こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は子どものころからことわざ事典が好きでよく読んでいました。ことわざって不思議ですよね。「猫にカツオ節」はわかるとして、「猫に小判」なんて誰が考え付いて、どう広まったのか? 当時の流行語だったのかなあと勝手に想像してしまいます。
かくも奥深きことわざの世界
ことわざはリズムや語呂がいいものも多いですよね。「桃栗三年柿八年」「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」「急(せ)いては事を仕損じる」。必殺技の決めゼリフみたいで、口に出すだけでもちょっと楽しくなります(笑)。
『たぶん一生使わない? 異国のことわざ111』(時田昌瑞・著/イースト新書Q)は、各国・地域の特色が現れたことわざを集めた一冊。なるほどと感心するものや、「その視点はなかった」と驚くものまで、1ページにつき1つずつ解説されています。ときどき挟まるイラストも味があります。
著者の時田昌瑞さんは、日本ことわざ文化学会副会長。『岩波 ことわざ辞典』(岩波書店)、『辞書から消えたことわざ』(KADOKAWA)など著書も多く、日本のことわざ研究の第一人者として知られています。
聞いたら忘れられないフレーズ
111個の選択基準は、時田さんの趣味である骨董品の評価方法に準じて3つ。「古いこと」「レアなこと」「広い範囲からピックアップ」。なんと90余の言語・地域から選ばれ、さしずめレアなことわざオリンピックといったところでしょうか。
私が気に入ったのは、インドネシア・マレーシアのことわざ。「海の塩と山のタマリンドが鍋の中で出会う」。タマリンドは豆の一種で東南アジアでは調味料としてよく使われています。人間の縁の不思議さを表す言葉で、料理になぞらえているのが洒落たところ。対照的な性格ながら、なんだかんだで仲のいい夫婦がにぎやかに鍋を食べる食卓の光景が浮かぶようです。
もうひとつ、「アルマジロとアルマジロは甲羅を壊し合わない」(ベネズエラ)も、かわいらしいのに深いことわざ。仲間同士は危害を加えないという意味のほかに、自分の強みを活かした戦い方があるというニュアンスも感じられます。この項目に添えられている、トンカチを構えてにらみ合うアルマジロのゆるいイラストも、フレーズのユニークさを引き立てています。
演劇のセリフかと思う格好いいことわざが、古代ギリシアの「おまえは自分の頭上に月を引き下ろす」。神話が根付いていた古代ギリシアらしさが出ています。自分で禍いを呼び寄せる「自業自得」のような意味ですが、本当に月を頭上に引き下ろせたら、それはもうマンガのヒーローです(笑)。
そして、お酒を飲み過ぎたときにつぶやきたいのが「ワインは年寄りのおっぱい」。スイスに伝わる酒の素晴らしさを讃えることわざで、赤ちゃんのミルクと比べているところがクスッとさせられます。
読んでいて思うのは、言い回しは世界各国でバラバラでも、世の中の本質を突いていることわざが多いということ。人間の思考や行動は地球のどこでも大差ないんでしょうね。短い言葉ながら情景がパッと浮かぶのもことわざのすごさです。使い道はないかもしれませんが(笑)、ことわざで世界一周をしてみてはいかがでしょうか?
【書籍紹介】
『たぶん一生使わない? 異国のことわざ111』
著者:時田昌瑞
発行:イースト・プレス
ことわざの数だけ世界がある!「マングース殺して後悔(ネパール)」「苦労はお前の、金なら俺の(モンゴル)」「ロバをしっかり繋げ、後はアッラーに任せよ(トルコ)」「ウオトカよ、こんにちは、理性よ、さようなら(ジョージア)」「ワインは年寄りのおっぱい(スイス)」「大きなジャガイモを集めるのが最高(アイルランド)」などなど、ユニークな世界のことわざをイラストとともにご紹介!日本では通じないけれど、あなたも使ってみたくなるかも?
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。