他人のあくびを見ると、自分にもあくびがうつることがよくありますよね。同じことはライオンでも見られますが、なぜあくびの伝染現象がライオンにも起きるのでしょうか? 最新の研究によると、そこには社会的に重要な機能があるようです。
イタリア・ピサ大学の動物行動学者の研究チームは、南アフリカのブチハイエナの行動について研究を行っているときに、たまたまライオンが短い時間にあくびを繰り返していることに気付きました。
あくびには頭部への血流や脳の冷却を促進し、注意力を高める効果があるとされる一方、ヒトやサルなどの哺乳類、鳥類などの動物の場合は、社会的な目的であくびを行っている可能性もあります。そこで、集団で行動するライオンのあくびにも社会的な機能があるのではないか、と同研究チームは仮説を立てました。
彼らは2019年に19頭のライオンを4か月にわたり観察しました。その結果、あるライオンがあくびをすると、それを見た同じ群れの別のライオンが、あくびを見なかったライオンの約139倍の確率で3分以内にあくびをすることがわかりました。しかも、あくびが伝染したライオンは、最初にあくびをしたライオンが立ったり横になったりすると、あくびを見なかったライオンの約11倍の確率で同じ行動を取ることも判明したのです。
ライオンはオス1~2頭とメス5~6頭で群れを形成し、ともに狩りをしたり、子どもを育てたりします。そのため、仲間同士の繋がりはとても重要であり、あくびの伝染で社会的な結束力を維持しているのではないか、と研究チームは述べています。あくびによって生まれる同調行動によって、ライオンの絆は強くなっているのかもしれません。
この説は人間にも当てはまりそうです。あくびは心理的距離感が遠い人より、家族や友人などからのほうがうつりやすいという見方があるうえ、同調行動は相手との心理的距離を縮め、好感を与えやすいと言われています。このような機能は人間とライオンのあくびに共通していると考えられますが、このような観点から考えると、人類を含め動物はあくびを通して大事なサインを送っているのかもしれません。「あくびは不謹慎」とばかり言えませんね。
【出典】Grazia Casetta, Andrea Paolo Nolfo, Elisabetta Palagi, Yawn contagion promotes motor synchrony in wild lions, Panthera leo, Animal Behaviour, Volume 174, 2021, Pages 149-159, https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2021.02.010