海洋環境保全はサステナビリティの重要な課題の一つですが、米国では近年、海面の上昇を原因とする「ゴーストフォレスト」(幽霊化した森)が大きな問題になっています。最近では枯れたマツやヒノキから「木のおなら」と呼ばれる温室効果ガスが出ていることも判明しました。ゴーストフォレストで一体何が起きているのでしょうか?
まず、ゴーストフォレストについて簡単に説明します。地球温暖化が進み海面が上昇したことで、海水が陸地に侵入していく現象が起きています。沿岸や河口地帯にある森林でこのような現象が起きると、塩分を含んだ海水は樹木をゆっくりと時間をかけて蝕み、やがて枯れさせていくのです。畑に海水が侵入すると農作物が育たなくなってしまうのが塩害ですが、それと同じようなことが起きているのが、ゴーストフォレストなのです。
青々しい緑の葉を失い、弱々しく朽ち果てた木々が並ぶゴーストフォレストは、米国のバージニア州からマサチューセッツ州までの沿岸地域やミシシッピ川沿いの地域、ノースカロライナ州の海岸林などで発生しています。
植物の根は呼吸したり、微生物が二酸化炭素を排出したりするため、土壌は温室効果ガスを排出しています。それだけでなく、枯れた木々は分解されるときに温室効果ガスを空気中に送り出しているとも考えられています。しかし、ゴーストフォレストで見られる、このような温室効果ガス——通称「木のおなら」——については、まだ多くのことが明らかにされていません。
そこで、ノースカロライナ州立大学の研究チームが、ゴーストフォレストから排出される温室効果ガス(二酸化炭素やメタン、亜酸化窒素など)について調査を行いました。彼らは枯れた木々と温室効果ガスの関係を長年調べています。今回の研究テーマはズバリ、枯れた木々はコルクみたいに温室効果ガスを内側に封じ込めているのか、それとも逆にストローみたいに排出しているのか?
彼らは2018年と2019年に、ノースカロライナ州にある5つのゴーストフォレストで、土壌と枯れた木々のそれぞれから排出された温室効果ガスの量を測り、土壌と枯れた木々のどちらのほうが、より多くの温室効果ガスを空気中に送り出しているのかを比べてみました。
その結果、どちらの年でも、土壌から排出された温室効果ガスの量は、枯れた木々からの排出量の約4倍多いことが判明したのです。しかも、土壌に比べて排出量は少ないものの、枯れた木々も全体としては温室効果ガスの排出量に大きく影響していると研究者は指摘しています。
では、枯れた木々はコルクかストローのどちらなのでしょうか? 「それらは『フィルターとしてのストロー』だと思われる。温室効果ガスが枯れた木々を通じて空気中に移動しているからだ」と同研究チームのマルセロ・アードン准教授は述べています。
気候変動が進んで海面がさらに上昇すれば、このゴーストフォレストはさらに増えていくと予測されています。本来なら地球温暖化の防止に役立つ森林なのに、枯れてしまったら逆に温暖化を促進する原因になる……。海や沿岸のエコロジーを守るための行動が私たちに求められています。
【出典】
Martinez, M., Ardón, M. (2021). Drivers of greenhouse gas emissions from standing dead trees in ghost forests. Biogeochemistry. https://doi.org/10.1007/s10533-021-00797-5
Sacatelli, R., Lathrop, R.G., and Kaplan, M. (2020). Impacts of Climate Change on Coastal Forests in the Northeast US. Rutgers Climate Institute, Rutgers University. https://doi.org/doi:10.7282/t3-n4tn-ah53