡眠とノンレム睡眠があるのではないか。そこで、この仮説を調べるために、ブラジルのリオグランデドノルテ連邦大学の研究チームが、実験室で睡眠中のタコの様子を観察しました。
すると、身体の色は薄く、瞳孔があまり開いていない「静かな睡眠」の状態と、身体の色をどんどん変え、目や吸盤、身体を大きく動かす「活動的な睡眠」の状態があると判明しました。しかも、活動的な睡眠は、6分以上の長い静かな睡眠の後に訪れ、この2つの状態は30~40分のサイクルで起きていることも判明したのです。
静かな睡眠は人間のノンレム睡眠に、活動的な睡眠は人間のレム睡眠にとても似ていますが、タコの場合は、この2つの睡眠状態によって身体の色を変化させていることが示唆されたことになります。タコは言葉を話せないため、この説を確認する方法がありませんが、人間がレム睡眠のときに夢を見るように、タコも活動的な睡眠の間に夢を見ている可能性が考えられるのです。
この研究を発表した科学者によると、もしタコが本当に夢を見ているとすれば、タコのレム睡眠は数秒から1分程度と非常に短い時間のため、人間が見る夢のように複雑なストーリーではなく、数秒程度の短い夢ではないか、と考えられるとのこと。タコが劇的に身体の色を変化させながら、大きく身体を動かしていたら、この軟体動物は楽しい夢や悪夢を見ている最中なのかもしれません。
タコに関する最近の記事でも述べたように、タコは私たちが考えている以上に賢い生き物です。今後もタコの研究から目が離せません。
【出典】Sylvia Lima de Souza Medeiros et al. (2021). Cyclic alternation of quiet and active sleep states in the octopus. iScience. https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.102223
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