もうすぐ3歳になる姪っ子は、アンパンマンが大好きです。テレビ電話をしていると、アンパンマンのキャラクターが描かれた本を持ってきてくれるので「アンパンマンどこにいる?」と聞くと、その中から「これ〜」と指をさして教えてくれます(超かわいい!)。
今も昔も子どもたちに大人気なアンパンマンを生み出したのは、ご存知やなせたかしさん。絵本「あんぱんまん」が発刊されたのは50歳を過ぎてから、アニメ化されたのも70歳を過ぎてからとかなり遅咲きだったそうです。
2013年に94歳で亡くなったやなせさんですが、これまで残してきた言葉を読み返してみると、この混沌とした2021年を柔らかく包み込んでくれるように感じます。今回はそんな優しい言葉がたくさん詰まった『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP研究所・編、刊)をご紹介します。
絵本になる前の「アンパンマン」
「アンパンマン」と聞くと、アニメのイメージが強いですが、始まりは1973年に発刊された『あんぱんまん』という絵本でした。しかし、本当の始まりはラジオ番組の5分間コントだったと言います。そこに出てくる「アンパンマン」は、みんなの思い浮かべる、自分の顔をちぎってアンパンを分けてくれる正義のヒーローではなく、パンを配るおじさんだったのだとか。
当時のアンパンマンは、パンを配るおじさんだった。自分でパンを焼いているからマントも焼け焦げだらけだ。顔もハンサムじゃない。空を飛んで戦地に行き、お腹のあたりからアンパンを取り出して子どもたちに配る。でも、国境を超えるとき、未確認飛行物体と間違われて撃ち落とされてしまうというお話だった。
(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)
アンパンマン……! 庵野秀明監督に『シン・アンパンマン』なんて映画を撮って欲しい! と思ってしまいましたよ(笑)。最初のアンパンマンを知った上で、絵本やアニメを見ると、なんだか感慨深くなりますよ。
アンパンマンと他のヒーローとの違い
『やなせたかし 明日をひらく言葉』の中で、昨今のヒーローについてこのように語っている部分がありました。
戦争が終わると、アメリカからスーパーマンというヒーローが登場した。テレビ放送が始まると、月光仮面やウルトラマンなども出てきた。
けれど、彼らは飢えた人を助けに行くことは全然しない。
することといえば、敵対する悪人や怪獣をやっつけることだ。悪人は人をだましたり、殺傷したりする。怪獣は都市を破壊する。そういう奴らをやっつけると正義が勝ったということになるようだ。
(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)
この言葉を聞いてから、アンパンマンのアニメを見たのですが、めちゃくちゃかっこいい正義のヒーローに見えてしまいました。バイキンマンをアンパンチで山の向こうへ飛ばすけれど、それ以上のことはしないし、アンパンマンが何より優先しているのは「困っている子」で、自分を犠牲にしてでも安心できる優しい世の中にしようとする心に惚れます!
この優しさの背景には、やなせさんの戦争体験も大きく影響していると書かれてありました。詳しく知りたい方はぜひ『やなせたかし 明日をひらく言葉』でお確かめください。本当にアンパンマンの見方がガラリと変わりますから!
自分が小さいころは、「アンパンマンって弱いな〜」「バイキンマンの方が好き!」と思っていましたが、心が優しくいつもニコニコしているアンパンマンこそが正義のヒーローだ! と、36歳になってようやく理解することができました。ありがとう、アンパンマン!!
「よろこばせごっこ」をしよう
誰もが口ずさめるだろう『アンパンマンのマーチ』。やなせさんは、作詞するときにこんなことを思ったではないでしょうか。
人間は、宇宙的にいえば、ごく短い間しか生きはしないのだ。
つかの間の人生なら、なるべく楽しく暮らしたほうがいい。
それでは、人は何が一番楽しいんだろう。何が一番うれしいんだろう。
その答えが「よろこばせごっこ」だった。
(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)
すっかり暗い世の中になってしまいましたが、小さいころに見たアンパンマンのお話や歌の記憶は誰にでも残っているはずです。家族や同僚、友人や電車で近くに座っている人、誰でもいいので、喜ばせてあげることができれば、世界中が暗い時でも少しは明るくなるのではないでしょうか。そういえば、姪っ子が喜ぶことを考えている時の自分ってめちゃくちゃ穏やか!(笑)誰かを喜ばせようと考えたり行動したりすることも、そのリアクションも全部心の栄養になることばかりですよね。
もし最近、ちょっぴりお疲れでギスギスしているな〜と感じたら、自分の心の中にいるアンパンマンと相談しながら「よろこばせごっこ」してみるのはいかがですか?
【書籍紹介】
やなせたかし 明日をひらく言葉
著者:PHP研究所(編)
発行:PHP研究所
「アンパンマン」「てのひらを太陽に」の父、やなせたかし。幼少期は劣等感に悩み、戦争も経験、作品がブレイクしたのは七十歳手前と、その人生は順風満帆ではなかったという。逆境でも希望を胸に前へ進んできた彼の言葉からは、生きることのよろこびがビシビシと伝わってくる。本書では心に刺さるやなせ氏の言葉を精選。忘れかけていた大切なものが、きっと見えてくる一冊。
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