2021年春、シャープペンシル業界に激震が走った。
と、そこまで大げさな事態でもないが、筆者としてはかなり驚いたのである。なにがあったのかというと、三菱鉛筆が「“クルトガモード”をオフにできるシャープペンシル」を発売したのだ。これは、本当に驚いた。えー、そんなことある!?
そもそもの話から説明しよう。「クルトガ」というのは、2008年から三菱鉛筆が発売している超絶大ヒットシャープペンシル。書くたびに、芯が9度ずつ回転することで偏減りせず、常にシャープな芯先を保つという機能「クルトガエンジン」を搭載し、均一に細い線が書けるのが特徴だ。
これが、メインユーザーとなる中高生の認知度100%・所有率70%以上(2013年調査)というバケモノみたいな人気で、シリーズ累計販売数も2018年末の時点で9000万本超え! おそらく一億本突破も間違いないところだろう。
それなのに、そこまで人気の高い機能をわざわざ“オフ”にできると謳った新製品が出るとは、つまり“メーカーによるクルトガの否定”ではないのか!? マジで!? どういうこと!?
……と、つまりそういうことで驚いていたわけだ。
クルトガモードをオフにすると、一体なにが起きるのか?
その驚きの製品というのが「ユニ アルファゲル スイッチ」(以下、スイッチ)である。
ちなみに「アルファゲル」というのは、グリップに衝撃吸収素材である「α GEL」を採用した、これまた三菱鉛筆の人気シリーズ。2010年には、両者を合体させた「アルファゲル クルトガエンジン搭載タイプ」も発売されている。
今回発売されたスイッチは、つまり「アルファゲル クルトガエンジン搭載タイプ」のクルトガオフ機能付き、という立ち位置になるのだろうか。それにしたって、製品名にクルトガと一切入っていないのには、なにか意図的なものを感じる。
三菱鉛筆
ユニ アルファゲル スイッチ 0.5mm
1000円(税別)
先から何度も勝手に“クルトガ機能オフ”と連呼しているが、正しくは「クルトガモード」と「HOLDモード」が切り替えられる、という表現となっている。クリップを軸後方のロゴが見える位置にセットすると、芯が回転する「クルトガモード」、ロゴを隠す位置に動かすと、芯固定の「HOLDモード」として機能する仕組みだ。
ここで問題となるのが、芯が尖って均一な線が書きやすいんだから、クルトガモードのままでいいんじゃない? という話。逆に言うと、HOLDモードにするメリットってなんなの? ってことだ。
もちろん、HOLDモードにはきちんとメリットがある。書いても芯がカチャカチャと振動せず、安定した筆記感が得られるのである。実際に筆者も、シャープペンシルをメイン使いする中高生からも、「クルトガは書くとカチャカチャいうのが気になるから使わない」と聞いたことがある。あの書き味に苦手意識を持つ層が一定数いるのは、おそらく間違いないだろう。
クルトガは、芯を紙に押しつける力を利用してギアを回転させているため、どうしても芯が戻る際にカチャカチャというブレが発生してしまう。これにロックをかけて固定するのが、HOLDモードというわけ。
なので、クルトガモードからHOLDモードに切り替えると、「あっ、さっきまですごいカチャカチャしてたんだ!」と気付かされる。芯の微振動が完全に抑制されているので、落ち着いた書き味となるのだ。(要するに、普通のシャープペンシルなのだが。)
ところが、しばらくHOLDモードで書いていると、徐々に線が太くなってくるのが気になり出す。書き味の面でも、芯が偏減りしているのが違和感として手に感じられるはずだ。
もちろん、そういうときは軸を手の中で少し回転させて、自前で芯の偏減りを解消させてやればいいのだが……すっかりクルトガに慣れきった身だと、それもちょっと面倒くさいのである。結果として「あー、やっぱりクルトガって便利だな」なんて思ったり。
もしかして否定どころか、これによってクルトガの良さを再確認させるのが、三菱鉛筆の目論見だったりするのかもしれない。
普段は均一な線できれいな字が書きやすいクルトガモードがいいし、板書のように集中してガーッと早書きしたい場合はHOLDモードの安定感が欲しい。つまり、その時の気分次第でクルトガエンジンをオンオフできるのは、意外とアリなんじゃないだろうか。どちらにもメリットがある以上は、切り替えができるならそれだけお得ってことだし。
集中してガーッと書くといえば、そういった用途に、衝撃吸収素材のグリップはとても効果的だ。
スイッチのグリップは、アルファゲルシリーズの中でも人気の高い「かため」を採用している。握った指への当たりはフニッと柔らかだが、ほどよい反発感もあって、筆記中のブレが少ない。個人的にも、筆記具史に残る名品だと感じるほどに大好きなグリップである。
長時間筆記でも指が疲れにくいため、集中力も長続きする。モードを切り替えてまで筆記感に注意を払いたい、というタイプの人が使うシャープペンシルには、ベストな装備と言えそうだ。