数十年をかけて、数千~1万km以上の距離を移動するアカウミガメ。その長い年月と壮大な距離から、アカウミガメの移動は「失われた歳月」とも呼ばれますが、その行程や寒い海域での移動方法はほとんど明らかにされていませんでした。しかし、最近ついにアメリカの研究チームがその謎を解明しました。
日本沿岸の海域には3種類のウミガメが生息していますが、アカウミガメはそのひとつ。アメリカ、ブラジル、オーストラリアなど、日本の主に南側の太平洋沿岸を産卵地としています。日本の砂浜で生まれた場合、アカウミガメの子ガメは黒潮にのって太平洋を横断しながら、東へ向かい、メキシコ西部にあるバハ・カリフォルニア半島の沖合に辿り着きます。エサが豊富なこのエリアで十分に成長すると、再び太平洋を横断して日本を目指し、一生をかけて大移動を繰り返します。
しかし、太平洋には「イースタン・パシフィック・バリア」と呼ばれる冷たい海域が存在し、アカウミガメはそこを超えるものとそうでないものに大きく分かれます。研究者が長年知りたかったのが、この海域を、温度に敏感なアカウミガメがどうやって横断するのか? ということ。米国・スタンフォード大学などの研究チームは、衛星追跡デバイスをつけたアカウミガメ231頭を15年間に渡って追跡しており、収集したデータをさまざまな角度から分析することにしました。
日本を出発して、バハ・カリフォルニア半島まで辿り着いたのは6頭のみ。研究チームはこのカメについて調べたところ、初春に移動を行い、ほかのカメより温かい海の中を泳いでいたことが判明しました。さらに研究チームは、バハ・カリフォルニア半島に到着したアカウミガメの骨を観察。人間と同じように、カメの骨も食べ物の影響を受けるため、骨の特徴からアカウミガメがいつ頃、外洋から沿岸に辿り着いたのかを調べることができるのです。この分析を行なった結果、多くのアカウミガメが、海が温かい時期にこの半島に到着していたことがわかりました。
研究チームによると、この要因として考えられるのは、エルニーニョなどの温暖化で海面温度が上昇して「熱の道」ができたこと。この道は春後半から夏にかけて存在しており、それが現れる前にも、海面気温が数か月間暖かくなっていました。このような条件が重なり、アカウミガメやほかの生物はイースタン・パシフィック・バリアを通過できるようになったのではないか、と研究チームは見ています。
今回の研究では、バハ・カリフォルニア半島まで到達したアカウミガメはわずか6頭と数が少なかったことから、さらなる研究が必要となるですが、気候変動がアカウミガメなどの海の生物に、さまざまな影響を及ぼしていることが明らかとなりました。また、研究チームは、アカウミガメが、人間が意図しない別の種を漁獲する「混穫」に巻き込まれる可能性も指摘しています。海に浮かぶプラスチックゴミなども海洋生物存続の脅威になり得るでしょう。
現在、世界にいる7種のウミガメのうち、アカウミガメを含む6種が絶滅危惧種に指定されています。カメは長寿や金融の象徴と言われていますが、その存在は私たちの地球環境や気候変動への取り組みにかかっているのかもしれません。
【出典】Briscoe DK, Turner Tomaszewicz CN, Seminoff JA, Parker DM, Balazs GH, Polovina JJ, Kurita M, Okamoto H, Saito T, Rice MR and Crowder LB (2021) Dynamic Thermal Corridor May Connect Endangered Loggerhead Sea Turtles Across the Pacific Ocean. Frontiers in Marine Science. 8:630590. doi: 10.3389/fmars.2021.630590