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2021/7/18 6:30

本当は石油王なんていない!? 中東一有名な日本人サラリーマンが伝えるアラブ世界~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。アラブと聞いてまっさきに思い浮かぶのが“アラブの石油王”。お金という概念すら持ち合わせていないような大金持ちが、マンガやゲームにたまに出てきますよね。

 

ところが今回の新書を読んで、「実はアラブに石油王はいない」と知り、ステレオタイプの思い込みだったと気付きました。まあ、外国の方にはいまだに日本にニンジャやサムライがいると思われていることがありますが、実際にはいないですしね(笑)。

 

知らなかったアラブ世界

私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(鷹鳥屋 明・著/星海社新書)は、アラブ世界の文化や暮らしが見えてくる一冊。

 

著者の鷹鳥屋明さんは、日本の企業で働くサラリーマンで、版権やIP(知的財産)関連の事業戦略を担当し、日本のコンテンツを展開したり、グッズを作って中東などに売ったり……といった仕事をしているそうです。

 

もともとは大学で東洋史を専攻していた鷹鳥屋さん。メーカーに入社して5年目ほどのときに、日本の外務省とサウジアラビア政府組織による外交イベント「日本サウジ青年交流団」に参加し、民族衣装一式を買ったのが人生の転機。

 

大雪が降る東京で民族衣装を着て雪の中で遊んでいる写真をインスタグラムに投稿したところ、アラブ圏の人たちに大受け!「日本の風景×民族衣装」の投稿を繰り返すうちに、アラブ人SNSフォロワー約10万人という「中東きっての有名日本人サラリーマン」になったのです。

 

王族とオタク論争で大ゲンカ!?

そんな鷹鳥屋さんのもとには中東の要人からさまざまな依頼が舞い込んできます。第1章「アラブの王族について」は、ある日突然「オレのボスであるサウジアラビアの王子があなたに会いたいと言っている」と、怪しいメールが届いたところから始まります。

 

王子の部下を名乗るのはアメリカとサウジアラビアを拠点にするラッパー!? 偽メールかもしれないと疑う鷹鳥屋さんですが、王子に招待されたモロッコのホテルで待っていたのは……。この章では本物だったサウジアラビアの王子との交流エピソードが語られます。

 

モロッコの街をポルシェで爆走し、ナイキショップで同行者全員分の靴を大人買い。突然店員の女性が気に入り、告白してふられる(笑)、という天衣無縫な行動も王子っぽいです。

 

アラブに私たちが想像するような石油王がいない理由もこの章で明かされます。中東各国では石油や天然ガス企業の多くは国有企業で、社員は国家公務員に近い立場になるため、「石油王」の概念はないとか。石油で得た収入は国庫を通じて、王族だけでなく国民全体に分配されるのが一般的です。

 

第3章は「アラブにおける日本文化」。1980~90年代に『キャプテン翼』や『UFOロボ グレンダイザー』といったアニメが中東のテレビで放映され、熱狂的なファンを生みました。

 

特に『グレンダイザー』は、テレビ見たさに街から子どもが消えたとの逸話があるほど。第1章で登場したサウジアラビアの王子も、グレンダイザーのフィギュアをプレゼントされて大喜びしています。

 

ちなみに当時なぜ日本のアニメが中東で放映されていたかというと、対欧米感情が悪化していた折、隙間を埋めるような形で日本の作品が導入されたから。国際情勢が文化にも影響を及ぼしているのですね。

 

鷹鳥屋さんとカタールの王族が「アニメ『スレイヤーズ』の続編『スレイヤーズTRY』と『スレイヤーズNEXT』、どちらが作品として優れているか」という議論で白熱し、取っ組み合いのケンカに発展したというエピソードも笑ってしまいました。作品を愛するオタク心は国籍も身分も超えて世界共通ですね(笑)。

 

ほかにも、テレビ番組『風雲!たけし城』の意外な人気、惣菜パンや焼きそばパンを出す日本風パン店の大ヒットなど、思いもしなかった日本文化が中東で受け入れられている様子が書かれています。

 

深くアラブを理解する鷹鳥屋さんの親しみやすい説明で、アラブから見た日本、日本から見たアラブ、両面が把握できる本書。「アラブといえば石油王!」とすぐに思ってしまう方は、等身大のアラブ世界をのぞいてみては?

 

 

【書籍紹介】

私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?

著者:鷹鳥屋明
発行:星海社

豪奢な石油王、ラクダとともに生きる砂漠世界、はたまた暗殺者が横行する危険地帯──これらステレオタイプともいうべき「中東」「アラブ」へのイメージは、残念ながら日本において現実の中東世界への誤解や偏見の根源となっています。本書は、中東に住む人々や文化への敬意と理解によってはからずも“中東きっての有名日本人”となった著者が、サウジアラビアの王族や中東有数の財閥子息たちとのお付き合いを通じて身を以て体験した耳を疑うような数多の実話とともに、私たち日本人が知らない魅力の溢れる中東世界へと誘います。著者所蔵の貴重で豊富な現地写真とともに、いざ等身大(?)のアラブ世界へ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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