最近、無観客試合に関する研究が世界各国で行われていますが、先日発表された論文によると、観客の有無だけでなくジェンダーによっても、アスリートのパフォーマンスに違いがあるそうです。観客不在の試合では、男性と女性の選手にどのような変化が起きるのでしょうか?
有観客と無観客で、アスリートのパフォーマンスにどのような違いがあるのか? 独マルティン・ルター大学ハレ・ウィッテンベルク・スポーツ科学研究所のチームがこの問題に挑みました。
彼らは、クロスカントリースキーと射撃を組み合わせた「バイアスロン」の、ワールドカップの結果を分析に使用。その中から比較的短距離コースをスキーで走行し射撃を行う「スプリント」の種目と、スキーの距離がスプリントよりやや長く、射撃を行う回数も多く、男女の選手が一斉にスタートする「マススタート」の2種目を取り上げました。そしてスキーのタイムと射撃の成功率について、新型コロナウイルスが発生する前で有観客だった2018年〜2019年とコロナ禍で無観客だった2020年を、男女別に比較しました。
その結果、有観客の場合、男性選手はスキーのタイムが早くなった一方、射撃の成績は悪くなりました。女性選手は有観客でスキーのタイムが遅くなりましたが、射撃の得点率は5%高くなり、男女で異なる結果が出たのです。
クロスカントリースキーは主にスタミナが求められる一方、射撃は並外れた集中力と精神力が必要で、2つはまったく異なる競技です。アスリートのパフォーマンスが観客の有無で大きな影響を受けることは納得できますが、競技の種類によっても、その結果はまた違うものになるようです。
特にクロスカントリースキーのタイムに観客の有無で差が出たことについて、この研究チームはジェンダーに基づいた固定概念が働いている可能性があると推測しています。例えば、観客に見られることで男性選手は「(自分は男だから)体力があるのだ」という意識が強くなり、それがパフォーマンスに影響しているのではないか、というのです。
無観客試合がアスリートに与える心理的な影響については、すでにさまざまな研究が行われていますが、その多くはジェンダーの視点が欠けているとか。無観客試合の影響を調べるなら、ジェンダーの区別も考慮したほうがいいかもしれません。
【出典】Amelie Heinrich, Florian Muller(※1), Oliver Stoll, Rouwen Canal(※2)-Bruland. Selection bias in social facilitation theory? Audience effects on elite biathletes’ performance are gender-specific. Psychology of Sport and Exercise, 2021; 55: 101943 DOI: 10.1016/j.psychsport.2021.101943
(※1)Mullerのuは、ウムラウト付きが正式な表記です。
(※2)Canalのnは、ティルデ付きが正式な表記です。
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